5 ティアマトの迷い1
SIDE ティアマト
「ふう……」
ティアマトはため息交じりに歩いていた。
「私としたことが……まるで年ごろの娘のように動揺してしまった。情けない……」
自己嫌悪が出ていた。
「だいたいディヴァインがあんなことをいきなり言うから……誤解してしまったんだ……っ。あー……緊張した」
てっきり魔王が自分を夜の相手に誘ったのだと早合点してしまった。
今もまだ心臓が鼓動を速めていた。
「ええい、鎮まれ……」
ティアマトは胸元を手で押さえ、念じる。
もちろんディヴァインに対して恋愛感情などない。
彼はおそらく――父の仇だ。
父を殺し、力を奪った男だと目星をつけている。
今はその証拠を探っている途中だった。
とはいえ、現状で彼は魔界の平定に向けて、少しずつ動いている。
今のところは側近を増やし、さらにあの豪竜ガーンドゥと同盟まで結んでみせた。
その功績に関しては認めざるを得ない。
「父のことがなければ……彼に力を尽くすのだが」
ディヴァインが父の仇なら、絶対に許すわけにはいかない。
現状はまだ魔界の平定のために利用しておき、いずれは寝首をかいて殺す――。
それがティアマトの目論見だ。
「おのれ、ディヴァインめ……私の心を乱すとは……」
怒りの向けどころは結局のところ魔王になるのだった。
「ん、ディヴァインって言った? 魔王様のことを呼び捨て? んん?」
いつの間にかメルディアが目の前にいた。
「うっ、聞いていたのか……」
「ふふーん。聞かれたくない話ならボーッとして独り言でつぶやいちゃ駄目だよ、ティア」
彼女が笑う。
「不覚だ」
「で、どうして魔王様を呼び捨てにしてたの? 忠臣みたいな顔して、意外と魔王様に不満を抱いちゃってたりする?」
メルディアは興味津々といった様子で聞いてきた。
「ふ、不満は……」
当然ある。
いや、不満というよりは殺意や復讐心だが。
「あるわけがないだろう。私はちゃんと『ディヴァイン様』とお呼びした。お前が聞き逃しただけだ」
多少強引ではあるが、相手の聞き間違いとして押し通すことにした。
「んー……確かに呼び捨てにしてたと思ったんだけどなぁ」
「聞き間違いだと言っているだろう。私は忙しいので失礼する」
「なーんか逃げるみたいだね~」
背を向けようとしたところで、メルディアがニヤニヤと笑った。
「絶対なんか隠してる」
「私は魔王様に忠誠を誓っている。そして、この魔界のために命を賭して働くつもりだ。亡き父のためにも、な」
「亡き父?」
メルディアの表情が変わった。
「先王のディルダイア様って亡くなられたの?」
「っ……!」
しまった――と、ティアマトは表情をこわばらせた。
先代魔王はあくまでも封印されているというのが公式発表だ。
実際、ティアマトも父の死の確証はつかんでいない。
あくまでも父が死んだ――ディヴァインに殺されたというのは、彼女の推測の域を出ない。
ただ、推測であれ『先代魔王が死んだ』という前提で話をするのは重大な不敬罪となる。
「ふーん……?」
メルディアはますますニヤニヤとしてティアマトを見つめてきた。
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