3 歓迎の宴3
「――ふう」
俺は小さく息をついた。
気持ちを切り替えよう。
今感じた喜びなど、所詮は一時的な気の迷いだ。
そうに決まっている。
今はただ、己のやるべきことだけに集中しよう。
そうすれば、いずれこんな気持ちは消えるはずだ。
俺にとって、魔族など気に掛ける価値もないただの駒なんだから。
「そう、すべては俺自身の目的のために……」
復讐の、ために。
『やはり、お前は――元人間か』
突然、背後から声が響いた。
「……!?」
驚いて振り返ると、そこには光り輝く玉が浮いている。
そこから聞こえた声は――豪竜ガーンドゥのものだった。
「ガーンドゥ……?」
『心配するな。お前以外の魔族には聞こえないように、一種の通信魔法でお前の心に直接話しかけている』
光の玉から声が聞こえた。
つまり、この玉は通信魔法の中継器のようなものか。
「お前も心の中で念じるだけで我に話しかけることができる』
俺は否定も肯定もしない。
『まあ、魔族の王たる存在が「元は人間だった」などと知られれば、配下の忠誠にかかわってこよう。言えるはずもないか』
『なぜ俺が元人間だと思うんだ、ガーンドゥ?』
俺は心の中で話しかけてみた。
『魂だ』
ガーンドゥが即答した。
どうやら、俺が念じると向こうに話が通じるのは確かなようだ。
『お前の肉体は確かに魔族……だが魂は違う。魔族の魂ではない……』
『魂……』
俺はうなった。
『お前にはそれが見えるのか?』
『上位の竜種だけに備わった能力だ。魔族や人間には無理だろう』
と、ガーンドゥ。
『最初に会ったときは気づかなかった。魂のかなり深い部分まで魔族としての魂が浸透している。だが、底の底にわずかな人間部分が存在していた。先ほどお前が側近と話しているときに一瞬――見えたのだ』
『魂の底の底、か』
ハッタリの可能性もあるが、おそらくガーンドゥは事実を語っているのだろう。
奴には魂を解析する能力があり、俺の魂の中に人間の部分が残っている――と。
『魂を見るという能力……にわかには信じられんな。返答は差し控えさせてもらう』
俺はまた否定も肯定もしなかった。
まあ、ほとんど答えを言ったようなものだが、奴が嘘をついている可能性もあるからな。
『案ずるな。お前が元人間だと糾弾したいわけではない』
ガーンドゥが言った。
小さく笑ったようだ。
『元人間であろうと、現在も人間の部分が残っていようと……そんなことはどうでもいい。お前という魔族の強さを、我は認めた。手を組んでもよいと思ったのだ。だから、この話はただの助言の類と受け取ってほしい』
『助言だと?』
『人間の魂はもろく、弱い。お前は確かに強いが、人間部分が弱点にならぬよう気を付けることだ』
ガーンドゥが告げる。
『お前の敵は人間なのだろう? そこを突かれないようにな――』
――肝に銘じておこう。
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