1 夜のひととき
ライシャムへの尋問を終え、俺は私室に戻った。
「ふう……」
椅子に座り、深々と息をつく。
「まず一人――」
ライシャムは今後、半永久的に苦痛と絶望の日々を送るだろう。
俺を裏切り、妹を殺し、故郷を滅ぼした連中に対する正当な報いだ。
とはいえ、S級はまだ21人残っている。
奴ら全員に報いを受けさせ――特に、妹を直接手にかけた奴に裁きを下さなければ、俺の復讐は終わらない。
「魔王様」
と、私室のドアがノックされた。
この声はティアだ。
「入れ」
許可すると、ドアを開いてティアが入ってきた。
「夜分に申し訳ございません」
「いや、何かあったのか?」
「……魔王様こそ」
ティアが俺を見つめる。
「あのS級冒険者との戦いで、魔王様のご様子に少し違和感がありましたので……」
「何?」
「妙にあの男にこだわっていたように思います。何か因縁でも?」
「奴らは人間側の最大戦力だ。こだわるのは当然だろう」
俺はふんと鼻を鳴らした。
「そんなことを言いに、わざわざ来たのか?」
「結局、あなたが人払いをした理由を聞いておりません」
「……ああ、それは奴が奥の手を隠し持っている気配があったからだ」
俺はとっさに思いついた理由を語った。
「S級冒険者は油断がならない強敵ぞろいだ。その奥の手が解放されれば、こちらの兵力にも大きな被害が出るだろう。だから下がらせた」
「兵を気遣って、ということですか」
「お前のこともだ、ティア」
俺は彼女を見つめた。
「……まあ、結果的に【天使兵器】の力が予想以上に強力で、兵を失ってしまったのは、俺は失態だ」
「魔王様……」
「ただ、お前を守ることができたのはよかったよ」
微笑む俺。
「なぜ……私に優しくしてくださるのですか……?」
ティアが唇をかみしめた。
体中を震わせているのは泣いているのか、それとも――?
「ああ、せっかく来てくれたんだし、一つ相談してもいいか?」
「はい、なんなりと」
ティアは直立不動の姿勢に戻った。
「もっと楽にしていいぞ。俺としても、お前は現状で一番相談できる相手だ。いちいちかしこまられると、俺としても気を張ってしまう」
「……分かりました。では礼儀の範囲内で、もう少しだけ楽にさせていただきます」
「それでいい」
俺は微笑み、本題を切り出した。
「俺としては魔界にとって最大の脅威といえるS級冒険者たちを討ちたいと考えている。だが、一方で魔王軍の拠点というべき魔王城は破壊されてしまった。しばらくは地盤を固めるか、一気にS級冒険者のいる地上侵攻を目指すか――お前はどう思う、ティア?」
「現状の魔界は、先王様が行方知れずになり、またディヴァイン様が新たな魔王に就任したことは十全に周知されておりません。そのため、非常に不安定な情勢となっています」
ティアが言った。
「まずそれを安定させることが最優先かと」
「魔界の情勢をある程度安定させなければ、人間界に戻ることも、S級冒険者たちを討つことも、到底叶わない――か」
俺は考えを整理する。
「よし、まずは魔王城の修復作業だ。それと並行して、かつての幹部たちを俺の陣営に取り戻せるよう動く。ティア、お前にも動いてもらうぞ」
「無論です」
うなずいたティアは俺をジッと見つめた。
「ところで魔王様、恐れながら一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ」
「先ほど魔王様は『人間界に戻る』と仰いました。ですが、魔族にとって人間界とは『行く』ところであって『戻る』場所ではないように思います。なぜ、そのような言い回しを?」
ティアが俺を見つめる。
「ただの言い回しの問題だろう。気にするようなことか」
「いえ。ただ、先日のS級冒険者ライシャムとの戦いにおいても、魔王様と彼との会話に意味不明な内容が混じっておりましたので……」
ティアの眼光が鋭くなった。
「それに合わせ、浮かんだ疑問です。お気に障りましたら申し訳ございません」
一礼しながら、ティアはあいかわらず鋭い目で俺を見つめている。
こいつ――。
俺を疑っているのか?
俺が元人間だと感づいているのか?
それとも……。
「俺はもともと人間界に侵攻する途中だった」
「えっ」
「記憶が戻り始めたのさ。人間界を攻める途中で、S級冒険者に後れを取り、魔界まで追い返されてしまった……その無念を晴らすために、俺は人間界に戻らねばならん」
嘘と事実を織り交ぜながら、俺は朗々と語った。
こういうときは中途半端に誤魔化すのが一番まずい。
堂々と言いきった方がいい。
「人間界への討伐軍の一員、ですか」
ティアがうなずいた。
「なるほど、得心が行きました」
「必ず戻る――いや、必ず行く。あの場所へ」
俺はティアに力を込めて告げた。
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