6 天使兵器
「神が魔を滅ぼすため、人間に与えた最強の兵器――それが【天使兵器】だ。高位の僧侶だけが召喚できるそれを、私はソルから託された」
ライシャムが笑う。
「ソルとしてもできれば自分で来たかったのだろうが――私だけが魔界に侵入する【資格】を得られたからな。彼の代わりに私が【天使兵器】を操ることにしたのだ」
「魔界に侵入する【資格】……? どういう意味だ」
俺はライシャムを見据えた。
「知る必要はない。さあ、やれ――【天使兵器】」
にいいいっ。
天使兵器が赤い口の端を吊り上げ、笑みを浮かべた。
ゾッとするほど醜悪な笑みだった。
くおおおんっ。
楽器の調べのような美しい声。
その声とともに、黄金の光線が一直線に地表を駆け抜けた。
ごがあっ!
周囲の壁が一瞬で吹き飛ぶ。
その向こう側に――光線の軌道上に、先ほどの人払いで待機していた兵たちがいた。
「避けろ!」
俺は叫んだが、すでに遅かった。
ごうっ……!
一瞬にして五百の兵すべてが閃光に飲みこまれ、跡形もなく消滅する。
「はははは、私のアンデッド兵を消してくれたお返しだ」
ライシャムが愉快げに笑った。
「魔王様!」
と、爆炎の向こうからティアが飛んできた。
彼女も人払いで待機させておいたが、幸いにも光線には巻きこまれなかったようだ。
「奴が切り札を隠し持っていた。今から破壊する」
俺はティアに言った。
「敵兵器の戦闘能力は未知数だ。俺から離れるな、ティア」
「承知いたしました」
うなずくティア。
「破壊するだと? お前たちごときでは傷一つ付けられんぞ」
ライシャムが勝ち誇った。
「いい気になるなよ」
俺は奴をにらむ。
「【ファイアアロー】」
炎の矢を生み出し、放った。
その数はおよそ3000。
通常なら数本から十数本程度を生み出すこの魔法を、俺は魔王の魔力によって大幅に本数を増やしていた。
「なっ、なんだ、あの本数は――」
ライシャムが息を飲む。
3000の炎の矢は巨人を取り囲み、全方向から一斉に襲い掛かった。
爆発――。
赤い炎に包まれる巨人。
並のモンスターなら消し炭すら残らないところだが――、
「効いていない……?」
俺は眉を寄せた。
あれだけの数の炎の矢を受けながら、白い巨人はダメージらしいダメージを受けていないようだった。
「ははははははは! さすがは【天使兵器】だ! 魔王の魔法すら問題にしないとは!」
ライシャムが哄笑する。
「これで形勢逆転だな! やれ、【天使兵器】!」
くおおおおおおおんっ。
ライシャムの声と同時に、【天使兵器】が歌った。
さっき兵士たちを消滅させた攻撃が来る――。
「ティア、俺の側に寄れ」
彼女を片手で横抱きにすると、
「【シールド】」
俺は防御呪文で閃光を防いだ。
「魔王様……」
ティアがつぶやいた。
俺を見つめる瞳が不安げに揺れている。
「あの巨人の魔法防御はおそらく数百層。並の魔法では本体に損傷すら与えられないかと」
「数百層か……」
俺にはそこまで感知できないけど、ティアはさすがに感知能力が高い。
「なら、もっと威力を上げるか――」
思案するが、周囲への巻き添えを考えると、躊躇してしまうのも事実だ。
ここには俺の本拠地である魔王城があるからな。
攻撃の余波で城まで壊すのはまずい。
「よし、近接戦闘で破壊するとしよう」
とりあえず方針転換だ。
「近接戦闘……って、あの巨人とですか!?」
ティアは驚いた様子だ。
「【帝極斬天剣】」
俺の右手に黒い魔力の輝きがあふれる。
その輝きが収束し、黒曜石を思わせる漆黒の大剣へと変化した。
魔王の魔力を凝縮し、物質化して作った剣――まさに魔剣だ。




