4 魔王VSネクロマンサー2
「この私の改造アンデッド軍団が……まったく歯が立たないとは……」
ライシャムは呆然とした顔だった。
自信を打ち砕かれたか。
別に奴が雑魚というわけではない。
現に幹部であるメルディアが劣勢だったし、俺が人間だったころ、奴が魔族の軍団を蹴散らすのを何度も見ている。
史上最強のネクロマンサーという評判は伊達ではない。
ただ――俺の魔力がそれすらも圧倒している、というだけだ。
「どうやら強さに差がつきすぎたらしいな。人類最強戦力のS級冒険者様も、魔王の力には遠く及ばない」
「ち、違う……前の魔王は、ここまで圧倒的じゃ……」
ライシャムは青ざめた顔でうめいた。
「私一人でも、ある程度は渡り合えた……なのに、なぜ――」
「俺は先王ディルダイアとは違う」
俺はライシャムをにらんだ。
「魔王軍を甘く見ていたようだが、これからは違う。俺の軍団がいずれお前たちS級すべてを滅ぼす――」
そう、まずは魔界で最強の軍団を結成し、そのうえで封印された地上への通路を開き、奴らの元へ侵攻する。
そして、一人残らず討ち滅ぼし、妹の仇を取る――。
「その第一歩がお前だ、ライシャム」
俺は人差し指で奴を指し示した。
「【縛鎖】」
初級の拘束呪文を発動する。
俺の指先から放たれた黒い鎖が奴の体を縛り上げた。
「う、動けない――」
「お前に質問する」
俺はもがくライシャムを見下ろした。
さあ、尋問の時間だ。
「ティア、人払いを。これから俺は、奴と二人っきりで聞き出したいことがある」
「人払い……ですか?」
ティアは戸惑った様子だった。
「早くするんだ」
俺はティアを急かした。
自分でも気が逸っているのが分かるが、抑えられない。
「――承知しました」
ティアは一礼し、周囲から兵たちを遠ざけた。
「ティア、別命あるまで兵たちと待機していろ」
「魔王様――」
ティアの表情がこわばった。
「なぜですか?」
「何?」
「人間と一対一で話したいこととはなんでしょうか? 他の者には聞かせたくない話ということでしょうか?」
ティアの表情が険しい。
「――不服か?」
「この私まで下がらせるというのは、信頼されていない証だと感じてしまいます」
俺の問いにティアが言った。
「……お前のことは信頼している、ティア」
「そうでしょうか?」
ティアの眼光が鋭くなる。
「私に――何か隠していることがありませんか?」
――こいつ。
漠然とした不安と、そして疑念がこみ上げる。
俺はティアの父であり先代魔王であるディルダイアを、この手にかけている。
それを――ティアは感づいているんだろうか?
あるいは何か確証を得た……?
「理由については……いずれ機会を見て話そう。お前の方こそ、俺を信じられないか?」
「……私は魔王様を信じております」
俺の言葉にティアはうつむいた。
「何かあれば、お前を呼ぶ」
「……承知、しました」
ティアはうなずき、下がっていった。
おそらく納得したわけではないだろうが――今はこうするしかない。
俺はあらためてライシャムと向かい合った。
さあ、今度こそ尋問の時間だ――。
「お前たちは全員でコレット村を襲ったな? そのときにレイという少女を殺した者がいるはずだ。そいつは誰だ?」
言いながら、頭に血が上っていくのを感じる。
あのときの怒りを、絶望を、思い起こす。
俺にとって、かけがえのない場所。
そして俺にとって、かけがえのない存在。
それらをすべて奪われたときのことを――思い出す。
「コレット村……レイ……?」
ライシャムはキョトンとしていた。
その表情が、俺の怒りを煽った。
「お前か……?」
ギリッと奥歯を噛みしめながら、俺は魔力を強めた。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……」
ライシャムが絶叫する。
奴を縛っている魔力の鎖を思いっきり締め上げたのだ。
骨が何本か折れたはずだが、もちろんこの程度で済ませるつもりはない。
妹が、村のみんなが受けた苦痛と絶望を――数千倍、数万倍にしてお前にも味わわせてやる。




