2 生贄にされた俺、魔王に転生する2
旧1話の改稿版、中編です!
魔王封印装置――。
正確には、魔王の固有魔力パターンを解析し、完全に無力化する魔導装置。
また、魔王軍は魔王の魔法によって人間界への通路を作り出し、侵攻してくるため、魔王の魔力自体を封印すれば、魔王軍が新たに人間界に現れることはなくなるという。
実質的には、魔王を封印するのと同時に、魔界と人間界との扉を封鎖する装置……ということになる。
「この装置は生贄を必要とするんです。その生贄は魔族を打ち倒せるほどの強者でなければならない――つまり、僕らS級冒険者の誰かということですね」
まさか、それが俺……?
「くっ、誰か――」
俺は助けを求めて、他のS級を見つめる。
大半はニヤニヤと笑っている。
ただ、一部には沈痛な表情の者もいる。
あるいは、まったく興味がなさそうな者もいる。
反応は様々だけど、誰一人俺を助けようとはしない。
みんな、どうしたんだ――?
「オリヴィア――」
最後にオリヴィアに視線を向けた。
すがるような気持ちだった。
頼む、君だけでも俺を助けてくれ――。
「は? こっちジロジロ見んなよ」
オリヴィアは今まで聞いたこともないような口調で、俺をにらんだ。
「うっとうしいんだよ。今までちょっと優しくしてやったくらいで、いちいち懐いてくんなよな」
「オリ……ヴィア……?」
「お前を罠にかけるために油断させてたんだよ。でなけりゃ、このあたしがお前みたいな童貞臭いガキを相手にするかよ」
オリヴィアが鞭を振るった。
ごうっ!
最上級打撃スキル【竜閃牙】。
その先端部は優に音速を超え、亜光速にまで達する。
近接戦闘最強と呼ばれるオリヴィアの必殺スキルだ。
「がはっ……」
先端部に打ち据えられ、俺は倒れた。
肉が大きくえぐれ、骨が折れている。
激痛で意識が飛びそうになる。
「おらっ、こっちに来んなよ、雑魚が! おらっ、おらっ!」
さらに二撃、三撃――。
手足も同様に折れて、激痛が……やがて、その痛みすらなくなり、全ての感覚が無になっていく。
「君の命と引き換えに人間界と魔界の扉は封じられる。これにて人間と魔王軍の戦いは終結だ――」
最後にS級1位のソルが謳うように告げて。
俺の意識は――完全に途切れた。
深い……深い闇の中に落ちていくような感覚。
どこまでも深い、海の底へ沈んでいくような感覚。
「どこだ、ここは……?」
気が付くと、俺は真っ白な空間の中に浮かんでいた。
体がふわふわ浮いているような感覚があった。
体を見下ろす。
いつの間にか折れた手足は元に戻っていた。
えぐれた肉も、破れた服も全部元通りだ。
「助かった……のか……?」
ホッと安堵する。
が、次の瞬間――、
『生贄の意識が覚醒しました。これより儀式を開始します』
『生贄が捧げるものは「苦痛」と「絶望」。その対価として魔界の扉及び魔界の王を「封印」します』
「えっ? えっ?」
突然響いた声に俺は戸惑いを隠せない。
「おい、どういう意味――ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
いきなり全身を激痛が貫いた。
体中の神経という神経をすべて刺激され、痛みだけを抽出されたかのような信じられない激痛だった。
フッと気を失う。
そして目を覚ますと、
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
また、さっきの激痛がやって来る。
意識を失っては、また激痛が。
また意識を失っては、激痛が。
その繰り返しだ。
何日も、何週間も、何か月も、何年も――。
もしかしたら、この場所では時間が止まっているのかもしれない。
俺は永遠とも思える激痛を受け続ける――。
……………………。
………………。
…………。
……意識が薄れ、そしてまた覚醒する。
――そいつは、突然現れた。
「ひどい有り様だな」
声とともに、誰かが近づいてくる。
かつ、かつ、という足音。
激痛でかすむ視界に、すらりとしたシルエットが映る。
「お前は――」
気が付けば、目の前にはざんばらにした黒髪の男がたたずんでいた。
外見は四十代くらいだろうか。
精悍な顔立ちが俺を見据えている。
「我はディルダイア」
男が名乗る。
「っ……!?」
俺は絶句した。
魔王の姿を直接見たことはない。
けれど、魔王軍との戦いを通じて魔王の声を聞いたことは何度かあった。
確かに――聞き覚えのある声だ。
「同じ術式で封じられた我と君は、つかの間だがこうして意思のやり取りをすることができる」
魔王ディルダイアが言った。
「君は間もなく死ぬ。苦痛と絶望で意識が破壊され、生ける屍となるだろう」
「生ける……屍……!」
俺はゴクリと息を飲んだ。
同時に、強烈な怒りが湧き上がって来た。
「こんなところで死にたくない――!」
奴らに利用され、道具として扱われて死ぬ。
そんな人生は真っ平だ。
奴らに相応の報いを味わわせてやりたい。
奴らに復讐してやりたい。
俺の心はそんなドス黒い感情で満たされていた。
「生きたいか?」
「……生きたいに決まっている。けど、それをお前に話したところでどうにもならないだろう」
「そうでもないさ。我は君を救う力を持っている」
魔王が優しく微笑んだ。
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