11 第三の手駒を得るために
「魔王様、いいね~。ボクのこと、ちゃんと理解してくれてるじゃん!」
メルディアは上機嫌だ。
「俺に対する態度は問わない。その代わり、結果を示せ」
俺は冷然と告げる。
「役に立たない者を飼っておくゆとりはないからな。結果を出し続ける限り、俺はお前の素行を問わない。もちろん、ティアに関しても同様だ」
「りょーかい!」
「魔王様のお役に立てるよう、全力を尽くします」
メルディアが元気よくうなずき、ティアは恭しく礼をした。
「ただ、お前たち二人では足りない。他にも力ある幹部が必要だ。メルディア、お前には心当たりがないか?」
「ん? 幹部になってくれそうな強い魔族を知っているかってこと?」
「そうだ」
「んー……一人いるよ」
メルディアがピンと人差し指を立てた。
「魔騎士アリアンロッド。魔王軍最強の騎士――」
謳うように告げる。
「でもコミュニケーションが超苦手らしくて不愛想なんだよね。ボク、あいつ嫌い」
「コミュニケーションが苦手、か……」
俺はうなった。
メルディアのように兵を統率するには向かないだろうな。
「とはいえ、強者であれば手駒に欲しい。そいつはどこにいる?」
俺は彼女にたずねた。
「直接会いに行く」
「えっ、魔王様が直々に?」
「コミュニケーションが苦手なんだろう? なら、使者を介するより俺が直接行った方がよさそうだ」
「魔王様が行くなら、私もお供いたします」
「面白そう。ボクも行く~」
「いや、どちらかは魔王城に残しておきたい。メルディア、お前は残れ」
「え~~~~」
明らかに不満げなメルディア。
「それにお前はアリアンロッドが嫌いなんだろう? 話がこじれる危険がある」
「むー、まあそれはそうだけど……魔王様と一緒に行きたかったな」
「留守番だ」
「はーい……」
重ねて言った俺に、メルディアはしぶしぶといった様子でうなずいた。
「……魔王様、メルディアは先日まで魔王城を占拠していたのですよ。にもかかわらず、この女に城を任せると?」
ティアが眉を寄せた。
「恐れながら、ふたたび魔王城を奪い、魔王様に反旗を翻す可能性を進言いたします」
「えー、そんなことしないよ! ボク、忠誠を誓ったじゃん!」
「信用できるか。お前の言葉など」
抗議するメルディアに、ティアは冷たい視線を返した。
「ひっどーい!」
「だからこそだ」
俺はニヤリと笑った。
「俺に心から忠誠を誓ったのか、試す好機だろう」
そう、別にメルディアがふたたび敵に回るなら、それはそれで構わない。
従わないなら殺すだけだし、従うなら利用する。
魔族に対する俺のスタンスは変わらない。
「へえ、さすがの胆力だね。やっぱり魔王様に服従してよかった」
メルディアが嬉しそうに笑った。
「もちろんボクは裏切ったりしないから安心してね」
「魔王様、少し軽率ではありませんか?」
ティアが俺を見つめる。
「魔王様を『軽率』呼ばわり? ふっふーん。そんな口の利き方していいんだ?」
「私は魔王様には忠誠を誓っているからこそ、忖度のない進言をするのだ。それこそが臣下の務めであろう」
からかうようなメルディアにティアが言った。
「魔王様、ご再考を」
「俺の考えは変わらない。新たな幹部を迎え入れる際、お前の意見をまっさきに聞きたいからな、ティア」
俺は彼女を見つめた。
「お前には今後も側にいてもらいたい」
「……もちろんです」
一瞬――ティアの表情がこわばった気がした。
「私はすべてをあなた様に捧げる所存」
だが、すぐに柔和な笑顔になり、ティアは一礼した。
と、
「へえ、すべてを捧げるんだ?」
メルディアがにやけた顔になる。
「もしかして、そのまま魔王様に気に入られて王妃になるルートでも狙ってない?」
「な、何を言っている! 私はあくまでも忠誠心から答えているだけだ!」
「本当? ティアって恋愛方面、めちゃくちゃ初心そうだし~」
「ええい、黙れ! 私に恋など不要だ!」
「夢魔のくせに」
「夢魔がすべて恋愛脳だと思うなよ。私はあくまでも夢を操る能力に長けた魔族と言うだけだ。恋も愛も知らん!」
ティアがまくしたてた。
「じゃあ、ボクが魔王様取っちゃおうかな?」
「ふん、好きにしろ。ただし魔王様の仕事の邪魔をするなら、私が許さないからな」
「あ、やっぱり嫉妬」
「違う」




