1 生贄にされた俺、魔王に転生する1
【23.6.30追記】
旧1話を大幅に加筆、改稿しました。分量が増えたので2分割し、1-1、1-2として投稿しています。
俺たちはダンジョンを進んでいた。
この先に、魔王を封印するための装置がある。
超古代文明によって作られたと言われる、対魔王戦用の封印装置だ。
「魔王大戦もようやく終わるってわけか……」
正直、戦いはもう嫌だった。
俺、ローグ・フレイルは世界に23人しかいないS級冒険者の一人だけど、やっぱり魔王軍との戦いは怖い。
とはいえ、各国の騎士や魔法使い、A級以下の冒険者じゃ魔王軍には歯が立たない。
だから、『人間の限界を超えた異能者集団』と呼ばれる俺たちS級冒険者が魔王軍相手の主戦力になっている。
そんな日々をもう五年以上も送って来たんだ。
いいかげんに終わりにしたい。
「だよね。あたしもホッとするなぁ」
俺の隣で明るく笑ったのは、俺と同じくS級冒険者のオリヴィア。
一つ年上の十九歳で、S級の中では特に仲良くしている相手の一人だ。
というか、ほのかに恋心を抱いていたり――。
ま、S級2位の彼女に対し、俺のランクは23位……つまりS級冒険者全ての中で最下位だ。
そんな俺を、彼女が相手にするわけはないか。
実際、オリヴィアはS級1位のソルと付き合ってるって噂があるからな……。
残念ながら、俺には高嶺の花ということだ。
ぐるるるおおおおおおおおっ。
そのとき、雄たけびを上げて十数体の魔族が出現した。
このダンジョンを守る魔族たちのようだった。
ダンジョン深奥にある『装置』――それは俺たちの目的物でもある――のことを考えれば、おそらく相当強力な魔族たちのはずだ。
「【天使召喚】!」
S級1位の冒険者、僧侶ソルが黄金に輝く【天使】を召喚し、三十体ほどの魔族をまとめて蹴散らした。
「【竜閃牙】!」
S級2位の女戦士オリヴィアが鞭を振るい、空間をも破壊する打撃技でさらに三十体の魔族を吹き飛ばした。
その他の場所でも、それぞれS級冒険者たちが魔族を狩りまくっている。
圧倒的だった。
「みんな、すごい――」
あらためて思う。
俺の仲間たち……『S級冒険者』は地上最強だ、と。
……って感心してる場合じゃないな。
俺、ローグ・フレイルもそのS級冒険者の一人なのだ。
「はああああっ!」
剣を振るい、魔族を斬り伏せる。
と、
「ローグくん、危ない!」
背後で爆発音が響いた。
オリヴィアの繰り出した鞭が魔族を打ち倒したのだ。
どうやら俺の背後から迫っていたようだった。
「助かったよ、オリヴィア」
「無事で何より。愛しいローグくんを傷つけさせはしないわ」
ぱちん、とウインクをするオリヴィア。
「これが最後の戦いだもの。一人も欠けずに帰って、みんな幸せに暮らしましょう」
「そうだな、一人も欠けずに……」
「そ。まあ、あたしを幸せにしてくれる人がいればいいんだけど」
「えっ」
俺は思わずドキッとして二の句を継げなかった。
「ふふ、これでも恋人募集中なんだよ? ローグくん、立候補してみる?」
「えっ、えっ」
「なーんて、ね」
オリヴィアは悪戯っぽく笑ってみせた。
どこまでが冗談なのか、あるいは全部冗談だったのか……分からないけど、俺はすっかりドギマギしてしまった。
彼女には、もう二年くらい片思い状態だ――。
魔王ディルダイアが率いる『魔王軍』と人類との戦いは、すでに二十年に及んでいた。
世界の九割以上は魔族によって、なんらかの被害を受け、壊滅した国も十や二十ではない。
まさに人類史始まって以来の、未曽有の大戦――。
けれど、その戦いもようやく決着の時を迎えようとしている。
この作戦が成功すれば――魔王軍との戦いは終わるんだ。
『本当……? お兄ちゃん、帰ってくるの……?』
昨夜、魔導通信機で話したとき、画面に映し出された妹の顔は、喜びが半分と寂しさが半分といった様子だった。
もうすぐ俺に再会できるという喜び。
そのときが来るまで、まだ会えないという寂しさ。
「もうちょっとだ。人間と魔族の戦争がいよいよ終わる……そうなったら、また会えるからな。すぐお前の所に帰るよ」
俺はレイに向かってにっこり笑った。
『やったー……! 待ってるからね、お兄ちゃん……げほ、げほっ……』
言いながら、妹はいきなりせき込んだ。
かつて俺たちの村を襲った魔族がまき散らした呪毒――。
その影響を受けて、レイは五年経った今でも後遺症に苦しんでいる。
戦争が終わったら、いい僧侶に見せてやるからな、レイ。
そして呪毒を治してもらおう。
俺たちはさらに進んだ。
途中に出てきたモンスターはいずれも高レベルだったが、ソルたちが一蹴してくれた。
そして、俺たちはついに目的の場所にたどり着いた。
「着いたぞ――」
ソルが言った。
眼前には、高さ二十メートルはありそうな巨大なモニュメントがたたずんでいた。
「これが……」
俺は息を飲んだ。
魔王を封印するための装置か。
魔法装置に詳しい魔術師型数人で、装置の点検をしている。
それが終わったら、いよいよ魔王封印作戦の開始である。
「もうすぐ、帰れるぞ――」
俺は故郷に想いを馳せた。
妹のレイの笑顔が浮かぶ。
友人たちの顔が浮かぶ。
魔王軍の侵攻によって、村の人間も少なからず犠牲になった。
苦しいことや悲しいことはたくさんあった。
もうこれ以上、誰も悲しい思いをしなくて済むように、俺は必死で戦ってきた。
そんな世界になるまで、あと少し。
「待ってろよ、レイ……」
俺は妹の名をつぶやく。
「これからは二人で平和に暮らそう」
と、
「ローグ、ちょっとこっちに来てくれ。君に手伝ってもらいたいことがあるんだ」
ソルに呼ばれた。
「ん?」
なんだろう、と思って、装置に近づく俺。
どんっ!
突然、腹部にすさまじい衝撃を感じ、俺は大きく吹き飛ばされた。
「がは……っ!?」
内臓が破裂し、胃液が逆流するような激痛。
俺はその場に崩れ落ちた。
なんだ……?
今の攻撃はどこから来た!?
一体、何が起こったんだ……!?
まさか、こんな場所にまで魔王軍がやって来たのか!?
「おやおや、魔王軍の仕業とでも思いましたか? ははは、状況判断が鈍いですねぇ。鈍すぎますねぇ」
嫌味ったらしく言ったのは格闘家ザインだった。
S級5位の実力者だ。
その瞳が爛々と輝いていた。
こいつは、普段は温厚で礼儀正しいんだけど、戦闘時には暴力的な性格になる。
そんな二面性を持った少年だった。
今はその『暴力的な性格』が色濃く出ているようだ。
いや、ザインだけじゃない。
他のS級たちも暴力的な雰囲気を放ち、四方から襲ってきた。
「くらえっ」
「おらおらぁっ」
「ははは、遅いんだよ!」
次々に繰り出される拳や蹴り、斬撃に魔法――。
「ぐあっ、が、あぁぁ……」
複数のS級からいっせい攻撃を受け、俺はずたぼろにされた。
「ど、どういうことだ……!?」
俺は荒い息をつきながらザインを見つめた。
激痛で意識がかすむ。
「君の命が、魔王封印装置の起動条件なんですよ」
ザインが、せせら笑った。
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