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暖簾分け

 見るからに巫女さんの格好の人。豪華な着物の人。足元は下駄だし……嘘だろ、刀らしきものを腰に下げてる人までいる。


 なんだ、ここは和風仮装パーティーの会場なのか?


 夜影さんについて神社の中に入ったらこんな状況。


 思っていたよりもすごく広いそこは、内装もこれまた厳かな雰囲気だ。電気じゃなくランプのようなものが壁にぶら下がってる。あそこの扉なんて、すごい数のお札が貼られ、まるで魔除けだな。


 流石にちょんまげの人はいないが。

 でもそれくらい、ここだけ時代が違うのよ。


「まずは簾長れんちょうに挨拶と行きましょう。怒らせると怖いので……良い子にしててくださいね」


 そう言う夜影さんが止まったのは一つのドアの前だ。ドアの上には昔懐かしいドアプレートがかけられている。


暖簾のれん分け室』


 なんだ、何の部屋だ。

 暖簾わけって、よくお店の店主が弟子にも店を出して良いって許可するあれか?

 どちらにしろ、目上の人に会うのは間違いない。夜影さんが怖いと言うくらいだ。

 俺……今の会社でもそんな人と会うことなかったけど。ちゃんと、挨拶できるかな。


「簾長、夜影戻りました」


 ガチャりと扉を開け中へと入る。ちょいちょいっと手招きされ続けて俺も中へ。


「失礼します……」


 つい小声になってしまう。

 昔から学校の職員室とか苦手なタイプなんだよね。


「あ~、夜影おっつかれさーん!その人が例の先祖返りっ?……ねぇ、あの痛みさあ、めちゃキツいよねぇ!うちもまじで死んだと思った~」


 カラッとした元気な声が途端に部屋に響く。

 その勢いに圧されるあまり、ぎこちない笑顔を返すことしか出来なかった。

 それに、これは勝手に俺が想像してただけなのだが。

 ……てっきり厳格でいかついおっさんのお出ましだと思っていた。あの夜影さんを雇うくらいだし。怖いって言うし。


 それがまさかの女性。しかも、その、どちらかと言うと色気漂う大人の女性だ。さっきまでの和風仮装はどこに言ったと突っ込みたくなる程のハレンチな服。肌を覆う布の面積、狭すぎません!?


 相手を見て挨拶が礼儀というもんだが、……すんません!俺には直視出来ません!


「あの、浅山善庵、です。よろしくお願いします!!」


 体育会系の部活並みに声を張り上げる。もちろん、目をつぶって挨拶した。


 「くくっ」っと隣から聞こえる笑い声。夜影さん、俺の心中察してください!


「なになに?なーんで夜影笑ってんのさー。……ま、別に良いけどぉ。うちはこの封神簾ふうじんれんで簾長やっちゃってる天神てんじんでーす!これから善庵にもしっかり働いてもらうから。そのつもりで、よろしくぅー!!」


 なんというか、そのテンションについていけない俺はやはり陰キャ。


「……簾長、まずは暖簾分けを。善庵君にはまだここの説明もしてませんので」


 動じず平然と話す夜影さん。天神さんのこの様子はいつものことなのだろうな。


「なんだぁ、まだ言ってないのー?夜影っ!!ちゃんと働きなさいよっ?担当指導員あんたなんだからね!」


 「はあ」と素っ気ない返事がなんとも居たたまれない。どうも俺が重ね重ねご迷惑おかけします。


「じゃあ、善庵!そこの水晶に手をかざしてっ!!あんたがどの色か見てあげるから」


 そう言って俺の手を握る天神さん。

 ちょちょちょっ!!胸に、胸に手が当たりますから!それ以上近づかないで下さい~!!


 暖簾分けとか色とかまったく理解できてないが、とりあえず言われた通りに。一刻も早くこの部屋をでなければ。それが今の俺の最優先事項だ。べ、別に目の置き場に困るとかじゃないもんね。


「こう……でいいですか?」


「ああ!そのまま、そのままぁーっ」


 言われた通り水晶へと手を伸ばす。

 が、なんだか正直胡散臭い。

 占いとか信じない俺にとって水晶はただの石であって。そんな石に手をかざしたところでどうもしないと思うのだが。


「汝、暖簾色を示せ」


 天神さんの声が虚しく響く。

 ……だって!

 何も起きないんだもん!やっぱ水晶はただの石でさ、こんなことしたって何も……起きな……ん?熱いな、なんだ?腕が熱いような。


 水晶にかざしていた手を見るも特に異変はない。


「いやっアッツ!!熱いから!」


 途端に腕に広がる例の刺青。

 もちろんあの焼けるような痛みとセットだ。

 手を引っ込めようと踠くが、……ぐぐぐっ、動かないって!


「ちょっ!!なんなんだよ。熱いって!天神さん、夜影さん!?」


 しかし二人は平然と俺を見つめるだけ。


 くそっ、腕が……。あーっ痛!!

 睨むように腕を見ると、さっきまで赤かった刺青が徐々に変色していく。


「ぎっ、がぁぁあっ!!」


 痛みの波がどっと押し寄せ、たまらず叫ぶ俺、

 ……って、あれ?

 痛く、なくなった?


「まったくさー!このくらいの痛みでギャースカ騒がないのっ!!ほれっ!終わったから、腕見せて」

 

 いやいやっ。何をこの人は言ってんだよ。痛いもんは痛いし、痛くするなら前もって教えてくれー!

 なんて事は言えないから、ちょっとムッとした顔で腕を出す。

 そんな俺の様子に気づくこともなく腕を握り、まじまじと見つめる天神さん。


「…………」


「天神さん?腕、痛いんで離してもらえます?」


 ギギギっと腕を握る力が増している。しかもそのまま動かないし喋らない。なんだよ一体っ!


「……嘘でしょっ。そんなこと、あるわけない!」


「えっ?」


「うちがミスるわけないしっ。いやっ!でもこんなことって。……マジで。ねぇっ!!夜影!あんたも見てっ!!」


 えっ。俺なんかまずいことになったのか?

 そんな様子を見せつけられて、堪らず俺も腕をみる。そりゃーね、そんな反応されたら気になりますからね。


「んんっ?刺青が、赤くない?」


 っと言うよりも、これは、緑っぽいような?


「……ふふふ、あーっははは!やはり、本物でしたか」


「やはりって、あんた。確信犯でしょっ?!なんで先に言わないのよっ!!こんなくそ大事なこと!ホントあんたはさっ」


 何がなんだかわからないが、夜影さんは上を仰ぎながら笑い、天神さんはむちゃくちゃ怒ってる。


「いやっ、ちゃんと説明してくれっーー!!」


 こんな状況に俺は叫ばずにいられなかった。

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