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戦わない陰陽師

掲載日:2022/06/15

初めまして、若葉ノームです。今回は昔書いた小説を投稿させていただきました。温かい目で見て頂ければ幸いです。


深夜の二時を回った頃、一人の少年が遊園地の中を歩いていた。


いや、正確には遊園地の様に見える

異界の中を歩いていた。少年の年の頃はおおよそ十五歳から十八歳。見た目は特に特徴というものもなく、人ごみの中にいれば見つけ出すことも難しいだろう。唯一の特徴といえば彼が身につけるコート。


やたらとポケットが多い。彼が一体何をしにここに来たのか?その理由は単純明快、陰陽師としての仕事をしに来たのである。彼の名は水芭蕉誠、古くから続く由緒ある水芭蕉家の次期当主である。


そんな彼は今、遊園地のような異界の中でこの異界を発生させた元凶の人物を探していた。遊園地ほどの広さの異界の中で元凶となった存在を探すというのは、一見困難に思えるが異界というのはその人間の思い出を具現化させたものであるため、思い出深い場所ほどより作りこまれ現世と遜色ない程の現実感を与えてくる。


そのため、より精緻に作りこまれたところに行けばこの異界の主に会えるという寸法である。今回もその考えが当たっていたため、誠は探し始めてからそう時間をかけることなく、異界の主に会うことが出来た。


異界の主は遊園地の中のベンチの一つに腰を掛けて虚空を眺めていた。死してなお輪廻の輪に帰れないものは大体、この現世に未練がある為、現世に思いを馳せるものは少なくない。そのため、誠はいつも彼らとのファーストコンタクトの際に使っている決め台詞を異界の主に向かって発した。


「あなたの未練は何ですか?」


その声を聞きようやく異界の主は顔を上げる。今初めて誠に気付いたようだった。


そして、それと同時に今まで不鮮明だった異界の主の姿がはっきりと誠の目に映った。見た目は二十歳前半位のロングストレートの女性であった。彼女は誠の言葉に眉を顰めた。


「あんた誰?」


短く、しかし端的に今の状況を表した言葉に誠の方が一瞬フリーズしてしまった。なんやかんやここまで冷静に返答を返されたのは誠が陰陽師をやっていて初めてのことだったのでそれも仕方ないことだろう。


そもそもここまで自我をしっかりと保っていることは非常に珍しいことなのである。しかし、誠も陰陽師としては既に一人でやっていける程度には経験を積んでいる。すぐに思考を切り替え彼女の問いに答える


「俺は陰陽師水芭蕉誠、陰陽師としてあなたがちゃんと輪廻に帰る事が出来るように未練を晴らすお手伝いに来ました。あなたの話、聞かせてもらえませんか?」


その言葉に不信感を感じたのか女性は誠を警戒する。


「なんで、あんたなんかに話さないといけないの?そもそもあんたに話してなんか解決するの?」


その言葉を待ってましたとばかりに誠は笑みを浮かべる。


「俺はあなたを現世に連れていくことが出来ます。他にも陰陽術で細々とサポートすることも、もう一度言います。俺にあなたの未練、話してくれませんか?」


女性にとって依然、誠は怪しい男でしかない。しかし、それを加味しても誠の話は女性にとって喉から手が出る程、魅力的な話であった。


「私は結婚前に事故にあって死んだの、もし叶うならせめて彼にお別れを言いたかった……私の未練

はそれだけよ」


この話を聞き、誠はなるほどと頷くとふと顔を上げた。


「そういえば今更ですが、お名前なんですか?」


このことに女性は本当に今更だし、この会話の流れで聴くことかと感じた。


「私の名前は仙波海里、というかふつう一番初めに聞くもんじゃない?」


「いや~、そうなんですけどね、あなたほど自我がしっかりとある例ってそうないんですよ。というか俺は初めてですね、だから、初めにその人の未練を聞くことから始めてるんですよ」


女性にとってはそういうもんかと納得するしかなく、そもそも誠の陰陽師事情なんてものには露程の興味もなかったため、その話題を軽く流すと本題に入ることにした。


「それで、あんたは本当に元の世界に私を連れていくことが出来るんでしょうね?」


「ええ、当然です。そもそも仕事上あなたの様な人を現世に連れて行くのは最低限出来ないと務まりませんので」


「じゃあ、さっそく連れて行って」


「随分と急な話ですね、まあいいでしょう。こちらとしてもそのつもりでしたしね」


そういうと誠はコートのポケットの一つから一枚の御札を出すとそれを虚空に貼り付けた。すると、御札は急に燃えだし、そこから凡そ(およそ)人(ひと)一人を覆いつくすまで燃え広がり、唐突に消えた。そして、火が燃え盛っていた場所には一枚の扉が姿を現した。


誠はその扉を指さした。


「ここを潜ればそこから先は現世ですよ」


しかし、その摩訶不思議な現象を目にした女性には誠の声は届いていなかった。


「え、何いまの何なの一体、ていうかあの扉は何?」


「これは陰陽師が異界に来るための陰陽術異界渡りですね。陰陽師はこれが出来て初めて一人前と言われます。それとこの先は現世に繋がっているのでさっさと入っちゃて下さい」


女性は誠に促され恐る恐る扉を潜る。そして、その後に誠が通ると扉は音もなく閉じ虚空に融けるように消えていった。


そして、現世について感動に浸っていた女性に対し、誠は声をかける。


「無事現世についた訳ですが、まあ、今日はここで一旦お開きにしましょう。本格的に行動するのは明日からでいいでしょう。俺ももう眠いですしね。仙波さんはうちの客間を自由に使ってくれていいので、まあ、基本的に仙波さんは物に触れる事も寝る事も出来ませんが」


「そう、というかあんたの家ってどこにあるの?今から向かう感じかしら?」


「何言ってるんですか、ここが俺の家ですよ」


仙波海里はそう言われて、改めて周りをよく見てみる。今まで、現世に来た感動でここがどこかとかについては特に気にしていなかったが確かに自分たちがいる場所は誰かの家の敷地の中という感じがする。しかも、ただの家というより、由緒正しき家系の御屋敷という感じがする。自分たちがいる場所は庭であるが一目見ただけでも手入れが行き届いていることが見て取れる


「…あんたって金持ちなのね」


「まあ、これでも古くから続く陰陽師一族なので」


そんな一幕もあったが時間は流れ、次の日の朝、というか十時くらいなのでそろそろ昼に差し掛かり始めた時間帯、誠は目を覚ました。


彼はそのまま台所に行くと冷蔵庫の中にあった。ゼリーと野菜ジュース、それと、昨日のうちに買っていたパンを食べていた。因みに彼の両親は陰陽師として全国を飛び回っているため、誠が高校に入ってからはあまりあっていない。


誠がのんびりと朝食?を取っているとリビングに一人の女性が入ってきた。そう仙波海里である。


「おはよう、ていうかもう十時なんだけど、あんた朝どんだけ弱いのよ。学校とかはないの?」


「おはようございます。別に俺は朝弱いわけではないですよ。昨日は寝たのが遅かったからです。それと、学校については陰陽師活動期間中は式神の誠二郎に代わりに行ってもらっているので問題ないです」


 それを聞いて成程、流石は陰陽師、何でもありだなと、昨日の異界渡りで誠の非常識さに慣れつつあった仙波海里は特に驚くこともなくその話を受け流した。


「そんな事より、今日は実際に仙波さんの彼氏さんに会いに行ってみませんか?」


この話には誠の非常識さに慣れつつあった仙波海里も驚きを隠せないでいた。いつかは彼に会いに行き、お別れを言おうと思っていた仙波海里であったが、まさかこうも唐突に話を切り出されるとは思ってもいなかったからだ。しかし、これは仙波海里にとっては願ってもいないチャンスでもある。決めたからには即行動がモットーの彼女としては、この誘いを断る選択支など存在しない


「当然、行くわ。私を彼の下(もと)に連れてって」


「決まりですね。なら俺も準備して来るので待っていてくだいさい。3分で準備するので」

誠はそれからきっかり3分間で準備を終わらせてきた後、仙波海里を連れて外に出た。


「そういえば今更ですが、仙波さんの彼氏さんの名前ってなんていうんですか?あとどこに住んでるとかって分かりますか?」


「本当に今更ね、いや、あんたがそういうやつなのは知ってるけど…彼の名前は空田壮太、住んでる場所はってそっちは私が案内した方が早いわね、ついてきて」


そう言うと仙波海里は歩き出した。……しかし、それから一時間たった頃にその事態は起きた。

誠は恐る恐る仙波海里に声をかけた


「あの、俺の家に戻ってきたんですけど」


「…おかしいわね。たぶんこっちだと思ったんだけど」


「もしかしなくても仙波さん、方向音痴だったんですね。後は俺に任せてください。」


そう言うと、誠はコートのポケットの一つから一枚の人型に切り取られた紙を出した。その紙は段々と光を発し、誠がその紙から手を離すとその紙は眩い光とともに一匹の子犬へと姿を変えた。


「駒次郎、仙波さんの未練から彼女の大切な人の場所を教えてくれ」


誠がそういうと駒次郎と呼ばれた犬は「ワンッ」と一回吠えると仙波海里の匂いを嗅ぎだした。そして、一通り匂いを嗅ぐと「ワンッ」ともう一度吠え、迷いなく進みだした。


「ねえ、今のって何をしてたの?匂いを嗅いでるようなしぐさだったけど」


「あれは、仙波さんの未練からそのもととなっている人の思念を読み取って、それと同じ思念のする場所を探し当ててくれたんですよ。それこそ警察犬が犯人の私物から匂いを特定して犯人を追い詰めるように」


つまりは思念というのは一人一人独自のものであり、仙波海里はその人物に対する未練を持っていたのでその人物の思念が色濃く残っていたという事らしい。


そうして、駒次郎の案内で歩いていた誠たちであるが仙波海里が歩きながら一つの問いを誠に投げかけた


「そういえば陰陽師ってもっと幽霊とか見たら呪符とかで攻撃してくるのかと思ってたわ。」


「まあ、そういう人たちもいますね。というかそういう人の方が多いのが現状ですかね」


「じゃあなんで、あんたはそうしないの?」


「それは…」


その問いに誠が答えようとした時、既に彼女の意識が、誠から離れていることに気付いた。真っすぐに一点のみを見つめていたからだ。初めは想い人を見つけたのかとも思った誠であったが、彼女の視線の先に目を向けて、どうやらそう言うことではないという事に気付いた。


なぜなら、彼女の視線の先にあったのは一体の怪異の姿だったからだ。体中は血だらけで腕は人より多い六本、足は片方が途中からあらぬ方向に曲がっていた。


それを指さし仙波海里は誠に問う


「ねえ、あれはいったい何なの」


その声は隠し切れない怯えをはらんでいた。


それに対し、誠は気丈に返す


「あれは、怪異ですね。幽霊という存在が時間とともに悪霊になり更に時間がたつことにより怪異になります。まあ、まれに、怪異が自我を得て妖となるケースもありますが、どうやらあの怪異は未練のみで動いているようですね」


「あんたは、アレが怖くないの」


「まあ、怪異が怖くて陰陽師はやっていられないので」


この返答が嘘であることは付き合いの短い仙波海里にも容易に理解出来た。


何故なら、その返答は戦士が銃口を向けられても恐れないと言う位、無理のあるものだからだ。彼らとて銃口を向けられて恐れていないわけではない。ただ恐怖を胸にしまって自分を鼓舞し、気丈に振舞っているだけに過ぎない。人が持つ生存本能は人が生きている限りどうやっても取り除くことは出来ないのだから


仙波海里がそんな事を考えているとは露知らず誠は話を続ける。


「本来は陰陽師としてあの怪異を見過ごすわけにもいかないのですが…どうやらあの怪異は手負いのようですね。おそらくどこかの陰陽師が追いかけているのでしょう。陰陽師は基本、一度他の陰陽師が手を出した案件はその陰陽師が最後まで受け持つのが鉄則なので今回はあの怪異とは関わらない方向で行きますね」


この時、初めて仙波海里は誠のおこなっている陰陽師活動の危険性を理解した。あんなものと意思疎通ができるわけがない。話を聞かずに攻撃をした方がよっぽど安全であるに決まっている。


そして何より仙波海里には確かめておきたいことがあった。


「私もこのままだと、ああなるの?」


「安心してください、そうなる前に仙波さんには成仏してもらうので」


それは、誠にとってはフォローのつもりだったが、仙波海里にとっては遠回しな肯定である。仙波海里は今までいかに自分が現状と陰陽師という職業を軽視していたか、身に染みてわかった。


今の自分は言わば、いつ爆発してもおかしくない時限爆弾と一緒だ。今まで誠とはなんだかんだうまくやれていると感じていた仙波海里であったが、誠が内心どう思っているのか、自分がいつまで自分でいられるのかという不安を抱える事になった。


その後これといった会話もなく家を出た時と比べると若干暗い空気の中移動は続いた。…ちなみにそのことについて誠は一切気付いていなかった。なんだったら駒次郎の方が気づいていた。


そして、誠が止まったのは一棟のマンションであった。そこでようやく仙波海里は顔を上げた。そこは彼と彼女が一緒に暮らしていたマンションではなかったからだ。


「ここは私と彼の暮らしていたマンションじゃない」


そのことに、自分が彼にとってもう過去のものになってしまったんじゃないかと仙波海里に一抹の不安を与えた。


「まあ、死んだ婚約者さんと暮らしてたマンションで暮らすのもつらいでしょうしね」


「そう、よね」


誠のフォローにより仙波海里は気持ちを切り替える。そうしていると、駒次郎がまた吠え出す。


「この子どうしたの一体」


「どうやら、空田さんがそろそろ来るそうです」


その言葉に仙波海里はついにかと僅かな緊張と期待を胸に抱く


「ついに、会えるのね、彼と」


「ああ、いえ仙波さんの事は霊感のある人にしか見ることは出来ないので、どうでしょうね?」


「へっ?」


仙波海里は思わぬ誠の言葉に変な声を出してしまう。わざわざ、ここまで会いに来たのにまさか彼は自分を認識することも出来ないなんて…


「ちょっと、なら何しにここまで来たのよ。せっかくここまで来たのに…そう言うことはもっと早く言いなさいよ」


「すいません、そういえばそうですね。まあ、方法はいくつか考えていますので落ち着いてください」


その言葉に仙波海里はほっと息を吐く、誠も多少抜けている所もあるがれっきとしたこの道のプロである。そこらへんに関しては抜かりはないようだ。そんな事を考えていると駒次郎の挙動が今までで最高潮になった。具体的に言うと誠の周りを回りだした。


「駒次郎、あれが空田さんなのか?」


その誠の問いに駒次郎は「ワンッ」と一度吠える、恐らくは肯定の意味なんだろう。


何故なら誠の視線の先には大体二十歳後半くらいの仙波海里がよく知る空田壮太よりはいくつか年をとってはいるが絶対に間違う事のない結婚を約束した男がいたからだ。仙波海里は年はとっているものの何も変わっていなかった元婚約者に安堵の吐息を出した。


「あの人は何も変わっていなかった」


「それはいい意味でですか?悪い意味でですか?」


「当然、いい意味に決まっているでしょう。彼に会うまでは、私が知っている彼とは別人になってしまってるんじゃないかって少し不安だったの」


しかし、仙波海里が安心できていたのもここまでだった。何故なら、空田壮太に見知らぬ女性が駆け寄っていったからである。


「誰よあの女」


その瞬間、仙波海里の体から瘴気とでも呼ぶべきものが溢れだした。


その力は道すがら見た怪異にも匹敵する程の強大なものだった。


仙波海里がその状況を冷静に認識した時には既に手遅れと言ってよかった。体から溢れる瘴気は留まるところを知らず、仙波海里を形成していた輝かしい記憶は滅びだしていた。頬は何かに引っ張られるかのように変形して…いや、これに関しては本当に引っ張られているだけだった。


「…ちょっとあんた何してんのよ」


「いや、仙波さん急に瘴気だして俯きだすじゃないですか、声かけても肩揺すっても全然反応してくれませんし、だからほっぺたつねったんですよ。正気に戻って本当に良かった。瘴気だけにね」


その言葉を聞いて我に返ってみると確かに先ほどまで湯水のように体から溢れていた瘴気は収まっており、記憶に関してもどうしても思い出せない事はあるものの本当に大切な記憶に関してはいまだ保持していることが分かった。


しかし、先ほどの自分は彼にとっては脅威以外の何物でもないはずなのに、なぜ彼は先程と変わらずに接してくれるのか仙波海里には不思議でならなかった。


「なんで、あんたはさっきと同じように私に接していられるの?私は来る途中にみた怪異と同じようになるところだったのよ?」


「それは、陰陽師だからですかね?」


仙波海里にはその誠の返答がはぐらかされているように感じて、強く問いただしてしまう。


「ふざけないでっ‼私は真剣に聞いてるの」


「そうですか…ならこんなのどうですか?あなたがちゃんと未練を晴らして成仏できた時に答えるというのは」


その言葉に仙波海里はすぐに返答を返すことが出来なかった。


「…私にはもう未練なんてないわよ。彼はもう私の事なんて忘れて前に進んでいるんだもの」


「空田さんについてはそうかもしれませんね。でも仙波さんはそうじゃないでしょう?だって、あなたはいまだ成仏できていないんですから」


「そんな事言われたって今更、過去の女が会いに来ても気持ち悪いだけでしょう‼」


「そう決めつけるのは、まだ、少し早いと思いますよ?」


「…なんでそう言えるの?根拠でもあるの?」


それは、仙波海里にとっては一筋の希望であった。もしかしたら、彼はまだ、私の事を思ってくれているのかもしれないという。


「それに関しては申し訳ないですが、特に根拠と言えるものはありませんね。しいて言えば陰陽師の感といった所でしょうか?」


その言葉に仙波海里は再び絶望に突き落とされる。


「…もうほっといてよ」


「え、なんです?すいません聞こえなかったのでもう一回言ってもらえます?」


「ッだから、ほっとけって、言ってんのよ、あんただってこんないつ、怪物になるかわかんないめんどくさいメンヘラ女の手伝いなんてしたくないでしょ」


「えっ、メンヘラの自覚あったんですか?」


「あんた、ホントに喧嘩うってんの?」


「いえいえ、そういう訳ではありませんよ、ただ、この人、思い込みが激しーなーって思ってただけです」


「よし、ちょっと表出ろ」


「まあまあ、少しは落ち着きました?」


その言葉に仙波海里は、確かに先ほどに比べて、元気を取り戻している自分がいることに気付いた


「あんた、まさかこのために…」


「わざわざ言わせないでくださいよ、まったく…」


ちなみに先ほど言ったことは、割と誠の本音であったが、仙波海里が意外なほど感動していたため真実を告げる事が出来ないでいた。


「ま、まあそれはともかく、もう少し彼について調べてみませんか?俺もあなたも他人を一目見ただけで判断できるほど人間出来てないでしょうしね」


「…たしかにあんたの言葉にも一理あるわね、いいわもう少しだけあんたに付き合うわ」


「なら、決まりですね」


「でもどうやって、調べるっていうの?」


その仙波海里の言葉に誠はフッと気障に振舞うとコートのポケットの一つから呪符を出した。


「これは本来現世に怪異が来た際に周りの人が被害を受けないための人払いの呪符なんですが、少し工夫して使えば認識阻害として機能するんですよ」


誠は簡単に言っているが呪符のこれ程の応用は陰陽師でも出来るものが限られる高等技術である。そしてそれをみせられた仙波海里はホントこいつ何でもありだなと思うのであった。


「…あんた魔法使いみたいね」


「まあ、幽霊専門の魔法使いみたいなものですしね」


そういうと誠は早速、呪符の力を使ったのか、呪符が灰になり消えていった。


「さっ、行ってみるとしましょうか」


そう言うと誠は空田壮太と空田壮太と仲良く話している女のあとをつけた。


「…仙波さん、あの女の人を呼ぶとき、なんて呼べばいいんでしょうか?空田さんと仲いい女性じゃ長いですし」


「適当に、泥棒猫でいいんじゃない?」


「泥棒猫って…まあ、間を取って猫さんと呼びますか」


「どう間を取ったのかわからないし、最も大切な泥棒の部分が抜けているけど、まあいいんじゃない」


そんなくだらない雑談をしながら歩いていると、仙波海里はとても重要なことに気付いた様子で誠に話しかける


「ねえ、ここじゃあ声聞こえないんだけど、もう少し近づかない?」


「そうですね、もう少し近づくことにしましょう」


そう言い、誠たちは更に空田壮太達に近づく、そうすると彼らの会話が聞こえてきた。


「空田先輩、今日は付き合ってくれてありがとうございます」


「なに、後輩が親の見舞いのための品に困っているというから来ただけだよ」


「こういう相談に乗ってくれるのなんて空田先輩くらいですよ」


「そんな事もないと思うけどな、俺以外にも相談に乗ってくれる人は、いっぱいいるんじゃないか?」


「そんな謙遜しないでくださいよ。それに、私が相談するのは空田先輩だけですよ」


「?そうか、ただ他の人とも仲良くした方がいいと思うぞ。特に猫坂君の場合は、せっかく他の人たちも仲良くしようとしてくれているんだから」


「アッ、ハイ、アリガトウゴザイマス」


誠はどうやら最悪の事態である空田壮太が完全に仙波海里の事を乗り越え、他の女性と仲良くしているわけではないことをしって安堵の吐息を出す。まあ、婚約までした人間が事故で突然死んで引きずらない人間なんてのはそうそういるものではないのだが…


しかし、仙波海里はそうではないようで終始、空田壮太に色目を使っていた猫坂という女性に敵意をむき出しにしていた。


「何なの、あの女、猫山かどぶ猫か知らないけど人の彼氏になに色目使ってんの?」


「落ち着いてください。今はあの女性が彼女じゃなかったことを喜びましょう。てか、あの人、鈍感すぎませんか?わざとやってるんですか?」


「いいえ、あれが彼の素よ、彼は本当に鈍感で私が高校の時どれだけアタックしてもなびいてくれなかったのよね。そのくせ、私に告白した時には、ずっとお前の事が好きだった。ずっとお前を目で追いかけていた、とか一丁前にいうのよ。まったく、私の事がずっと好きで目で追いかけてたんだったらもっと早くに告白してよって思ったものだわ」


「成程、惚気話をありがとうございます。しかし、こんな鈍感系主人公みたいな人が実在したとは」


そうして空田壮太について誠たちが話していると、猫坂と呼ばれていた女性が爆弾発言をした。


「…どうして、どうして気付いてくれないんですか?」


その言葉は外野の誠たちは理解することが出来たが、当の当事者である空田壮太には理解することが出来なかったのか、首を傾げている。


「気付かない?いったい何の話をしているんだ?猫坂」


「そんなの決まっているじゃないですか‼私が空田先輩にアピールしていることについてですよ」


「何のアピールをしていたんだ?仕事の話か?」


「ちッ、違いますよ。私があなたに好意を持っているという事についてですよ」


「そうか…俺もお前には好意を持っていた」


この言葉に仙波海里はショックを隠せずにいるし、猫坂と呼ばれた女性は嬉しそうに頬を赤らめているが、誠にはこの話の落ちが見えていた。


「それ、本当ですか?」


「ああ、お前は仕事も真面目にこなしていて、愛想もいい、俺には出来過ぎた後輩だ。お前の教育係になれたこと、俺は誇りに思うぞ」


「…つまりどういうことですか?」


「うん?さっきも言ったがお前の様な後輩を持てて、俺も鼻が高いという話だが?」


「それって、後輩としてってことですよね?」


「それ以外に何があるんだ?」


誠は予想通りの結末に「ああ、やっぱりな」という思いで一杯だったが、仙波海里はあからさまにほっとしたふうに息を吐いているし、猫坂と呼ばれていた女性は先ほどとは別の意味で顔を赤らめていた。


「~だから、そういう意味じゃなくてですね?異性としてあなたが好きって言ってるんですよ‼私」


その言葉に空田壮太はフリーズする。そして、おおよそ三秒の間にフリーズからとけ、おもむろに口を開いた。


「そんな事をお前が思っていたなんて、今日、初めて知った。しかし、俺はお前の事を後輩としか見ていない。それに、俺には既に心に決めた女性がいるんだ。」


その言葉に先ほどまでほっとしていた表情を見せていた仙波海里は、今度は石化したのかと言う位に微動だにしなくなった。俗に言うショックのあまり固まったというやつだろう。


しかし、さっきの空田壮太のフリーズとは既に別物の様な固まりぶりだった。まさに石化が最も相応しい言い方だと思う位に、そんな一幕を仙波海里が行っている間も空田壮太と猫坂の会話は続く


「先輩…でもその人ってもう亡くなってるって話ですよね?会社内で前に先輩の同僚の人に聞きました」


「…そうだな、確かに彼女はもういない。それでも、俺が生涯愛すのは、彼女だけだ」


その言葉を聞き仙波海里は息を吹き返す。実際は、息はしていないがそう表現するのが最も正しいと感じるほどに彼女は誠が会ってから最も生き生きした顔をしていた。当然、そんな仙波海里をよそに話は進んでいく


「で、でも、そんなの先輩が辛すぎます。一生亡くなった女の人を愛すなんて、先輩はその女の人の事に、区切りを付けて前に進んでもいいと思います。」


「そういう意見もあるのだろうな…ただ一つ訂正することがある。俺は彼女だけを愛すことを苦だと思っていない。例え、彼女と死に別れようと、昨日の事の様に彼女との日々を思い出すことが出来る。それに、今はなんだか、彼女が近くにいるような気がするんだ。まるで俺の近くで百面相をしている様な、そんな気がするんだ」


「そ、そうですか、先輩がそういうなら、そうなのかもしれませんね」


猫坂と呼ばれた女性には、空田壮太という男が狂っているように感じるのかもしれないが、誠達からすれば、何故、空田壮太が仙波海里を感じ取れるのか、不思議でならなかった。


「もしかして、彼には霊感があるの?」


「いえ、それはありません。空田さんからは霊感は感じません。もし、彼が本当に仙波さんを感じ取っているのなら、もしかしたら愛の力というやつかもしれませんね」


「成程、つまり私と彼の愛が、起こるはずのない奇跡を起こしたって事なのね‼」


「ええ、まあ、幽霊というのも未練という思いの力で無理やり世界にとどまっている存在ですしね。全くあり得ないとは言えないでしょう」


その言葉を聞き、成程と喜色満面の笑みを浮かべる。当然ではあるがそんなやり取り中も空田壮太と猫坂の会話は進んでいる。


「空田先輩がそこまで好いているんだったら、もう止めません。ただ、後悔しても遅いですからね」


「ああ、猫坂の事を好きになる事はないが、こんな俺に好意を抱いてくれたこと、感謝する」


どうやら、空田壮太の純愛に猫坂が折れるという形でこの告白騒動は幕を閉じたらしい。


そうして、猫坂がこの場から姿を消すと、今度は誠が認識阻害を解き、空田壮太の前に姿を現す。


「初めまして、空田壮太さん、俺の名前は水芭蕉誠、しがない陰陽師です」


この唐突の挨拶とどこからともなく現れた誠の存在に空田壮太は警戒を強める。


「お前は誰だ?いつからそこにいた?」


「そうですね…あなたが猫坂さんと会った所から、ですかね?」


「ずっと、つけていたのか、趣味が悪いな」


「そう言わないでください。さっきの言葉、とても情熱的で、素晴らしいと思いますよ?そんな純情なあなたに一つ、いい話を持ってきたんですよ。」


その言葉に空田壮太は眉を顰める。


「いい話だと?」


「ええ、あなたは今だ、仙波海里さんの事が忘れられないご様子、そんなあなたにもう一度だけ彼女に会うチャンスを与えようと思っています。」


その言葉に空田壮太は耳を疑う。もう、何年も前に亡くなった彼女に、もう一度会うことができるなんて眉唾物もいいところだ。


…しかし、もしホントに会うことが出来るのなら、空田壮太はどうしてもその考えが頭によぎってしまう。


「…随分と胡散臭い話だな、ただ、今回はその話に乗ってやる。どうやったら彼女に会える?」


その言葉を聞き、誠は笑みを浮かべる。


「ええ、あなたなら、乗ってきてくれると思ってましたよ。会う方法は簡単、今夜あなたは仙波さんの事を考えて寝ればいい。たったそれだけです」


「ほんとうに、それだけで彼女に会えるのか?」


「ええ、ただし、二時までには必ず寝てください。いいですね?」


「ああ、わかった。今日は必ず二時には眠る」


そう言うと誠は再び呪符を出し、認識阻害をかけると、そのまま空田壮太の下から去った。


これは自分がただの怪しい詐欺師ではなく、本物の陰陽師であるという事を彼に信じてもらうためのデモンストレーションの様なものだ。


そうして誠たちの拠点でもある水芭蕉邸につくと仙波海里が開口一番に先ほどの事を問いただしてきた。


「さっきのどういう事?詳しく教えなさいよ。てか、なんで私に言わずに勝手に行動に移してるわけ?」


「いや~そうなんですけどね。空田さんに話しかけるタイミングは、あそこが一番いいような気がしたんですよね」


「それは…確かに、でも彼に行っていた二時までに寝ろとか、私の事を考えながら寝ろってどういう事なの?」


「そんな上からな物言いはしていませんが…まあ、今回は夢枕という手法を使おうと思います。」


「夢枕って、あの、枕元に亡くなった人がたってお告げするとか言うやつ?」


「ええ、それです。まあ実際は自分の事を考えて眠りについた人の意識を、自分の異界に連れていけるというものですが」


「それを使って彼を私の異界に連れて行って話をするって事ね」


「そう言うことです。ああ、夢枕は二時の間しか使う事は出来ません。そこのところは注意してくださいね。二時にならなければあなたの異界に連れていくことは出来ませんし、二時を過ぎれば空田さんは強制的に現世に意識が引き戻されます」


「了解、わかったわ、勝負は二時ね」


「ええ、それと、仙波さんにはこれを渡しておきます」


そういうと誠はコートのポケットから一枚の護符と一枚の呪符を出した。


「これは?」


「呪符の方は仙波さんを真っすぐ空田さんの元まで連れて行ってくれるものです。夢枕は名前の通り連れていきたい人の枕元に行かないと効果がないので、もう一つは水芭蕉印の護符ですね。ちょっとやそっとの事ではびくともしない優れものです。これさえあれば道すがら怪異や陰陽師に襲われても問題ないでしょう」


ここまで、いろいろ準備をしてくれた誠に礼を言おうとした仙波海里であったが、その前に誠が口を開いた。


「仙波さん、たった一日余りでしたが、あなたと過ごした時間は悪くありませんでしたよ。ご武運を」


「ええ、私もあんたと過ごした時間、悪くなかったわよ。いろいろ準備してくれて、ありがとね」

その二人の関係はたった一日のものであったが、二人は長年一緒にいた親友の様に別れの挨拶を送るのであった。


時は変わり、深夜の二時、人の気配がしない静かな遊園地の真ん中に一人の女性が座っていた。女性は顔を上げ誰かを待っているように見える。


そして何分かたった頃、一人の男性が現れる。男性は女性の姿を確認すると女性に駆け寄り、女性を抱きしめると口を開いた。


「海里‼ずっと会いたかった。」


その言葉を聞き女性も口を開いた


「ええ、壮太、私もあなたにずっと会いたかった」


そうして、じっくりとお互いの事を確認しあうように抱きしめあっていた二人であるが、女性の発した一言によってその状態にも終わりが来る。


「ごめんなさい、ずっとこうしていたいのはやまやまだけど時間がないの」


「時間がない?どういう事だい、そういえばここは俺たちがよくデートの時に行った遊園地…それにこのベンチって…」


「ええ、ここはあなたが私にプロポーズしてくれた場所」


そう言うと女性は男性にベンチに座るように促した。それに従い男性はベンチに座りその隣に女性も腰を下ろした。


「と、いってもあくまでここは私の思い出の中、本当の遊園地ではないのだけど」


その、言葉に男性は「そうか」と一言返すと女性に質問をした。


「俺はここでずっと暮らすことは出来るのか?」


その質問に女性は首を横に振る。


「私とあなたが一緒にいられる時間は一時間、それと私とあなたが会えるのはこれが最後」


その言葉に男性はもう一度「そうか」と返す。しかし、その声は、先ほどと比べて幾分かトーンが落ちており、男性の気持ちが、先ほどより落ち込んでいるのが伺える。


「そんなに落ち込まないで、私とあなたがこうやってまた話すことが出来るのが既に奇跡なんだから」


その言葉に男性は気持ちを切り替える。彼女と一緒にいられるのはたったの一時間しかない。この時間を無駄にすることは出来ない。


それから、彼は彼女と暫くの間、他愛のない会話をした。彼女が亡くなったその後の事を、彼女に伝えるために、しかし、そうして話していると、今度は今まで聞き手に回っていた彼女が口を開いた。


「あのね、実は猫坂さんに告白されていた時、あの場に私もいたの、猫坂さんには悪いけど、私、あなたが言ってくれた言葉、すごく嬉しかった。でもね、あなたがもし、他の女の人の事を好きになったら、結婚してもいいよ。本当はすごーくすごーく嫌だけど、あなたが幸せになれるならそれでもいい」


その言葉を聞き男性はため息を吐く


「何度でも言うぞ、俺が生涯愛すのはお前だけだ」


その言葉には、男性の覚悟の様なものが感じられた。そして今度は男性が女性に問う。


「海里はこの後どうなるんだ?」


「私は、この後は輪廻の輪に帰るんだと思う。そして、今度はまた記憶をすべて失ってこの世界に生を受けるんだと思う」


その言葉を聞き終わると、男性は何かを決めたのか「よし」と言い、女性に話しかけた。


「なら、俺は必ず来世もまた君を見つけて、その時こそ結婚しよう。当然、俺も来世の話だがな」


その言葉に女性は「フフッ」と笑いを零してしまう。


「だから、来世は私もあなたも記憶を失ってるって、言ってるじゃない」


「それでも、必ず君を見つけ出す。だから先ほど言ったことは訂正しよう。俺は君を生涯愛すといった。しかし、俺は例え何度生まれ変わっても、君を見つけ出し、君にプロポーズしよう。」


その言葉に女性は、人生で一番の笑顔を見せた。


「なら、私も待ってるから例え何度やり直しても」


そう言うと女性と男性はどちらともなくキスをした。それは神の前で誓いを立てる新郎新婦の様に…いやそれよりももっと神聖なものであったことは言うまでもないだろう。


そして、互いの唇が離れていくと、女性の方が口を開く


「あなたは天寿をまっとうしてね」


「ああ、土産話を期待していてくれ」


その言葉に女性は「くすり」と笑うと


「だから、来世に記憶は持ち越せないって言ってるじゃない。でも、期待して待ってるわ。あなたの事いつまでも愛してる」


「ああ、俺も愛してる」


男性がそういうと、その場から男性の姿が消えた


そして、女性の姿と女性が作っていた異界も光の粒子となり消えていく、そんな中、女性は最後の力を振り絞って、異界の亀裂を通り現世へと向かう。お節介な陰陽師に最後の約束を果たしてもらう為に


誠は眠れずにいた。仙波海里はちゃんと成仏できたのか、心配だったからだ。本当は自分も異界に入り、この目で彼女の最後を見届けたかったくらいだ。


しかし、それはいくら何でも無粋である為、ついていきたい思いをぐっと抑えて布団にくるまっていた。そんな誠は、ふとよくしる気配を感じ、飛び起きる。それは今日の深夜一時四十分ごろまで一緒にいた、仙波海里の気配を感じたからだ。一瞬、成仏できないでいるのかと感じたが、気配は刻一刻と弱まっているためそう言うことではなさそうだ。


どうやら、最後の力を振り絞ってここまで来たという感じである。そのため、誠は自分の家の庭で彼女を待つことにした。


そして、そこまで時間をかけずに誠の下に来た。


「今回は迷わずにこれたんですね」


「あんたは開口一番それか、もっと他に言うことないわけ?」


「と、言われましても、もう別れの挨拶も終わらせたじゃないですか。逆に何しに来たんですか」


「あんたに、約束を果たしてもらう為よ」


その言葉を聞き誠は眉を顰める。彼女とどんな約束をしたのか、誠には皆目検討もつかないからだ。その様子を見て仙波海里は口を開く


「なんで、あんたは私に普通に接することが出来るのかって話よ。」


「ああ、そんな話もありましたね。…そうですね。それはたぶんあなた達の願いがこの世界の何よりも美しいからですかね」


「美しい?どういう事よ」


「幽霊と呼ばれるもの、つまりこの世界に未練のあるものの願いっていうのは本当にささやかなものなんですよ。それこそ、あなたの最後に好きな人にお別れを言いたいという願いとかね」


「それが、どう関係するっていうのよ」


「そうですね、一見意味がわからないかも知れませんが、まあ、端的に言うと力になってあげたいって言う思いが強いんですよね。、前に、陰陽師は呪符で攻撃してくる人が多いって話し、しましたよね」


「ええ、その時なんであんたがそうしないのかについても聞けずじまいね」


「だからこそ、ですよ。他の人が呪符で攻撃して強制的に輪廻に送り返す。そうしている中で俺たちまで同じ事をしてしまえば誰もあなた達に手を貸してあげる人達はいなくなる。そんなの寂しいじゃないですか。誰よりも純粋できれいな願いを持つあなた達がその願いをかなえることも出来ずに輪廻に帰る。そういう不条理が俺は、俺たちは、我慢ならない。だからこそ、俺たちはあなた達を相容れない存在としてではなく一人の人間として接していきたいんです。やっぱり最後はハッピーエンドがいいですしね」


その、まるで子供のわがままの様な理由に仙波海里は唖然としてしまう。しかし、それと同時に これがこいつのいいところなんだろうと考え直す。そして、常識に囚われないその在り方が仙波海里には眩しかった。だからこそこんな言葉が出たのだろう。


「あんた、強いのね」


その言葉に対し水芭蕉誠は今までで一番のドヤ顔でその言葉に対する返答を返す


「これでも、無敗の陰陽師なので」


「あら、幽霊界の魔法使いじゃなかったの?」


その言葉を聞き誠は「じゃあ」と言葉を続ける。


「これからは無敗の陰陽師兼幽霊界の魔法使いを名乗ることにしますよ」


その言葉を聞くと、仙波海里は初めて誠に対して笑顔を向ける


「あんたにはぴったりのいい異名ね。それと最後にあんたと友達になれて良かったわ」


そう言うと彼女は今度こそ光の粒子となり完全に成仏したのだった。


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