バラタコ〜拓と私シリーズ〜
「今回は、これを探して指定の場所へ奉納してきてほしい」
白い紙に墨で丸いものが描かれていた。その丸には目と鼻と口があって、手足も無数にあった。
「また逃げ出したんすか?」
拓がうんざりして言った。
「いや、もともとそこに生息しているらしい」
「らしい?」
星史郎さんがふむ、と声を漏らす。
「海にいる。何匹もいるが、その中の1匹だけでいい」
「あの、私、泳げません」
私がおずおずと言うと、拓が「俺にまかしとけ」と頼もしく言う。
「あの、これ、たこ、ですよね?普通の」
「そうだ」
「なんだ。じゃあ、魚屋で買っていけばいいじゃん」と拓が言う。
「それが、天然のじゃないと、奉納先が困るんだ」
なんでも、子宝に恵まれるように「多子」が儀式に必要なのだとか。
「代々世継ぎに恵まれるように祭事をするらしい」
「これ、数の子とかじゃダメなんですか?」
「もちろん、数の子も用意してことにあたるらしい」
「ふえー」
星史郎さんのところを後にして、
なんだかなぁ、と拓がぶつくさ言った。
「星花、星花」
「なに?」
「ユリイカの反対ってなーんだ?」
ユリイカ?
「反対なんてあるの?」
「うん。バラタコ」
「なんで?」
「百合も烏賊も白いだろ?で、薔薇と蛸は赤い。ユリイカはわかったという意味だから、バラタコはわからない、という意味」
「あー、はいはい」
たまに変なこと思いつくんだから。
「で、海に潜るの?」
「いや、タコツボ業者をあたって、海から引き揚げたのを持っていくよ」
たこを入れて運ぶクーラーを買って、海へ。
「星花、海と山、どっちが好き?」
「山かな」
「海もいいよ」
「うん」
でも、怖い。
漁船で沖へ出て、タコツボを引き揚げてもらう。
「いっぱいいるう」
おにょろおにょろ。
「ほれ、早く捕まえんと逃げてしまうぞ」
漁師の声に、網で捕まえる。
「しまった」
拓の声に見ると、双頭のたこが網の中にいた。
「これ、大丈夫かな?」
他はみんな逃げてしまった。
星史郎さんに指示された場所へ持ってゆく。
翌年。双子が生まれたと聞いた。星史郎さんは困った顔で、とくとくと私たちに言って聞かせた。
「わかったかい?」
「バラタコ」と拓が答えた。




