表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風は遠き地に  作者: 香月 優希
第一章 遥かな記憶
6/96

亀裂 1

 疑念を抱いたダリュスカインは、ちょうど大陸の南からやって来ていた行商人を訪ね、今現在の"竜の加護"の継承者がどうなっているのかの情報を聞き出していた。行商人から得た情報は、思った以上に多かった。

「ああ、あそこは相変わらずですわ」恰幅の良い行商人は、少し呆れたような口調で答えた。継承者はやはり、二十年近く前から不在のままだそうだ。

「魔物を抑える役割の神殿だってのにねぇ。ここのところ道中も物騒になってきたし、どうなっちまうんでしょうなぁ」

 不在の理由も聞き出すことができた。行方不明の継承者は当時二十歳(はたち)ほどで、神殿で反対された結婚を押し切るべく、恋人と駆け落ちをしたらしい。不埒な事態に、神殿側は当初、その事実を押し隠していたのだが。ここ最近になってやっと、彼らが北へ向かっていたという情報があり、神殿の者たちがドラガーナ山脈(竜の背)付近を捜索しているが、続く手がかりは見つかっていない。しかしあの辺りは十七年前のドラグ・デルタ火山の噴火の際、広範囲で火砕流が起こり、場所によっては十キロ以上も離れたいくつかの村や集落を飲み込んだので、もしその辺りに住んでいたのなら、巻き込まれてしまったのではという噂もあるそうだ。

「黒髪、黒目で、まあまあ見目もいい若者だったようですぜ」行商人は美味そうに煙草の煙を吐きながら、やや下世話な表情で笑ったが、ダリュスカインはハッとした。

 まさか、そんな簡単に一致するわけなどない。黒髪、黒目の人間など、珍しくはない。だが──

 噴火は十七年前。啼義(ナギ)が山の麓で(レキ)に拾われた年だ。彼が、()()()である可能性はないのか?

 遥かな昔、大陸を死の恐怖に陥れたといわれる淵黒(えんこく)の竜を退治した蒼空(そうくう)の竜。

 長きに渡り大陸の安泰を保つために、蒼空の竜がその時の戦いを助けた神官に授けたとされる、"竜の加護"。その力がどんなものなのか、ダリュスカインは知らない。故郷にいる時には、そんなに気にしたことがなかった。それ故、今まで思いつきもしなかった。

 だが、加護というからには当然、本人を護る力も働くのではないか。啼義は発見された時、すぐそばでまだ溶岩流が(くすぶ)っているような場所だったにも関わらず、(かたわ)らにあった剣と共に無傷だったという。そして、普通より明らかに高い身体回復力。怪我をしてから傷が治るまでの期間が、ただ少し丈夫なだけ、というには(いささ)か早すぎると、医師はいつも驚くのだ。

 一つ一つが点同士を結ぶように、繋がりが浮き上がって見えるような気がした。

 確証はない。しかし、否定しようのない予感が頭の中で急速にまとまり、形を成していく。()()が蒼空の竜の意思を引き継ぐ力ならば、例え石像であっても、淵黒の竜に牙を剥くのは、あまりに当たり前のことだ。

 それが本当なら、自分たちの目的を達成するのに、啼義の力は使えるどころか、もしかしたら全くの逆かも知れない。その可能性に、靂は気づいているのだろうか。蒼空の竜の力は、魔物を抑する。それはエディラドハルドの平穏には貢献するのだろうが、死者を蘇らせることは出来ない。今の自分たちに必要なのは、死を司り、魂を呼び戻せる淵黒の竜の力だ。どの道、目標を達した暁には、あらゆる魔術を駆使して、淵黒の竜の力を再度封じ込めるつもりはあるが、それまでに邪魔をされるわけにはいかない。

<このままではいけない>

 万が一のことを考え、靂の耳に入れておかねば。

 ダリュスカインは、はやる気持ちを抑えながら、(やしろ)への道を急いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ