タイトルとか正直毎話は見なくない?
「それでは、本日の活動を始めます」
文系サークルが集まっているサークル棟は、一部屋がとても小さい。貧乏学生の家と謙遜のない広さで、本棚と机と椅子を入れればもうみっちみちだ。
で、あるからして。俺は週に一度の活動中、そんな狭い空間の中で先輩と膝を突き合わせることになる。
めっちゃいい匂いする。
「やっぱ殴り合いかなって思うの。男と男の友情は拳で育まれるって言うし」
机の上で細い指を組んで、先輩は重々しく頷いて見せた。それからマーカーを取り出して、土手、夕陽、殴り合い。と顔に似合う美しい楷書でホワイトボードにお書きこみになられた。
絶妙に言動が香ばしいな。
「だから今週の活動テーマはね、これです」
「チェンジで」
殴り合いの代わりに、河原で3時間走り込みをすることになった。
物語研究会は、物語を研究する会である。
具体的に言うと、沢山の経験をしてインスピレーションを経て、各々の経験に活かそう!という趣旨のサークルらしい。幽霊部員が7名、そして先輩と俺の9人で構成された、よくわからない集合体だ。
しかし、俺が加入してから早2ヶ月、集会日は週に2回なので、8回分。活動内容は混迷を極めており、光は未だ見えない。
「河原はねー、ダメでしたね」
草むらに寝転がって、先輩は空に向かって薬指を立てた。中指ではないところが先輩らしいような、そう思ってしまう自分がなんとなく嫌だ。理解はあまりしたくない。
「むーだにー、つかれただけー」
「そすね」
「あ、でもみて、夕焼けですよ。きれーい」
「そすね」
うーん、と唸って、先輩が静かになる。
俺も静かに夕焼けを見上げた。空をじっくりと眺めるなんて、いつぶりだろう。清々しい気分になる。
ふと、空に一番星を見つけた。横からもすっと指が伸びて、空を指す。
「こういうの、ちょっと青春っぽ」
「人数、足りないんじゃないかな」
「くないですね、は?なんですか?」
いい感じの雰囲気が一瞬で霧散した。
先輩はむくりと起き上がり、拳を握りしめる。俺もつられて起き上がる。柔らかそうな頬が赤らんで、瞳がきらきらと輝いていた。
かわいい。
阿保なのに。
「2人って少なくない?って実はちょっと思ってたの」
佐藤くんもリアクション薄いし、と続けて先輩は拳を突き上げた。俺、そんなにリアクション薄いか?
「こういうのって3人がバランスがよくないかな。ライトノベルだって大体メインメンバーは奇数いる気がする」
拳につられてもう一度空を見て、よーくみて、一番星がなくなっていることに気づいた。衛星だったらしい。
「しょっぱい」
「汗のかきすぎかな。塩チャあげるね」
「あざす……」
小さなタブレットを俺の掌の上にふたつぶほど載せて、先輩はウインクした。
「じゃあ幻の3人め探し、やろっか!」
「やりません」