泥濘
前話はほんわかした感じにまとめたので、ギャップに不安になります。まだまだ病んでいきます
私の経験豊富な姉が言った。
「それ、お互いに束縛が強すぎて普通じゃないよ」
私は、それでもいいのと笑う。
携帯が鳴った。ああ、なんでもいいから早く返さなきゃ。
『今何してるの?』
『姉さんと食事しているの』
『男じゃないよね』
『もちろん』
『信じてる。裏切ったら絶対に許さないからね』
今きたメールの内容を姉に話す。
「礼司くんって、昔からよく遊んでたイケメン君でしょ。ちょいちょいやばいね」
現在妊娠中の姉は、呆れたように呟いた。
「なっちゃん、会いにきちゃった」
カフェから出ると礼司が現れた。姉には一切視線を向けず、私のことだけじっと観続ける。
「なっちゃん、僕寂しかったよ。ねえ、今日は僕の家泊まりにきてよ。なっちゃんだけを愛してる。」
恍惚としたように、熱に浮かされしゃべり続ける礼司。私は礼司についていく。
姉は独り言を呟いた。
「なつが普通じゃないから、変な子に好かれるのかな」
私と礼司はどちらからともなく手を繋いだ。あたりが少し暗くなっていた。
「なっちゃん、明日は水族館行こうね」
黙ってニコニコしていれば礼司は勝手に喋ってくれる。
「今日はなっちゃんが好きな、オムライス作ってあげるよ」
家に着いた。1人でご機嫌そうにしている礼司。
礼司は、玉ねぎをトントン刻み、ボールに卵を開けていく。ガシャガシャ混ぜる音。香ばしいバターの匂い。
「なっちゃんにお願いがあるんだけど」
その声は感情というものが読み取りづらかった。愉快そうにも聞こえるし、冷たさも感じる。
「男の連絡先、全部消して。そしたら僕もなっちゃんのこともっと楽させてあげる。いつでもなっちゃんの頼みならきいてあげる。それにね、僕はなっちゃんの唯一の友達になりたいんだ。ねえ、いいでしょ?」
気付いたら、料理を持って私の目の前まで来ていた礼司が、私の目を覗き込んだ。その目は笑っていなかった。
「私は、礼司のことだけが好きだよ」
私は力なく呟く。
「礼司だけ見てて、その礼司に飽きられたらって怖くって」
「大丈夫。ね、お互い信じようよ。僕もなっちゃんが連絡先から男を消してくれたら信じるよ。ちなみに、僕の連絡先は家族となっちゃんだけだよ」
私は、礼司に信じて欲しくて、関わりの多少あった異性の連絡先を消した。
「まあ、女の子と遊べばいいしね」
落ち着かない気分と不安感をかき消すために、私はオムライスをがっとすくって、口に入れた。
少し怖いような気がしたのを気のせいだと思いたくて、私は美味しい美味しいとはしゃいでいた。