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全自動世界の実現に向けて  作者: よしあき
Phase 1 全自動生活
2/12

全自動タクシー

 全自動乗用車の普及は、タクシー業界に革新をもたらした。

 人が出かけたいタイミングと、どこに出かけたいかがわかる仕組みは、タクシー業界にとっては喉から手が出るほど欲しい情報である。

 マイカーを持っていない層なら尚更だ。



 そこでタクシー業界では、送迎を希望する人に対して自動送迎をするシステムを取り入れた。

 スマートフォンやウェアラブル端末など各々が保有しているスマートシステムが、目的地とそこに向かう手段としてタクシー送迎が適している場合を判別し、出発直前に自宅前まで無人タクシーが迎えに行くよう、タクシーに通知するシステムである。



 全自動タクシーには大きく分けて2種類のタイプが存在する。


 一つは従来のセダンタイプ。出発地から目的地まで一組だけが利用するもので、2020年代の有人タクシーと同程度のコストがかかるものだ。


 もう一つはミニバンタイプのタクシーで、バスのように乗合を前提としたタイプだ。

 「相乗りタクシー」と呼ばれるこのタイプのタクシーは、経路が重複するような複数の客を乗降させる仕組みになっていて、どちらかというと、経路が自由なバスに近いイメージだ。


 全自動運転技術により渋滞が緩和されたことにより、値段がバスと変わらない相乗りタクシーの需要は非常に大きく、今や近距離旅客輸送の要となっていた。



 ◇ ◇ ◇



「はー、行きたくない」


 何度目かわからない溜息をつきながら、礼服を取り出した。

 今日は職場の同期の結婚式の二次会に呼ばれている。

 同期仲間は基本的には好きだが、ことパーティーとなると外資系のイケイケな社風がモロに表れてパリピの巣窟と化す。

 実はそういうノリがかなり苦手なのだが、ノレないからと言ってさすがに結婚式の二次会のお誘いを断ることもできず、こうして出発の準備を進めている。



「よし、行くか!」



 気合を入れる。

 パーティーピープルと付き合うには気力が必要だ。

 礼服の用意を始めた時点で僕のスマートシステムが相乗りタクシーを呼んでくれているようだ。

 スケジュールに入っているから目的地も完全に把握している。


 ちょうど家を出たタイミングで相乗りタクシーが目の前に到着した。

 相変わらず便利だ。

 僕は奥の席を指定されているようだ。この後相乗りする人がいるのだろう。


 しばらくすると、タクシーが止まる。

 外が見えなくなっていることから、相乗りだということがわかる。

 同乗者のプライバシー保護のため、乗降があるタイミングの前後では外の景色が見えないよう工夫がなされている。


 乗り込んできたのは落ち着いたブルーグレーのパーティードレスを着用した女性だ。

 目的地が近い人同士が乗るものだ。きっと同じ式場に向かうのだろう。

 ひょっとしたら同じパーティーかもしれないので、軽く会釈だけ行う。

 彼女も私の服装に気づいたようで、会釈を返してくれた。



 ◇ ◇ ◇



「ふう……」


 パーティーはいつも通り、ケーキ入刀からのファーストバイト、ビデオ紹介にビンゴゲームという流れだ。

 僕は所在なさげにご飯を食べつつも、様々な出し物を楽しんだ。パリピのノリがわからないだけで、こういうイベント自体は好きなのだ。


 気付くともういい時間だ。

 パーティーは締めに入り、本日の主役二人の見送りで会場を後にする。


 同僚はこの後新婦友人と共に飲み会(合コンともいう)に行くのだろう。

 彼らも合コンで適切な役割を持たない僕を誘うことはなく、別れを告げてタクシーを待つことにする。



 左手の時計が震える。


 どうやらタクシーが来たようだ。

 ミニバンを探して乗り込むと、そこには往路で一緒だった彼女がいた。

 会場では見なかったから別のパーティーだったんだろうが、家も近いんだろうからこういう事もあるだろう、と思い数時間前と同じ様に会釈して座る。



 タクシーに揺られながら考える。


 あいつ、幸せそうだったな。

 いい奴ほど結婚が早い。同期の男の結婚順をみるとあながち間違いじゃない気がする。


 そう考えると、自分も出会いが合コンなんて嫌だ、みたいな気取ったことを考えてないで、少しでも早くたくさんの出会いを経験すべきかもしれない。

 待っていても、理想に近い相手は売れていくばかりだ。

 でも、合コン特有のあのノリで誰かと付き合うところまで関係を進展させることなんてできそうにない。

 自分はゆったりとした雰囲気を楽しみたいのに、合コンで大人しくしてたらただの暗い奴になるからな。



 とりとめなく自省していると、タクシーが止まる。どうやら目的地に着いたらしい。



「ここ、どこだ?」


 そこは小さな喫茶店にみえる。

 どうやら、僕のスマートウォッチはここに寄れと言っているらしい。

 こいつのリコメンドに従って嫌な気分になったことはほとんどないので、提案を受け入れ、扉を開けようとした。


 ん? 後ろから同乗していた彼女も降りてきた。どうやら彼女もここが目的地らしい。



「どうも、こちらに入られるんですか?」


 無視するのも不自然なので、話しかける。


「はい、来たことはないはずなんですが、なぜかここに招待されてしまったみたいで」


「私も初めてなんですが……入ってみますか」


 扉を開ける。バーのマスターが私たちを迎える。


「いらっしゃいませ。お二人様ですね、こちらへどうぞ」


 マスターは僕たちを二人掛けの席に案内する。


「い、いえ……私たちは……」


「さあさあ、どうぞ」


 マスターは有無を言わせない口調で、僕たちを座らせた。


「ご注文をどうぞ」


 ご、強引だ。仕方ない。メニューはどこだろう。あ、あの黒板か。コーヒー、紅茶、ソフトドリンク。よし、決めた!


「「あ、あの」」


 彼女と発声が被る。


「「ど、どうぞ」」


 う、仕方ない、先に注文を言ってしまおう。


「「クリームソーダをひとつ」」


 えぇ、そこ被る?? マスターは笑顔を浮かべて


「クリームソーダお二つですね。かしこまりました」


 と言って去っていった。僕らは顔を見合わせると、二人とも笑いがこらえきれずに吹き出してしまった。


「奇遇ですね、クリームソーダがお好きなんですか?」


「ええ、先ほどのパーティーでは雰囲気にあてられてケーキを食べ損ねてしまって」


「わかります。僕も一緒です。甘党なのに、ケーキまでたどり着かなくて」


「確か行きのタクシーでも一緒でしたよね」


「そうですそうです。行きも帰りも一緒だなんてすごい偶然だと思ってました」



 話が弾む。クリームソーダ様様だ。



「失礼します。クリームソーダになります」



 マスターが飲み物を持ってくる。


「あ、どうもありがとうございます」


 二人でそれぞれクリームソーダを受け取る。


「ちなみに、お二人の注文が被ったのは、偶然だと思われますか?」


 どういう事だろう? 二人して不思議な顔をしていたら、マスターは話を続けた。



「私はそうは思いません。

 相乗りタクシーは、大規模商業施設のような大勢の人が集まるような施設以外では、基本的には同じ目的地で相乗りをさせることはないですから。

 どうしても気まずいですからね。

 二人でここにこられたのは何かの縁かと思います。

 差し出がましいようですが、大事になさってください」


 そうか、ここのマスターにしてみたら、二人が知り合いかどうかは関係ないのか。

 それならあの強引な接客も頷ける。

 二人で来た以上、二人掛けのテーブルにとおす、それが最善だってことか。


 勇気の出しどころなんだろう。

 ふと彼女をみると、ちょうど目が合った。

 お互い少しはにかんだ後、自分から話を切り出す。



「すいません、自己紹介が遅れました。築山と言います」


「花園です。こちらこそ名乗りもせずに」


「せっかくなのでもう少しだけ、話にお付き合いいただいても?」


「ええ、ぜひお願いします」



 よし、今日は彼女の連絡先を手に入れよう。動かないと何も始まらないんだから。

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