偉大なる強く良き王は、平和のあり方を教える
たくさんの方にご覧いただきありがとうございます。
ジャンル日間ランキング一桁記念と、希望も頂きましたので、王子目線でその後のお話です。
雰囲気が大分異なりますので、淡々とした雰囲気がお好みな場合は申し訳ありません。
平和になって三年経った。
去年、父上待望の妹が生まれ、平和の象徴のようになっている。母上に似た妹はとても可憐で、父上はメロメロだ。
皆の前ではあんなに威厳があって、強くて格好良い父上なのに、家族の前ではただのデレデレ父上なのが可笑しい。
僕は七歳になった。
公の顔というものの使い分けも理解しているつもりではある。僕だって「父上!」と呼んでしまう子供ではもうないのである。
だからこそ思う事がある。
父上、母上と一緒の公務では、その……少し控えた方が良いのではないでしょうか、と。
先日、辺境域の慰問があった。先の戦乱で被害の大きかった北側の国に接する地域の復興祭が有り、それに参加したのだ。
妹はまだ幼過ぎたため今回は不参加となったが、僕は民と共に避難したり……と少なからず縁があったので参加出来る事になった。
道中は、戦火が広がる最中に見た景色とは一転しており、馬車に手を振る民の顔も明るい。その様子に僕はすっかり嬉しくなって、窓から身を乗り出して大きく手を振り返していた。
「あまり身を乗り出すものじゃない。警備の者に迷惑が掛かる」
「大丈夫だよ父上、だってこんなに楽しそうなんだよ。それに僕らは一緒に戦火を逃れた仲間なんだ。あ、ほら、あそこに遊んだ子が……」
「……、馬車を降りたらその言葉遣いは直すように。それから市井の子供たちとは……」
「大丈夫ですよ、この子はその辺、あなたよりきちんとしております。市井の子供たちとも、ある程度弁えた関わりでした。あの時はそうしなければ泣き出してしまう子供たちもおりましたので……」
母上は僕の言葉を肯定してくれた。更にあの時の僕がどのくらい活躍したのか、もう何度目か分からない話を更に続けようとしたのだけれど、
「……。もう良い」
母上の言葉を遮り、ブスっとした顔をした。
え、父上、もしかして……
「話に混ざれないと、拗ねてらっしゃるの?でもあの時私を側に置かない選択をしたのはあなたでしょうに」
僕の予想も、母上の言葉も的を射ていたようで、分かりやすい父上は「どうせ音信不通だったさ……」と更に拗ねを拗らせていた。
母上と僕は顔を見合わせ、可笑しくてクスクスと笑った。
ここがお城の家族の居室だったら、絶対大声で笑ってた。
因みに母上は意外と笑い上戸で、笑い出すとしばらくそのままだ。
父上はそんな母上を拗ねながら横目で見つめ、とても優しい顔になっていた。
……、そういうの、僕が寝てる時にして欲しい。
やっと父上の機嫌が戻ってきた頃には、はしゃぎ過ぎたせいか、僕は眠くなってしまった。父上、あれ位の事で拗ね過ぎです。
僕が寝たら、馬車の中は薔薇色空間なんだろうな、なんてマセた事を思っていたのだけれど。父上はそんなものじゃなかった。
僕は母上の隣に座り、父上は向かい側に座っていた。うとうとと母上の肩に寄りかかり、母上には「膝に頭を預けて良いのよ」と声を掛けてもらったのだけど。
「俺の席と交換して、すっかり横になった方が良く眠れるだろう。ほら、こちらに来なさい。クッションもブランケットもあるぞ」
そう言って、ヒョイと僕を持ち上げた。
眠かった僕は、半端に横になるより、確かに気持ち良く寝られそうだと向かい側の席に横たわったのだけれど……。
父上、これって本当に僕のためでしょうか?
嬉々として母上の隣に座った父上を見て、僕は微妙な顔になりつつも目を閉じる事にした。
眠かったのが一番の理由だけど、僕は昨日から馬車ではずっと母上の隣に座っていた。今
くらい父上に譲ってあげようという、優しさだ。
半分寝ぼけた僕の耳には、母上の「大人気ない」という声と、父上の「これとはライバルだからな、俺は君と血が繋がって無い分、分が悪い」なんて声が聞こえた。
父上、玉座の父上はあんなに威厳があって、馬上の父上はあんなに格好良いのに、なんで僕らの前ではこんななの?と盛大にため息をつきそうになった。
尚、母上には、
「二人きりの時は、もっと凄いわよ」
と、惚気なのかわからない謎の自慢をされたのは後日談。母上もなかなかのものだ。
辺境域に到着し馬車を降りれば、激甘蜂蜜練乳がけお砂糖を添えてな父上(ところにより母上も)は、その姿を激変させ、それはもう威風堂々とした王だった。父上格好良い。
ずらりと両脇に並ぶ近衛の面々に、軽く手を上げ道中の労を労う。
その横顔に先程までの柔らかさは一欠片も無く、いっそ厳しい眼差しは、さすが戦の多いこの国を見事な迄にまとめ上げ、近隣諸国との和平を取り付けた手腕の王のものだった。王となって十年に満たないにも関わらず、その発言力は世界規定連合でも群を抜いているそうだ。
そんな父上は、馬車から身体を出した母上に、それはもう自然に手を差し出す。
その手に、白魚のように繊細な母上の指先が掛かると、一瞬だけ甘やかな視線を母上に向ける。母上の後ろにいた僕は、父上の流れ弾視線が掠める。掠めただけなのに凄い甘さだ。父上の変わり身の速さは馬上槍の速度を超えるに違いない。
一枚の絵画のようなエスコートを終え、平伏する辺境伯に挨拶する頃には、為政者の顔をしているのだから本当に凄い。
出来る王は仕事とプライベートをきっちり分けていた。働き方改革もびっくりだ。
一言二言辺境伯に声を掛け、それからは現状や支援の謝意を聞き、復興祭式典へ参加の運びだ。
僕は母上に付き添い、ご夫人方やその子息子女とにこやかに言葉を交わす。
避難の際、辺境域の貴族は夫人方が中心となったので、母上も僕も知らない仲じゃない。
長い時間の公的行事にあまり慣れていない僕としても、とてもありがたい。
ただ、王都から離れた辺境域に僕らが訪れるのは数年に一度の事のせいか、歓待がもの凄い。これを機に更にお近付きに感が否めないのはご愛敬と言ったところか。……などとマセた事を考えていた。
父上は少し離れたところで、辺境伯を中心に貴族たちや先の戦いで武功を挙げた騎士、医務官、避難に貢献した兵たちを労っているようだった。
式典は復興祝いの意味合いが強く、参加者は貴族、騎士のみならずたくさんの民と様々だ。勿論警護の関係上、身元が確かな者だけではあるが。けれど、あれ程の武功や手腕の王が市井の者とこのように触れ合うのは稀な事。
父上の今後の方針が伺えた。
和気あいあいとした空気の中、母上の近くにいたご婦人方のドレスの隙間から、小さな平民の男の子が駆け出して来た。
ご婦人方は男の子に驚き、バランスを崩してしまう。それに驚いた隣のご婦人や、男の子本人も驚いて、よろめいたり手にしていたグラスの中身が溢れそうになったりと、ちょっとしたパニックになりかけた。
ドミノ倒し……じゃないな、うーん、将棋崩しみたいなまとまりの無い感じと思ってもらえたら想像しやすいかな。
勿論母上も周りのご婦人方のよろめきも有り、バランスを崩しかける。
マズいなと思っても、僕はまだ七歳。身体も小さく、支える事も出来ない。
ぐらり、母上がほんの少し揺れた次の瞬間、母上の隣には父上がいた。父上、ずっと見てたの?母上危機アラームでもあるの?あと瞬間移動の魔法でも使えるの?(この世界に魔法は存在しない)とりあえず父上凄い。
だけど母上は意外と体幹がしっかりしていると言うか、運動神経が良いと言うか、ぐらりとしただけで転ぶ事は無く。むしろ近くにいた転んでしまいそうなご婦人を支えていた。母上騎士みたい。格好良い。
更に原因となった男の子をさり気なく助け、「気をつけて。レディを前にしたら紳士は慌てない事よ」とウィンクをして場の雰囲気を和らげていた。
そうなると微妙な存在となってしまうのが文字通り飛んで来た父上だ。支えようとした手が宙を描く。
父上はバツの悪そうな顔をして、そんな父上に気付いた母上はにこやかに「ありがとうございます」なんて微笑んでいる。
威厳ある王形無しだけど、ご婦人方は皆顔を赤らめていた。こういうところが人気の秘訣ですか父上、母上。
男の子はどうやら避難の際に一緒だった子の一人だったようで、母上に小さな花束を差し出した。
男の子の両親と思われる男女が大慌てで駆け寄り、頭を地面に擦り付けようとする前に、母上は花束を受け取り騎士の礼を取った。
母上が騎士の礼を出来る事にも驚きだけど、今それをした事にも驚いた。
「国民あっての王族です。あなたたちが我々に尽くしてくれるよう、我々もあなた方に尽くさねばなりません。あなたの感謝を心に刻み、この平穏な時間の維持を王と共に努めましょう」
厳かな言葉に男の子は興奮で顔を赤らめ、その両親は膝をついて涙した。
周りにいたご婦人方も拍手でその声に応えて、王族に永遠の忠誠と同様の振る舞いを誓った。
式典のクライマックス感があったけれど、辺境伯の演説や父上からの褒賞などはこれからだ。どうするのかこの空気……とは思ったけれど、むしろこの空気は熱気となり、復興式典は歓喜の式典となったと記される事だろう。
式典の後は祭が開催され、僕も少しだけ雰囲気を楽しむ事が出来た。
ありがとう、たくさんの民から声がかかる。嬉しいよ、助かった、口々に声が上がる。
父上や母上が守ったのは、この国なんだと実感した。
ただの家族デレな父上じゃない、冷たい為政者な王じゃない。父上が聖人君子でない事なんか分かっている。見せる顔が違い過ぎる、恐らくまだ僕に見せてくれていない顔もあるのだろう。
けれど、こんな風に明るく嬉しそうな民に頷き応える姿が、これが王だと、教えてくれる。
父上が僕を連れて来た意味を知った。
改めて尊敬し、誇らしく父上を見上げる。
僕を力強く見つめ頷いたりして、次代の王としての重責を再確認するんだろうな、なんて思っていたら、父上はこちらを見ておらず。
一軒の花屋を注視していた。
見事なカサブランカが軒先に飾られ、大輪の花々が香り高く咲き誇っていた。
常々父上は母上の事を百合のようと称えるので、百合の花は母上の象徴だ。花屋でも人気と聞く。
父上は花屋に駆け込み、店主が恐れ多いと頭を下げようとするのを制し、見事なカサブランカを指差し、この花屋の全てを買い取るから急いで花束を作れと命じた。
目を白黒させた後、大喜びで大慌てというグルグル回る駒のような様相で店主は花束を作りあげる。
手で抱えるのに限界な花の量以外は、アレンジメントにして後で届けさせるとの事。
百合を中心とした豪奢な花束を抱えた父上は、物凄く格好良いのだけれども。
花束のせいで更に注目されてしまい、祭の視察は終わりを告げた。
母上は警護の関係から、と父上に言われ、辺境伯夫妻と共に式典会場でお茶を楽しんでいた様子だった。
祭は始まったが、多くの貴族は式典会場で交流を行っている。
和やかな騒めきをかき分け、カサブランカの花束を抱えた父上(と、小走りの僕)は会場に戻って来た。
母上は先程男の子にもらった小さな花束を辺境伯夫妻に見せていたところだったのか、まだ花束を手にしていた。
「お早いお戻りでしたね。いかがなさいましたか?祭を楽しむとおっしゃっていたのに」
母上は珍しく少しだけトゲのある声を出した。祭を見回れなかった事を拗ねている様子だ。ジト目で父上を見上げる。
父上はおもむろに大きなカサブランカの花束を母上に差し出した。
がさり。
重量を感じさせる花束の音に、母上は持っていた小さな花束をテーブルに置いた。
その事に気を良くした父上は、
「我が王妃たる君が持つならば、やはり俺からの花束でなければ」
母上は両手で抱えても落としそうな花束を必死に抱える。ところで父上、一人称が崩れてますよ、「俺」は家族内だけの約束ですよ。
「小さいとは言え男子。身分など関係無く、等しく俺のライバルだ」
真面目な顔で花束を抱えた母上を支えながらそう嘯く。……嘯いたんですよね、本気じゃないですよね父上。
「ライバルも何も、私はあなたのものですよ」
さすが母上、この程度では顔を赤らめたりしない、が、とても嬉しそうです。
辺境伯は生温かい目で見つめ、夫人は熱の籠もった目で二人を見つめた後、夫である辺境伯に念を送っているようだ。
因みに、後の世で抱えきれないほどのカサブランカの花束がプロポーズの代名詞になるのは、この事がきっかけである事をお伝えしておこう。花束の男の子は花屋に就職して、一財築いたらしい、とも。
そんなこんなで僕の辺境域慰問は幕を閉じるのだけれど、帰りの馬車が花の香りでむせ返りそうなのには辟易した。
父上曰く、花に囲まれる母上が見たいとの事だけど、囲まれたと言うより埋まっています、母上が。
一つ目の休憩エリアで、花々は別馬車に移されたのは言うまでも無い。
「ほらやっぱりあなたよりこの子の方がきちんとしてたでしょう」
くすくす笑う母上、言葉に反して咎める意味合いは薄い。
言われた父上は、チラリと僕を見、母上に向き直る。
「君に関しての懐は、ボタンの穴より小さい自信がある。慌てたんだ、言葉くらい乱れる」
「ばかね」
父上、母上、僕います、一緒の馬車に乗ってますよ〜。
馬車の中の花々は移したのに、あの花の香すら上回る濃密な薔薇色空間に変わりそうで冷や汗をかく。
復興祭はまだ何日か開催されるようで、馬車の外は賑やかな声が飛び交う。
遠く、王を称える声が響く。
かたり。
薔薇の香りにむせ、馬車の窓を開いて民に手を振った。
皆嬉しそうに手を振り返して、「王子はまだ幼いのに素晴らしい」など、僕の株爆上がり中だ。
……、ごめんね、民の声に耳を傾けてる訳じゃないのに。
僕が歳の割にマセてるのは十割この両親のせいだった、と僕の回顧録を書く時には必ず記してもらう事を誓う。
はー。父上、僕が一緒の馬車になる公務では、母上同行の公務は控えてもらえると、父上の威厳が保たれますよ。
妹がもう少し大きくなったら、教えてやろうと思う。
僕らにこんなにデレデレな父上は、母上にはもっと甘々で、だけど人前では、とてつもなく格好良い王様なんだよ、可笑しいよねって。でも、そんな変わり身の早い父上だけど、僕らは愛されていているなぁって。
普通の王族がどんな風かは知らないけれど。僕らは幸せを知っている。
幸せは平和に繋がっている。
戦の多いこの国が、父上の手でどうなっていくのか、どうしようと言うのか、聞かなくてもわかる。
どうか両親がずっと馬鹿みたいに薔薇色な、幸せ空間を作れますように。
そして薔薇色空間が、この国に広がり続けますように。
果たして僕の願いは、迷惑なくらい果たされるのだけれど。
継ぐものの決意をしたのがこの時の出来事だった、なんて、恥ずかしくて誰にも言えない。
お付き合い頂きありがとうございました。
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