最終話
「そなたの功績、何者にも敵わず。何故頭を下げ続けるか。」
厳かな声が響き渡る。
「面を上げよ。」
ゆっくりと、下げ続けたせいで白くなった顔を上げる。
「華の顔が、何てことだ。」
荘厳な雰囲気の中、場にそぐわない笑い声が聞こえた。
遠くで「父上!」と幼い叫び声が聞こえる。
会場は熱気を伴った歓声が上がる。
ああ、あの子にはもう少し厳しく教育しなくては。
「ただいま。」
もっと言い方があるだろう。
曲がりなりにも国を挙げての式典だ。
けれど私はもう耐えられず、ぐちゃぐちゃの顔も構わず、端なくもあなたの首に抱きついた。
「おがえりなざい。」
無様なその声は爆笑を誘うのに、誰一人笑う事は無く、皆が息を呑み、涙を浮かべた。
あなたは私を軽々と抱き抱え、頬にキスをする。
またも大歓声に包まれる事となった会場は、収拾がつかない。
笑い合うもの、我らが武無き英雄に幸あれ!と叫ぶもの、涙を流すもの、恐れ多くもおかえりなさい!と叫ぶもの、抱き合うもの。
皆が笑顔となる中、穏やかに笑って応えるあなたは、壇上のたった一つの椅子、その玉座に、私を抱えたまま座った。
「恐らくこの形が一番皆の心情に近かろう。」
私を称えてくれる声。
不在だった王の帰還。
二つを同時に祝い、二人を同時に敬ってくれた。
「ずるい、ぼくも!」
駆け出そうとする我が子に、この座はまだ早いと一蹴するあなた。
「お前はずっと一緒だったのだから、お前こそ『ずるい』だ。」
と、拗ねた様に私を抱いた腕に力を込める。
そうして、見せつけるように、玉座でもう一度キスをした。
「私は全てをあなたに捧げたのに、何故私を最期まで側に置かなかったのですか? 約束が違います。」
「来たるべきその日まで、首以外は君の元にあったよ。財も地位も、心も、離れて居ても君の元に。ただ、身体は首と切り離せず、これは約束通りとはいかなかったけれど。」
あなたはそう笑った。満面の笑みだ。
王としての威厳ある顔では無く、私にいつも見せてくれていた、少年のように歯を見せた豪快な笑顔。
「身体だけ届けられても困ります。二度とこのようなことの無いよう御努めください。」
私が拗ねた様に言えば、神妙な顔になり私に告げる。
「叶うならそうありたい。けれど、やはり、来たるべきその日がある。俺の首は君に捧げることは出来ない。それでもいいか? 」
疑問形だが、肯定である。否は無い。それでも。
「分かっています。ですから御努めくださいと申しました。」
「素直じゃないな。それで? 本音は? 」
「分かってるなら聞かないでください。あとここ、公衆の面前ですから。」
「聞きたい。」
その顔に私が弱い事を知っててコレだから始末が悪い。
「死ぬまで、死んでも、私を側に置いて。あなたの首が渡るなんて、死んでても嫉妬で狂いそうよ! 」
言うなり私からあなたの唇を素早く奪った。
あなたは爆笑し、会場は歓声に包まれた。
終わり
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