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青く澄み渡る空の下、哀悼を表す白い花が溢れる中、凱旋と式典は執り行われた。
笑顔で国民に手を振る。息子は幼いながらも歓声に応えていた。
時折りこちらを心配気に見るが、掛けられる声に、はにかんで応えていた。さすがあなたの子だ。
長い凱旋の列が終わり、式典が始まる。
私は数段高くなったその中央の椅子に座れと促された。
椅子は、一つしか無かった。
本来なら、二つあるべきその場に、椅子は一つ。
国民も中枢もその椅子に座れと願う。
それだけは出来なかった。
私はその椅子の隣に立ち、静かに頭を下げた。
会場は静寂に包まれた。
澄み渡る空の中、私の目線の先は水溜りが広がっていった。
天気雨かしら。
私は尚も頭を上げる事は出来なくなった。
長いこと頭を上げる事が出来ず、式典を進められない状況に、皆が息を呑み続ける中、静寂と人垣を切り裂いて、確かな足音が聞こえた。
カツン。
かつん。
カツン。
カツ。




