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吸血少女は空を観る  作者: 鮭皮 茶漬
3/3

屋敷の老婆

 夜。辺りは暗いはずなのに、この街は至るところから光に当てられ、まるで昼間の様に感じてしまう。

 父に連れられてレイナが来たのは、広い庭のある屋敷だった。

「今日からここが私達の家だ。」

モリーは玄関を通る時にそう言った。何処となく緊張しているようだ。

 少しの沈黙を見せ、やがて意を決したようにドアノブに手を伸ばす。

 ガチャリ、と音を立てて扉は開いた。

 モリーが玄関から声を上げる。

「母さん、モリーです。レイナを連れて来ました。」

すると、廊下から愛らしい老婆が出て来た。

 モリーの母、エマである。

「やあレイナ、三年ぶりだねぇ。」

「ご無沙汰しております。おばあさま。前にイギリスを訪れて来た時以来ですね。」

レイナは丁寧に頭を下げる。

 するとエマは軽く手を振り笑って言った。

「まあまあ、そんな堅苦しい挨拶しなさんな。前みたいにおばあちゃん、て呼んでくれていいんだよ?」

「ですが、おばあさまは今や私達の一族の長。無礼な真似は出来ません。」

「そんなぁ。」

レイナが頑なに敬語を辞めないのでエマはこう言った。

「それじゃあ、族長からの命令として言うよ。レイナ、アタシをおばあちゃんと呼んでおくれ。」

「はい。おばあちゃん。」

レイナがそう言うと、エマの顔はパァと明るくなり嬉しそうに手招きをした。

「うんうん。ささ、そんな所にいつまでも立ってないで上がりな。レイナの好きな料理も用意してるんだから。」

「はい。お邪魔します。」

レイナが屋敷の中に進むのを見て、モリーも後に続く。

 

 エマの勧めるままに、二人が客室のソファに腰掛けるのを見て、エマも椅子に座る。

「ところで、どうして日本に移住しようと思ったんだい?」

話を切り出したのはエマだった。

「母さんが日本にいるからだよ。叔父や父が失踪して、一族は私達だけになってしまった。そんな中、母さんを独りでいさせる訳にはいかない。」

モリーが答えると、エマは「そうかい」とだけ言って、部屋を出て行った。

「ふう。」

モリーは安心したように息をついた。

「おばあちゃん、怒ったの?」

心配そうにこちらを見る娘に、モリーは優しく笑いかけた。

「大丈夫。怒ってなんかいないよ。昔から感情表現の苦手な人だったからね。誤解されやすいんだ。」

「ならよかったわ。」

レイナはそう言い、肩の力を抜いた。

 祖母といえど、一族の長。それを前にしてすっかり緊張してしまっていたのだ。

 軽い足音と共にエマが客室に入ってくるなり言った。

「さあ、夕食にするよ。それが終わったらアンタ達を部屋に案内するからね。レイナ、準備を手伝ってくれないかい。」

レイナは突然の展開に頭が追いつかず、思わず父の方に目を向ける。

 モリーはそれに気付き、にっこりと笑って頷いてやった。

「はい。おばあちゃん。」

レイナはエマの方に向き直り、笑顔でそう言った。

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