第28話 タイムリミットギリギリ!
もうすぐ終わりです。
社長とSteraの話が一段楽したので、今度は俺の番だ。
「で、あの……お聞きしたいことが」
「ああ。何かね?」
社長が俺にそう訊いた。
「ここの会社と最近契約した水島はなびっていう女の子がどこにいるかご存知ですか?」
「水島はなび……ちょっと人事部に電話するよ」
社長はそう言って内線で電話を掛けた。
「私だ。水島はなびという最近我が社と契約している女の子の居場所を教えて欲しいのだが」
そう社長がしばらく応答を待っていた。
そして2、3度返事をした後にこっちに向き直った。
「現在は本社にいない。合宿で山に行っているそうだ」
「合宿……」
ということはしばらくは戻ってこないかもしれない。
だが待ってるだけなんて出来そうにない。
「場所はドコですか!?」
「そんなに急ぎなのかい?携帯電話は繋がらないのかい?」
「ええはい。どういうわけか常に通じません」
「ふむ」
社長が少し思案する。
やがて、手をポンと叩く。
「そうだな。特別に我が社の車を手配しよう」
「え!?いいのですか!?」
どうしてそこまでしてくれるのか、俺には少し分かりかねる。
しかしお言葉に甘えればかなり楽だ。
正直これ以上お金は出せない。
「もちろんだ。君には感謝しなきゃいけないからね」
「え?」
「美月の彼氏なのだろう?」
「はい?」
「な……!」
俺は困惑するが、Steraは驚愕する。
「ち、違いますよ!!俺達はただの友達で仲間ですって!」
「そうかい?残念だな」
まさかこの人は俺のことをずっとそう見ていたのか。
何か恥ずかしいぞ。
「そ、それで車は……」
「ああ。すぐ用意するから下で待っていてくれたまえ」
「はい!」
俺とSteraは社長にお辞儀をして会議室を出た。
そして足早に下へと向かったのだった。
「じゃあ行こうか」
「え?」
何故か社長さんが運転するらしい。
こういうのって普通は部下がすることじゃないのかな?
「正直他人に全任せなんてしたくはなくてね。あの件で」
「あ……」
多分自分の弁護士のことを言っているのだろう。
あのとき弁護士の勝手でこの人は息子さんを……
「すいません」
俺は申し訳なくなった。
せっかく感動の再会だったのに、水を差してしまった感じだ。
「いや、それより準備は良いかね?」
俺とSteraは大きく頷いた。
「よし、行こうか!!」
こうして俺達ははなびの元へ向かったのであった。
どれくらい車に乗っていただろうか。
かなり険しい山道を超えて、もう都会の面影は無い。
「もうすぐだよ」
前の方に旅館が見えてきた。
あそこに行けばはなびに会える……!
俺は期待に胸を膨らませる。
そしてそのうち、旅館に到着したのであった。
「じゃ、行ってきます!」
「あ!」
俺は車が止まって速攻で駆け出した。
Steraが急いで俺を追う。
俺は旅館の入り口を開けて中に入る。
「お、お客様!」
すると受付の人に呼び止められた。
当たり前か。
「すいません!シャイニングラインレコードの方達は今どこにいるのでしょうか!?」
俺はその受付の女性に詰め寄った。
「え、えーと……」
「落ち着いて」
「あ、すまん」
Steraに諭され、興奮状態から開放される。
「それでシャイニングレコードの方々はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「あ、今はみなさんこちらにはいません」
「え!?」
じゃあ一体はなび達はどこにいるのであろうか。
俺が少し思案していると、後から社長の慌てた声がした。
「カイ君!」
どうやら俺を呼んでいるらしい。
「何ですか?」
「今、合宿の担当者から電話があってね、水島はなびさんが見当たらないらしい!!」
「ええ!!!!????」
俺は不安と困惑の両方の気持ちで心の中が収拾がつかなくなっていた。
「今、その担当者はどこにいるんですか!?」
「ちょっと落ち着けよお前!」
Steraから怒号が飛ぶ。
俺はかなり慌てているせいか、ノーマルSteraの口調が変わっていることに気がつかなかった。
「落ち着けるか!はなびは俺達の仲間なんだぞ!!」
しかし俺の叫びにSteraは怯むことはなかった。
そして後ろから肩を掴まれた。
「落ち着きなさい!」
「!!」
怒鳴ったのはSteraの父親……つまりレコード会社の社長さんだった。
「はやる気持ちはわかるが、彼女がどこからいなくなったのか、それを知ることが先だろう?闇雲に探していては見つかるものも見つからない」
「……そう、ですね」
少しだけ頭が冷えた。
確かに社長の言っていることは正論で反論の余地もない。
「場所はここより30分歩いた先にあるキャンプ場。地図を簡単に書く、わからない場合はいつでも電話しなさい」
「はい!」
「私も付いて行くわ。歯止め役として」
Steraが俺に言う。
確かにSteraがいれば怖いものは無いかもしれない。
「キャンプ場付近は安全だが、ちょっと外れると熊とかがいるから気をつけるんだよ」
「はい」
社長は社長さんなりに俺達のことを心配している。
まあ一応愛娘もいることだしな。
「じゃあ行くか」
「ええ」
俺達は駆け足でキャンプ場のほうへと向かったのだった。
キャンプ場付近は騒がしかった。
どうやらはなびの件でゴタゴタしているようだ。
俺達はそこにやってきた。
「な、何かね君たちは。部外者はここに……」
「私たちは水島はなびの知り合いの者です。連絡届いておりませんか?」
Steraはスラスラと台本通りのセリフを言う。
まったく……結構Steraって凄い奴だよな。
俺は少し感心してしまう。
「あ、ああ!君たちのことか!」
「それで状況を知りたいのですが?」
Steraは極力丁寧に、しかい妙に威圧的にしゃべった。
子供だと馬鹿にされたくないのだろう。
「あ、ああ…」
何か気圧されて喋りはじめる、情けない責任者。
「みんなでここにキャンプへと来たのだ。するといつの間にか彼女が…」
「最初にそれに気付いたのは誰ですか?」
Steraが畳み掛ける。
歯止め役のはずがいつの間にか尋問役になっている。
「え、ええと彼女だ」
責任者が一人の女の子を指差した。
その子は妙に気弱そうな子だった。
「あなたが気付いたの?はなびとは親しいの?」
Steraが矢継ぎ早に聞く。
「え、えっと……」
するとかなり困った顔をしてしまった。
「なあStera、それよりはなびの行った場所に心当たりがあるか聞かないと」
「そ、そうだったわ」
案外こいつも興奮していたらしい。
俺が歯止め役に回ってしまった。
「そ、その……」
何かその女の子は妙に挙動不審にキョロキョロ辺りを見る。
そして途端に俯いて首を横に振った。
「そうか……じゃあ地道に捜すしかないな」
俺は携帯を見つめる。
先程から何度も呼び出しているのだが、一行に反応がない。
そもそも最近ずっと繋がらない。
そこで俺は嫌な予感がして来る。
実はとんでもない事件に巻き込まれているのではないかと。
その考えはすぐに払拭したいのだが、生憎不安は拭いきれなかった。
「……はなび」
するとコソコソと一人の女の子が俺達の元へやってきた。
「すいません、少しお話が……」
本当はそんな暇はない。
しかしその女の子は妙にそわそわしている。
何か大事なことを話すんじゃないか、とそんな気がした。
「Stera……」
俺はSteraの方を見た。
Steraはそれに対して無言で頷いた。
「わかった。どうしたんだい?」
「その……はなびさんは樹海の方に行きました」
「どうしてだい?」
「!……そ、それは……」
女の子は突如言いよどんだ。
一体なぜだ?
「察しなさい。大方……まあそんなことはいいとして、カイ、樹海に行きなさい」
「……ああ!」
女の子が言いよどんだことが少し気になったが、それよりも俺ははなびを捜しに行かなければならない。
「お前は行かないのか?」
俺がSteraに訊くと、Steraは首を縦に振った。
「やることが出来たわ。だからあなたが行くのよ。大丈夫、あなたならできるわ」
そう言われて俺は樹海へと足を踏み出した。
樹海は予想通り暗くじめじめしていた。
こんなところにはなびが自分から入り込むとは思えない。
きっと何か事情があったに違いない。
そんな俺が先へと進んでゆく。
不思議と疲れは感じない。
それどころかむしろ力が湧いてくる。
さらに俺は迷わずに先に進める。
まるでそこにはなびがいると確信しているみたいだった。
どうやら修行が役に立ったみたいで何よりだ。
「……はなび」
「キャー!!」
「!!」
俺がそう呟いたからなのか知らないが、はなびの声が聞こえてきた。
しかも悲鳴。
俺は血相を変えて声のする方へと走る。
「はなび!!」
そこには腰が抜けてへたりこむはなびと……興奮している熊がいた。
このシチュエーションはどこかで見たような気もするが、俺ははなび救出のために無我夢中になっていたので気にしなかった。
「はなびーーーーーっ!!」
俺ははなびに向かって駆けていく。
そして伸ばした手ははなびを突き放すことに成功する。
それはギリギリのタイミングだった。
だがそれが俺の命取り。
熊の爪ははなびが元いた位置……つまり俺が今いる位置に振り下ろされる。
グシャッ!
「うっ!」
肉が切られたようなグロテスクな音が俺の耳に入る。
それと同時に右肩に激痛が走った。
「カ、カイ……」
俺ははなびを見たまま微笑んだのだった……
沙希自身、血とかは苦手です。
あと虫も。