第26話 再会、父と娘
光明が少し見えてきました
新幹線なんて何年振りだろう。
俺は今、Steraと一緒に新幹線に乗っていた。
目的地はもちろんはなびのところだ。
俺が修行を終えた日、俺はさや先輩のところに行った。
「さや先輩、お願いがあります!」
俺はさや先輩に土下座しそうな勢いで言った。
「……一体何かしら?久しぶり顔を出したと思ったらこれ?」
「う」
さや先輩は思った以上にご立腹のようだ。
俺はいきなり勢いをくじかれそうになった。
しかし何とか踏ん張る。
「出席停止の期間をさらに延ばしてもらえませんか?」
俺は本当に土下座した。
「フフフこれも中々……じゃなくて。何があった訳?」
「はい!俺ははなびに会いに行きます!」
「……ふう。カイっていざというときの熱意がすごいのよね。はぁ……だからついつい許しちゃう私もまだまだ甘いわね……」
「じゃあ……!」
俺は期待に胸を膨らませる。
さや先輩がやれやれといった感じでため息を吐いた。
「お土産、忘れないように」
「はい!それくらい安いもんです!!ありがとうございます!!!!」
「で、修行のお土産は?」
「……すいませんでした」
修行に夢中でそんなことを忘れていた。
まあそれどころでもなかったのだが。
「まあいいわ。ただし!私の満足するものじゃなければ……分かってるわよね?」
「う!」
さや先輩が邪悪な笑みを浮かべる。
この笑いが好きなマゾヒストがいるようだが、俺は震えしかしない。
つまり、逃げられない。
「わ、分かりました。善処します」
「うんうん!頑張りなさいよ。あなたはやれば出来る子なんだから」
「あなたは俺の親ですか!」
そう返しながら俺はさや先輩にはかなり感謝している。
本当にこの人にはお世話になりっぱなしだ。
「じゃ、行ってきます」
「分かったわ。気をつけて」
俺はその後、生徒会のメンバー全員に挨拶し、みんなに見送られた。
そして今に至る。
「何だかドキドキするな」
「……」
Steraが少し考えこんでいた。
あ、ちなみにエレキSteraね。
「どうした?悩み事か?」
「いや、違うけど」
Steraは首を横に振る。
しかしまあ俺がこんな熱い男だったとは……
「ただ……」
俺がくだらないことを考えていると、Steraが突然話し始めた。
「お前には悪いと思ってる」
「へ?何が?」
しかも意味不明なことを言われた。
俺はSteraにそんな謝るようなことをされたっけ?
「いや、はなびを送り出したこと」
「ああ、そのことか。気にしなくていいさ」
俺は窓の外を見ながら言った。
「そのおかげで俺は一つ乗り越えたものがあるからな」
「乗り越えたもの?」
「ああ」
「……そうか。お前はやっぱり俺の見込んだ男だったよ」
Steraが小さく呟く。
それもそのはずだ。
バンド存続の危機に陥っているから。
「悪いな。こんなことに巻き込んじまって。思えば俺、結構誘い方強引だったよな?」
今頃気づいたのかよ。
おっと口には出して無いよな?
「まあそうだけど。俺は後悔していない。それよりもお前だお前」
俺はSteraを指差した。
「お前こそ、本当は何がしたいのか考えた方がいいんじゃないのか?」
「……けっ。いつの間に説教もするようになったか。まあそうだな……」
Steraは唇に手を当てて考えた。
「俺も乗り越えてみるよ。壁」
「ああ。お前なら出来るさ」
俺はフッと笑って寝る態勢に入った。
「……畜生格好いいじゃねーか」
Steraも寝る態勢に入った。
「ま、乗り越しだけは嫌だな」
俺達は目的地の駅につくまで眠り続けたのだった。
駅はかなり立派だった。
さすが都会!
まあ春木市も十分都会なのだが。
「で、次は何に乗るんだ?」
俺はSteraに訊く。
自慢じゃないが俺は地図を知らない。
全てStera任せだった。
「地下鉄を2本だ」
「分かった」
こうして俺達はとうとう「シャイニングラインレコード」の本社までやって来た。
「こうして見るとここってやっぱりそれなりにすごい会社なんだな」
「そうだな……」
俺達は会社を下から見上げる。
正直ここまでと思っていなかったので、俺は度肝を抜かれた。
「とりあえず……入るか?」
俺はSteraを促して一緒に中へ入った。
何だか少しドキドキする。
「オイ。何だお前達は?」
「……アポイントは取りましたよ。Steraです」
Steraは自分の身分証明書を警備員に見せた。
というかアポイント取ったのか?
「……そうか。12階の会議室Bに行ってください」
俺達は警備員の指示通り、エレベーターに入って12階のボタンを押した。
「で、お前はいつアポイントを取ったんだ?」
「昨日」
「それで今日か。お前って結構優遇されてんな」
「まあな」
Steraは少し不機嫌そうに言った。
チン
エレベーターが鳴った。
どうやら12階に到着したようだ。
俺達は無言で会議室Bに行った。
どうやらSteraも緊張しているようだ。
コンコン
俺は会議室のドアをノックした。
「どうぞ」
中から低い声が聞こえた。
だから俺達はドアを開けて会議室の中に入った。
そして目の前には一人の男が立っていた。
「久しぶりだな。美月、いや今はSteraか。そして初めまして蛟刃カイ君」
俺達はその社長と対面した。
Steraにとっては親子の再会……
これから一体どうなるのだろうか……