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第23話 ある家族の話(前編)

過去編入りました。

外国のとある町に高名な音楽家がいました。

その人はクラシック音楽の指揮者でした。

彼女の才能はとても素晴らしく、国外からもかなりの注目を集めていました。

そして彼女は世界的に有名な指揮者となり、日本人男性と結婚をしました。

彼女はその後、一人の娘を産みました。

その娘は母の才能を受け継いだのか、小さい頃から才能の片鱗を見せます

そして彼女は20歳の頃のある日に、母の故郷のコペンハーゲンに留学しました。

流れるような銀髪は母譲りで、彼女は一人、音楽の勉強をしていました。

そんなとき、彼女には思いがけない出会いがあったのです……




「何かしら?路地裏の方で音が聞こえるわ」


ある日、町を歩いているとなにやら音が聞こえてきました。

彼女は音のする路地裏の方へと行きました。

元々彼女はあまりそういうところは怖くて近寄りませんでしたが、このときだけ自分から足を進めたのです。

するとどうでしょう、ギターを一生懸命弾いている男性がそこにいたのです。

綺麗な音色を奏でていたのですが、周りには誰もいません。

そして男性が顔を上げました。

彼女とその男性が初めて顔を合わせます。


「何だ?じゃなかった……Why are you here?」


男性が日本語で話しかけてきましたが、彼女を見た途端に英語で言い直しました。

彼女はそれにクスリと笑ってしまいます。


「何笑って……じゃねえ……What is funny?」


また男性は言い直します。

それに彼女はこう答えました。


「I can speak Japanese.ごめんなさい、笑ってしまって」


「な……!」


男性は呆気に取られました。

それはそうでしょう、彼女はハーフとはいえ顔立ちは欧州人みたいで銀髪なのですから。

最初は誰でも彼女のことをハーフではなく純粋な外国人だと思ってしまうでしょう。


「あなたの音色、とても綺麗だったわ。どうして外で弾かないの?」


「……別にアンタには関係ないだろ」


男性はぶっきらぼうにそう言いました。

でも実はすでに彼女に惹かれていて、照れているだけなのでした。

これが二人の出会いです。

ともに音楽活動をしており、意気投合した二人は何度か会って付き合うことになったのです。





それから数年後……

二人は日本に帰国していました。

彼女は世界的指揮者に、男性はシンガーソングライターとして名を馳せていました。

最初はぎこちなかった二人の関係も自然なものとなっていき、二人は幸せでした。

そんなときです。


「えーあーそのー」


「?」


ある日、男性はデートのディナーの最中に彼女に話しかけました。

かなり歯切れが悪い話しかけ方ですが、忙しい二人が出会うことなどほとんど無いので、このデートは貴重なものでした。


「えーあーそろそろいいかな?みたいな」


「?」


男性の遠まわしな発言の真意に彼女は気づいてくれません。

それもそのはず、彼女は誰よりも鈍感であったし、男性は誰よりも照れ屋だったのです。

なので男性は極度にモジモジし、彼女は首を捻るばかりです。


「何?何かあったの?」


「いやまああるにはあるけど……」


男性はキョロキョロと辺りを見回します。

そして誰も見ていないことを確認してとあるものを取り出しました。


「あーその……何だ。プレゼント」


「どうして?私の誕生日はもう過ぎたし、プレゼントは受け取ったわ」


彼女は全然気づきません。

しかし男性は頑張ります。


「だからその……ぼ、僕と……僕と……」


「どうしたの?体調でも悪いの?」


彼女の鈍感さが男性の心を締め付けます。

もし断られたらどうしようなどという不安も抱え始めます。

男性が諦めかけたそのとき、店内で音楽が鳴ったのです。


「あ……」


彼女の顔色が変わります。

実はこの曲、男性が彼女に告白するときに送ったラブソングだったのです。

男性はこの曲を聴いているうちに勇気を貰いました。

そう、今しかない、チャンスは今しか無いんだと思い、決断しました。


「あの日僕は、君にこの曲を歌いながら告白したよね」


「ええ。いい思い出だわ」


彼女も当時のことを思い出します。

そう、すでに好きだった相手から告白されたので、この思い出は彼女にとって一番いい思い出だったのです。


「あの日送った僕の気持ち、覚えてる?」


「ええ。本当に嬉しかったわ」


彼女はうっとりと男性の顔を見ます。

そして男性はとうとう言い出します。


「その気持ちをもう一度君に送りたいんだ。夫として」


「え……?」


彼女は少し困惑します。

真意に完全に気づいているわけではないのですが、何かに引っ掛かりました。


「僕と……ずっと一緒にいてください」


そうして男性は指輪を差し出しました。


「これって……まさか……」


彼女の目から涙が溢れ出します。


「あ、その……」


「ありがとう……嬉しいわ……」


突然泣き出した彼女に男性は困惑してしまいますが、彼女の感謝の意に表情が少し和らぎました。


「これからもよろしくお願いいたします」


彼女が頭を下げて男性に言うと、二人に喜びの表情が浮かびました。

二人はとうとう結婚したのでした。





そして彼らはとある会社を立ち上げました。

それが「シャイニングラインレコード」というレコード会社でした。

最初の頃は二人でやっていましたが、彼女が男の子を出産したので、それからは男性一人でやることになりました。

そしてその男の子も小さい頃から才能があったのです。

しかし両親はその子に無理に音楽はやらせませんでした。

両親は将来の道を自由に選ばせたかったのです。

しかしやはり蛙の子は蛙、男の子は自然と音楽をやるようになって行きました。

丁度その頃、会社の方も上手くいき、完全に成功した人生を歩いていたのです。

そんなときに第2児を出産。

今度は女の子でした。

そしてその女の子はものすごく母に似ていて、指揮者としての才能もありましたが、父の才能も受け継いで、それ以外の才能もあったのです。

そう、兄妹そろって将来が楽しみにされていました。





しかし、その直後、悲劇が襲います。

兄4歳、妹1歳のときでした。

飛行機事故で男性は妻を亡くしてしまったのです。

不慮な事故で、たまたま恩師の元に行っていた彼女が帰国するときだったそうです。

男性は深く悲しみました。

しかし悲しんでなどいられません。

彼には二人の子供がまだ残っていました。

なので彼はその子供達二人に全ての愛を捧げようとしました。

しかし家庭と仕事の両立は難しく、家を空ける日が日に日に多くなり、子供達のことを家政婦に任せっぱなしになりつつありました。

それでも頑張って休日を作るあたり、彼の尋常じゃない愛情が感じられます。

しかし不幸は続くもので、今度は会社の業績の悪化でした。

ヒットアーティストの脱退、CD売り上げの低迷化などが重なり、男性が家を空ける日はドンドン多くなります。

そしてそれから男の子はある決断をしました。




「僕にレッスンを受けさせてください」


「急に何を言い出すんだ」


男の子はまだ小学校低学年。

まだ将来の道を固定しなくてもいい年だ。

そんなときに彼は父親にそう言いました。


「僕はお父さんの仕事を助けたい。だから僕が頑張って売れるようになる」


男の子はこのとき音楽界の厳しさをかけらも知りません。

だからこのようなことを言ったのです。

父も普通なら一蹴するところなのだが、それが出来ません。

なぜなら彼は才能があったから。

だから父は彼に賭けてみたいという気持ちも持っていたのです。

最初は渋っていましたが、結局は熱意に負けてレッスンを受けさせることにしました。

そして妹も。

なぜなら父が中々帰ってこないので、妹はお兄ちゃんっ子になっていたからです。

なので妹にも受けさせました。

すると、二人の実力はメキメキと伸びました。

元々の才能と音楽に対する情熱は半端ではなかったのです。

父はそれを見て思いました。


「僕のために子供達が頑張っている。僕は何て幸せな親なんだ……」


このとき男性は幸せでした。

幸せなんて長く続かない、とは到底思う気になりませんでした。

しかしまた悲劇が彼らの元に……










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