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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白雪姫の母に転生→娘が可愛すぎて毒殺出来る訳が無い

作者: 黒好 光軍

 白雪姫で思いついた一発ネタです。女王様は「実母」と「継母」の二つがありますが、今回は「実母」で行きます。

 

 むかし、むかしある冬の日。雪の国の女王様は、「ハァ、マジTS転生とか有り得ないわぁ」と言いつつ、縫物をしていました。女王様は己が血筋から得られる恩恵の代償として、男の精神をしているのに、王様と結婚し、子を成さなければならないことに軽く眩暈がしていました。


 縫物をしているとうっかり指を刺してしまい、血が数滴、雪の中に落ちていきました。それを見た女王様は、「この血がなぁ。でも、贅沢出来てるしなぁ」と全く見当違いの事を口から漏らしていました。自らの血筋によってこの暮らしが出来ていることを考えると、女王様はこの現状に不満を持つことは許されない立場にいます。


 数年後、王様との間に子供が出来ました。王様は大層な幼女性愛者で、十に満たない女王様を孕ませようと必死でしたが、流石に周囲の人間から止められていました。実際に、幼い娘を何度も孕ませては死産させているので、流石に不味いと判断する者が多かったのです。しかし、「十五歳ならギリギリOKじゃろ」と王様が強硬したことで、哀れ女王様は生命礼賛者に合意の上で孕まされてしまったのです。


 女王様の初体験は、良くも悪くも王様が手慣れた子供の性的扱いによって、全く痛みを感じることなく、快感に沈んで終わりました。女王様は「マジヤバかった。王様テクニシャン過ぎ、ロリコン怖い」とブツブツ言っていました。


 ちなみに、女王様と王様の夜の営みを正確に描写してしまったら、この話は此処には記せていないでしょう。実に恐ろしきは、王様のテクニックと女王様の幼い容姿です。


 十六で出産という女王様の前世では有り得ない年齢でしたが、何とか成功しました。母子ともに健康状態で国中の人間が大層祝福しました。王様は「二人目も、いや、そろそろ好みから外れてきているからのぅ」と最低な事を考えていました。大丈夫か、この国のトップ。


 生まれてきた王女は、女王様譲りの美しい深紅の瞳を持っていました。女王様は、夫である王を無視し、ある雪の日に流した血を思い出し、美しき白雪と血の紅から取って、白雪姫スノーホワイトと名付けました。


 自分の娘と言う未知の存在に、女王様は心を奪われてしまいました。「私の娘、マジ可愛い」と、周囲に言い回り、迷惑がられるレベルでした。一部の人間は男子を生まなかったことに不満を持っていましたが、王様は「いつ頃が食べ頃じゃろか」と娘が生まれたことを祝福していました。マジこの王様、処刑した方が良くないか?


 実は女王様は前世の記憶で、薄々自分が白雪姫の母ではないかと思っていました。しかし、それは間違いだと確信しました。何故なら、こんなに愛しい娘を、嫉妬で殺す可能性など万に一つも無いと分かり切っていたからです。


「鏡よ鏡、この国で最も美しいのは誰?」


 と尋ねると、


「女王様、、この国で一番美しいのはあなたです」


 と、答えるのでした。すると、女王様は多いに不満を持ちました。この鏡は真実しか言わないことを知っていたのです。


「ハァ!?、マジ解釈違い何ですけどぅ。一番美しいのは私の娘何ですけどぅ。割ってやろうか、このポンコツ鏡」


 解釈違いも甚だしいと、女王様は怒り心頭です。真実しか言わない鏡なら、この鏡が付いた嘘は真実となる。つまり、この鏡は壊れている。女王様の頭の中で新たな真実が成立したのです。


 鏡は割られる恐怖を持ったのか、言い訳しを始めました。


「いえ、今の白雪姫は可愛らしいのであって、美しいのは女王様です。更に、七年後には貴方を超える美しさを得るでしょう」


 鏡は真実しか言えないので、白雪姫が一番可愛らしいと言えませんでした。代わりに七年後の予測を言いました。女王様は満足したのか、


「そういうことなら、まぁ仕方ないかぁ。悪かったね、鏡。割るのは今度にしておいてあげる」


 ブルりと震える鏡を無視し、女王様は白雪姫に会いに行きました。まだ赤ん坊な白雪姫は、特徴的な瞳の色以外は、他の赤子とそう変わらない見た目をしていますが、我が子可愛さに女王様は大変可愛がりました。


 女王様は我が子を抱きながら、この娘の将来について考えました。性根が心底腐っている、性癖以外はまともな為政者である王様が、美しく成長する娘を狙わない保証が一切ありません。あの男は自らの性欲を発散する為には、何が何でも娘を犯すぐらいはしてしまう権力も力もあります。


 また、この世界がもし白雪姫の世界ならば、いつか私の手から娘を奪いに、死体愛好家の王子さまがやって来てしまいます。女王様は死体にキスして喜びを得る変態に、娘を任せることなんて出来ようがありません。


 困ってしまった女王様は、自分が女王様であることを思い出しました。


「そうだ、毒殺しよう」


 思い立ったら吉日。早速、女王様は王様を真夜中に寝室に呼び、久々に抱かれることにしました。王様は「まだまだイケるのぅ」と、女王様の身体を大層味わい、堪能しました。その数日後、王様は衰弱死しました。最後に女王様のツルツルペッタンな部位を好きなだけ触れたので幸せだったのでしょう。


 女王様は王様の身体に遅効性の毒を大量に塗りつけました。「異国から取り寄せた薬です。何でも、夫婦の営みをより激しくさせるものだとか」と嘘をつき、自然に毒を盛りました。当然、自分の身体にも付着しますが、解毒剤が有ったのも問題なしです。普段は警戒心の強い王様ですが、今回ばかりは「陛下ぁ、もう我慢できません」や「あっ、あっ、陛下ぁ、もう無理ですぅ」や「いやぁ、陛下ぁ、恥ずかしいですぅ」などと、普段では見られない女王様の乱れっぷりに興奮してしまい、理性が蒸発していました。王様もノリノリで「いつもはツンツンしておるのにのぅ」とか「身体は本当に素直じゃ、ほれほれ」とか「実に良い乱れっぷりじゃ」など、初夜以上に女王様を攻め立てました。女王様も演技と本音の半々だったので、後から「あんなの私じゃない」と少し後悔していました。小さな身体とはいえ、女王様の身体が王様に触られていない部分は一辺たりともないと考えれば、如何に王様が真正であったかが分かるでしょう。


 性癖のことを知らない民達は、王様の死を深く悲しみました。未来では恐らく暴露されているだろうが、今ばかりは王様の死を悼みました。


 娘の為という原動力を得た女王様の行動力は異常でした。鏡から得る真実の情報を使ってこの国を完全に掌握し、本当の意味で女王様になりました。


 人間誰しも秘密があります。それを鏡の力で暴き、それを使えば如何様にも人心を屈服させることが出来ます。女王様は苛烈に、城の中の人間を支配していきました。

 

 当然、王様が崩御してしまったのなか、後継者争いが起こっても不思議ではありません。しかし、そこまで問題にはなりませんでした。


王様が数多の女児に産ませた子は、実はそう多くはありません。母体が幼い娘ばかりなので、まともに出産出来た方が少なかったからです。初潮が来たばかりの娘を孕ませることが大好きだった王様の子は少なかったのです。しかし、数人は居る事は事実。しかし、正統な後継者ではなく、あくまで庶子である為、暗殺することは容易でした。どこに隠れていようが、鏡の力で見つけ確実に暗殺することで出来ました。


 城勤めの者達は、今まで国政に全く興味の無かった女王様が、その実相当な曲者であることに驚嘆しました。そして、清濁併せ持つであろう女王様に忠誠を誓うのでした。でなければ、自分が死ぬことは明らかだったからです。


 民は王様の死を悼みながらも、気丈に振舞う女王様を応援し、史上初の女王を歓迎しました。城の人間も、性癖が歪んでいた王様よりも、美しく気丈で、優秀な女王様を歓迎しました。実際、女遊びが酷かった王様の事を内心嫌っていた者は少なくはなかったのです。


 女王様の次なる目的は隣国の王子です。いつか娘を奪い去る王子を娘に遭遇させないことが目的です。つまり、身近な脅威である王様と違い、王子は殺さなくてもよいのです。女王様は、王子を白雪姫に近づけさせないように、敢えて外交により隣国との関係を強化しました。


 国と国との関係が深くなれば、次第にその国の情報が渡ってきます。この情報は大変大事な物です。鏡は聞けば答えてくれますが、知らない単語の内容を正確に知ることは出来ないからです。つまり、知りたい真実に関わるワードを得られれば、その国の情報を抜きたい放題です。知り得る情報の全てを得た女王様は、隣国との関係を一辺させ、強硬な態度を取る様になりました。何せ、国家機密の多くを握っているのです。知らぬ存ぜず、無視することは出来ません。隣国は晴れて、この国との不平等条約を一方的に結ばされました。


 何も知らぬ民は、自国の発展、そして女王様の偉大さに喜びの声を挙げました。


 女王様の苛烈さを知る者は、より一層女王様への畏敬の念を強めました。


 生まれて間もない王子は、他国との関係強化の為にその国の姫君との婚約が結ばれました。こうして女王様は、娘を狙うかもしれない王子さまを実質排除することが出来ました。


 こうして、女王様は可愛い、可愛い我が娘を脅かす人間を排除することが出来ました。しかし、此処まで来ると女王様の心の中には新たな疑心が生まれていました。


白雪姫の登場人物の中で最も謎な存在、そう、七人の小人です。女王様は彼らを警戒し始めました。物語の展開では、彼らは白雪姫の味方です。しかし、王としての活動をし始めた、今の女王様にはその理屈は通じません。女王様の中では、彼らは森をさまよう白雪姫を連れ去り、労働を強要した悪しき存在になっていました。


 しかし、七人の小人の詳細が分かりません。鏡に聞いても、「誰ですか、それ」とそっけなく返されるだけ。女王様は困り果ててしまいました。この鏡を割ってやろうかと、考えましたが、これまでの貢献ゆえに見逃すことにしました。


 狩人を呼び寄せて、森を散策させたりしましたが、一向に進展がありません。業を煮やした女王様は、森を焼いてしまおうと考えましたが、流石にそれは思い止まりました。広大な森を全て焼き払うのは実質不可能であり、行ったとしてもあの森の景色は、白雪姫のお気に入りです。女王様は森の良さは分かりませんが、白雪姫の気に入っている物を壊すなんて出来る筈がないのです。




 そうして何も進展が無いまま七年の時が流れました。白雪姫はより一層美しく成長しました。大よそ少女とも呼べぬ程幼いですが、それでも至上の美しさへの片鱗を見せています。女王様の溺愛ぶりはより一層加速し、幼い白雪姫はその愛に応えています。


「鏡よ、鏡、この国で最も美しいのは誰?」


 と、女王様が鏡に問うと、


「この国で一番美しいのは貴方です」


 と、鏡は答えました。そしてその答えに、女王様は大変不満を持ちました。


「だから解釈違いだって、つってんだろうオラァ。うちの娘が一番だろうぅが」


「外面だけでなく、内面も考慮しての結果です。貴方の娘を思うその心こそが、この国で最も美しいものです」


「うーん、疑惑の判定。しかーし、我が娘は外見も、内面も美しいに決まっているだろうが。まぁ、貴様は便利な道具だ。割るのは最後にしてやる」


 七年の内に女王様の忍耐も成長しました。それに、薄汚い真似を多くして来た女王様は、娘を思う心は美しいと鏡が言ってくれたのが多少嬉しかったのでしょう。


 こんなポンコツな鏡のことは置いておいて、女王様は白雪姫と遊ぼうと考えました。それが何よりも女王様の安らぎとなるからです。


「あ、お母さまだー」


 女王様を見つけた白雪姫は、一目散に女王様の胸に飛びつきました。七年の時は、女王様を多少成長させましたが、王様好みのスレンダーな身体は、軟らかな衝撃吸収材の量が少ないのです。その為、幼さ故に限度を知らない白雪姫の突進の衝撃を消すことが出来ず、ふらついてしまいました。しかし、愛の力でキチンと白雪姫を受け止めました。


「白雪姫、今日は何をして遊ぼうか」


 女王様の執務はもう終わらせています。娘との交流の為なら、仕事なぞ簡単に終わらせる。それが女王様の流儀でした。


「へへへ、えーとね、今日はね、今日はね」


 白雪姫との甘い日々を永遠に続けたい。それだけが女王様のただ一つの切実な願いでした。その為なら何でもする。その覚悟は女王様にはありました。



「なにっ、それは本当かっ、狩人」


「えぇ、遂に突き止めましたよ。小人の家を」


 七年の歳月を掛けて、やっと狩人は小人の家を見つけました。原典では女王様は簡単に小人の家を突き留めていましたが、この世界では鏡が微妙にポンコツだったの七年も時間が掛かってしまいました。


「狩人よ、早速彼奴等を皆殺しにせよ」


「お言葉ですが、女王様。それはとても厳しいと言わざる得ません」


「それは何故だっ」


「奴らは非常に警戒心が強く、家はとても頑丈で、小さい癖に要塞の様な頑健さです。故に家の外で襲おうとも考えましたが、奴らは常に団体行動を心掛けています。私一人では奴らを狩るのはとても難しいです」


「…………っつ。忌々しい奴らよ。狩人よ、幾人必要だ?金も人も幾らでも出そう」


「難しいです。私レベルの実力を持つ者はこの国には居ません。そして、小人の家に行ける程の同業者は居ないのです。そして、金を幾ら積まれようが、私一人では限界があります」


「難しいな…………」


「お言葉ですが、もう諦めた方がよろしいかと。これ以上は無駄だと言わざるを得ません」


 この狩人が困難と言う小人の家を即座み見つけ、単独で辿り着いた原典の女王様は本当に何物なのでしょうか。女王様は自分がそれを出来るとは全く思っていません。


 女王様は困り果ててしまいました。これでは小人を排除することが出来ません。女王様は悩みに悩みました。王様も、王子も排除出来たと言うのに、最後の障害が残っているのです。




「鏡よ、鏡、どうすれば七人の小人どもを殺しきれるのだ」


 と女王様は問うと、


「それは出来ません。何故なら、私には小人のことがわからないからです」


 と答えるのでした。女王様は大変がっかりして、溜息をつきました。


「貴方は本当に有能で無能ね。貴方のお陰で白雪姫を守ることは出来ているけれど、小人のことだけは無能なのね」


「そもそも、小人は存在しませんよ」


 鏡の言葉に、女王様は少し引っかかりを得ました。


「しかし、狩人は小人を見つけたと言う。…………鏡よ、鏡、狩人は私に嘘をついたか?」


 と女王様は問うと、


「はい、狩人は女王様に嘘をつきました」


 と答えるのでした。女王様は納得しました。恐らく、狩人は七年も不毛な仕事をさせられて嫌気がさしていたのでしょう。自らの仕事を終わらせる為に嘘を付いたに違いありません。狩人が自分に嘘を付いたことには怒りが湧きましたが、女王様はある仮定を得ました。




 次の日、女王様は愛しき娘である白雪姫と共に森へ向かいました。当然、愛する白雪姫に危害が無いよう、狩人やその他大勢の護衛を引き連れていました。


 狩人は、自らの嘘が看破されていたことに恐怖心を抱きました。七年も女王様の元で働いていたので、その苛烈さを十分に知っていたからです。しかし、女王様は狩人を許しました。狩人は何故自分が見逃されたのかは分かりません。もっとも、原典の自分が白雪姫を見逃したからとは分かりようがありませんが。


 森の其処まで深くない所で、女王様は小さな家を見つけました。


 狩人は目に見えて慌てだし、恐怖に引きつった声で


「馬鹿な、ここには何もなかったはずだッ!女王様ッ、ここには何らかの異常が起こっていますッ!」


 と言いました。他の護衛達は、狩人が恐怖している様を見て、本当に危険な状況なのではないかと緊張感が増しました。


「狼狽えるな、狩人。そして、貴様が嘘をついていないことも分かっている」


 女王様は毅然とした態度で、小さな家に向かい、そのドアをノックしました。狩人率いる護衛たちが慌てていると、


「居ないぞー我らは居ないぞー」


「そうだー、そうだー」


「居ないのだー」


 騒がしい幼きカンカンとした声が小さき家の中から響きました。小人が居ることは、はっきりと分かりました。


「やはり、そういうことだったのね」


 女王様の過程、それは七人の小人達は白雪姫の為に存在する妖精の様な存在なのではないか、ということでした。原典では小人の正体を知るのは、白雪姫が彼らに保護された後です。つまり、それ以前にはこの国には存在しなかったとも考えられるのです。発想が些か飛躍し過ぎている面もありますが、鏡が小人は居ないと言うならば、そうなのだろうと確信したからです。


 あの鏡は、白雪姫に対する美的センス以外は完璧に仕事を果たしていました。女王様は鏡のことをポンコツだとは思っていましたが、その性能は信じていました。その鏡が言うのだから、間違っているのは小人が居ると言う現実の方なのです。


「お母さまー、これ、なにー」


「白雪姫、この小さな家はね、貴方が呼び出した物なのよ」


「んー?なんのことかわかんない―」


「貴方は分からなくても良いのよ」


「お母さまがそう言うならそーするー」


 狩人たち護衛は緊張していましたが、女王様と白雪姫はとても呑気です。まるで平穏な一時を過ごしているようです。白雪姫は単純に恐怖を知らないが故に恐慌することなく、女王様は娘と共にある自分は無敵など本気で思っています。


「貴方たち、此処に極上のリンゴを置いておきます。食べたくなったら、食べて下さいな」


 女王は興味津々に窓ガラスから見ている小人達に見えるように、


「ほら、この通り。本当に美味しいリンゴよ」


 美味しそうにリンゴを食べました。女王様も思わず笑顔が飛び出てしまいます。王族御用達のリンゴは近隣諸国の中でも格別の扱いを得ています。彼の国のリンゴを食べることは、至上の快楽の一つだと言われています。


「さぁ、白雪姫。もう一緒に帰りましょう」


「うん、帰ろう。お母さまー」


 二人に追従するように、狩人たち護衛も彼女らに追従して城へ帰ります。


 小人たちは今だに小さな家から出る様子はありませんが、女王様は気にする様子はありません。




 夜、白雪姫が寝静まった後、女王様は自室にて鏡を見ていました。


「鏡よ、鏡、七人の小人は何処に居る?」


 と鏡に問いました。すると鏡は、


「この国の森の中の、小さな家に住んでいます」


 と答えました。女王様は大層喜び、続けてこう問いました。


「鏡よ、鏡、七人の小人は私の渡したリンゴを食べたか?」


 すると鏡は、


「はい、彼らは美味しそうに女王様のリンゴを食べました」


 と答えました。その答えを女王様は大層喜びました。




 また七年が過ぎました。白雪姫はまた一段と美しくなり、並ぶものの居ない美貌の持ち主として成長しました。そして、その事に一番喜んでいたのは、当然女王様でした。


「十四の誕生日、おめでとう白雪姫。本当に嬉しいわ」


「ありがとうございます、女王陛下」


「もう、二人っきりの時は昔通りにお母さまと呼んでって言ったでしょう」


「ごめん、お母さま。もう、癖になっちゃった」


 幼かった白雪姫は王女としての教育を受け、しっかりと成長していきました。女王様は、無邪気に自分に甘えてくる白雪姫が遠くなってしまったことに、一抹の寂しさを覚えていました。しかし、それ以上にしっかりと成長していってくれたことを喜びました。


 誕生日のパーティーが終わり、女王様と白雪姫は二人っきりで本当の誕生祝いをしていました。煩わしい宮廷マナーや、邪魔な他者の介入がない、二人だけ誕生祝いこそが、二人の本当のメインイベントでした。


「白雪姫、今年は貴方の為に特別な物を造ったわ」


 女王様は、白雪姫に精緻に造られた小箱を渡しました。


「ありがとう、お母さま。早速開けてみて良い?」


 女王様が優し気に頷くと、満面の笑みを浮かべて白雪姫は、小箱を空けました。


「わぁ、綺麗なネックレス。本当に嬉しいわ」


 そこに入っていたのは女王様お手製のルビーのネックレスでした。ルビーの赤は、白雪姫の瞳の色に合わせています。流石にルビーのカットまでは女王様の手は入って居ませんが、ネックレスの台座や銀細工は、女王様のお手製です。


「本当に似合っているわ、白雪姫」


 お手製のネックレスを首に掛けた白雪姫を見て、女王様は深い微笑みを浮かべました。女王様は毎年、表向きのパーティーで用意した贅を凝らしたプレゼントとは別に、本当の誕生祝いに渡すお手製のプレゼントを渡しています。


 最初はハンカチやマフラーなどの縫物でしたが、祝い事がある度に作っていたので、これ以上着られないようになってしまいました。また、去年の誕生祝いは、美しき白のドレスでした。


 今回のネックレスは、女王様が去年の誕生祝いから修行を開始した金属細工の成果です。娘への愛の結晶であるこのネックレスは、この国一番の職人の手による物と比較してもなんら遜色のない出来でした。


「ありがとうお母さま。一生大切にするねっ!」


この後、二人は短い時間ながらも、楽しい時間を過ごしました。白雪姫はまた来年が来ることを願い、女王様はこの時が永遠に続くことを願いました。


 そして時間を過ぎていき、白雪姫は深い眠りにつきました。女王様は、自室に戻り、去年の同じ時にもした同じ質問を鏡に問いました。


「鏡よ、鏡、この国で最も美しいのは誰?」


 と、女王様が鏡に問うと、


「この国で一番美しいのは貴方です」


 と、鏡は答えました。そしてその答えに、女王様は大変不満を持ちました。


「だから解釈違いだって、つってんだろうオラァ。うちの娘が一番だろうぅが。去年も、その前も、ずっと間違えやがってこのポンコツ鏡」


「いや、女王様。貴方どうして老けてないのですか。七年前と殆ど変わらないじゃないですか」


 女王様は、背も胸のサイズも全く変わっていません。そして顔も全く老けていません。女王様のその美貌は七年前から一切衰えていませんでした。当然、白雪姫も成長するにつれてその美しさに磨きがかかっています。それでもなお、鏡は女王様の方が美しいと判断したのです。


白雪姫わがむすめへの愛の力よ」


 女王様は自身満々にそう言い放ちました。その言葉には一切の躊躇いがなく、自身に満ち溢れていました。流石の鏡も、その理不尽さには呆れるばかりです。


「そう、その愛の力が、貴方を美しく彩っているのです。その気高き心こそが、美しさの大事な要素なのです」


 鏡が告げる真実は、確定した事実以外は鏡の客観的な視点で判断しています。故に、美しさなどという人によって評価が異なる物への判断は難しいと言わざるを得ません。かつての女王様は、その純粋は容姿だけで至上の美を誇っていました。本当ならば、白雪姫の美しさは女王様を超える筈でした。当然です。人の美は劣化する物。幼き白雪姫は美しく成長し、女王様はその美しさに陰りが見える運命でした。その上、嫉妬などという醜い感情を発露させてしまえば、鏡的美的評価は完全にマイナスとなります。


 つまり、今の女王様が、美しき姿を保ちつつ、娘への愛で心まで美しいからこそ、鏡は変わらず女王様を美しいと判断しました。


「オイコラ鏡、白雪姫の方が美しいに決まってんだろぅが。今度こそ割ってやろうかポンコツ鏡ぃ」


 鏡の言い訳が聞こえない程、女王様は怒っていました。このままでは鏡は割られてしまうかもしれません。しかし、大丈夫です。何故なら、


「まぁ、今年も見逃してやる。お前の美的センスの無さは前から知っているからな」


 去年も同じく、鏡は許されました。女王様は、鏡の有能性から美的センスが無い以外はまともだと判断していたからです。


「さて、来年も頑張って白雪姫の為のプレゼントを考えないとね」


 女王様の思いは、最愛の娘を生んだ時から変わりません。過去も、現在も、未来さえも、白雪姫の捧げると決めているからです。


 娘の為なら例え、鉄の靴を履き、燃え盛る火の中で踊ることさえ、躊躇わないでしょう。


 この幸せが未来永劫続くこと。それこそが、女王様が望む全てなのですから。


 こうして、女王様は、白雪姫と共に幸せな時を過ごし続けました。全ての障害は、女王様は排除しているから当然ではありましたが。そして、最後まで鏡は女王様を最も美しいと言い続けていました。しかし、鏡は女王様に割られることは終ぞなかったようです。


 お読み頂き有難う御座います。

 王様も王子様も、どっちも原典に近づく程、相当な変態になっていってビックリします。小人たちも解釈次第では幼い白雪姫に七人分の労働を任せる非道にも見えてきます。

 白雪姫最大の良心はやはり狩人ですね。えっ、良心ならば女王様の命令を聞くなって?権力者に逆らえないのは仕方のないことなのです…………

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[良い点] 絶対最後悲惨なことになって終わるんだろうなぁ、とか思ってたらそんなことなくて安心しました。 [気になる点] 同じ境遇にあった女性は暗殺せずに囲うかなんかして欲しかった… [一言] 母は強し…
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