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一章 第壱話

Orjeです。

少ぉし話が進みます。

一章はこの一室よりお届けします。



 今日は朝から雨が降っていた。深刻な環境問題が起きている現代で、降る雨といったら酸性雨ばかりだ。

 これではまたどこかのパイプに穴が空くなぁ、とぼんやり考えていた。机の上の書類はほとんど見終わった。あとは事務に持っていくだけ。しかしこう雨が降っているとなんとなく体が重くて動く気にならない。昼を食べてから動くか…。

 急いでいる案件でもなし、というかそんな案件は回ってこない。ふぅ、と息をつく。窓の向こうの雨粒をただ見つめる。


「それにしても…」


 ふいにぽつりと呟いた。頭にはあの若く見えるリーダーが浮かんでいた。

「長丁場になるとは言っていたがこんなにかかるものかね…。もう半年になるぞ…。」

 そのとき、ドアが布のように勢いよく開いた。

「失礼いたします先生!いらっしゃいますか!!」

 大きな音と共に叫びながら小柄な女性が転がり込んだ。爆音に体が浮いた。

「なにかね、騒々しい。新しい術でも発見したn」

「任務に行っていた班のリーダーの持ち物から先生の術が噴き出したんですが!!!」

「噴き出した?」

平静を装った言葉は遮られ、意外な言葉が出てきた。頭が追い付かない。

「一体何を渡したんですか!?本人は誤って火をつけてしまったと説明していましたけどわたしには通じませんよ!!しっかりと!先生の力を!感じましたから!!」

 興奮したまままくしたてる彼女から完全にアウトな言葉が飛び出る。慌てて言った。

「声を抑えたまえ…!!落ち着け…!

 ………何をって…守りを渡しただけだ。」

 なにかが噴き出すようなことは…と呟いてある事実に気付いた。

「…火だと!?」

 ようやくか、と女性は溜息をついた。

 大分落ち着いたらしく、彼女は開けたままだったドアに気付いて慌てて閉めた。そして改めてこちらに向かう。

「まだ情報は少ないですが、火が敵を包み込んだ、と。人間どもは単に火がついただけという認識ですが。今後、同じようなことがあってはバレるのも時間の問題となってしまいます。というか、そのリーダーには何かを勘付かれていてもおかしくありません。」

 彼女は丸椅子に腰かけ、窺うように下から見上げた。驚きで腰を浮かせたままだった医者もゆっくりと椅子に体を預ける。

「うむ…。普段から魔法に夢見ているような子だからなぁ。」

「で、一体何を入れたんです?」

「万が一のための簡易防御魔法だ。」

 魔術としては初級も初級。ただし、けがを負わないのではなく致命傷を免れるのみというものだ。

「だけど火が…」

「うむ…。」

 火を用いた防御魔法もあるが、実際には炎は敵を包み込み攻撃に転じている。

 人間が術に干渉できないなら可能性があるのは…。


「袋…。」


「袋ですか?」

 口の中で紡いだ言葉を耳ざとく拾われる。

「あ、ああ。わたしの守護色の布にあの子の守護色の紐で作ったんだ。」

「ふぅん?先生は朱ですね。リーダーくんは何色なんです?」

「紫だ。緑寄りのね。」

「まるでリーダーっぽくないですね。」

「同感だな。」

「それで…」

 彼女はこてんと首をかしげた。

「その袋に何の問題が?人間が持っていて、術にあの色が影響するなんて、そんな話ありましたっけ?あ、先生の力が残ってて何かのきっかけで、とかですか?うーん、それってでも…」

「いや、実証はない。が…。」

 さすが研究者と言うべきか、頭が良く回る。

「簡易防御魔法なんかが攻撃になるわけないですしねぇ。」

「うむ。」


「…るとか?」


「む?」

 彼女は身を乗り出して右手の人差し指でピッと天を指した。

「先生の魔力自体がそもそも攻撃タイプじゃないですか。」

「そうだな。」

「それでリーダーくんは守護色でいうところの特攻タイプ。」

「…うむ。」

「だからつまり」

「言いたいことはわかった。」

 爛々と光る目を見て察した。相変わらず突拍子もないことを考える…。

「しかしそんなことが実際にあり得るかどうか…。そもそもあの子は人間だ。魔力など持たない。」

「実際、説明しがたい火が出てます。しかも先生の魔力が色濃く出た火が、です。」

「む…。」

「ね、調べる価値はありますよぅ。」

「…わかった。一説として持っておこう。」

 ほかの説明が思いつかないというのもある。仮説としてあるだけでもいいだろう。

「わたしはほかの研究をしていて時間が空かないのですが。」

「…わたしにしろというのか?」

「今やってるのって普通の業務ですよね?」

「そうだな。」

 机の上の書類たちはもはや形だけですぐに消える。

「では、お願いします。むろん、口外しません。」

「…報告感謝する。またなにかあったら教えてくれ。進めておこう。」

「わかりました!

 ああそうだ、リーダーくんへのフォローお願いしますね!わたし面識ありませんので!」

「う、む。力を尽くそう。」

 正直あまり気が乗らない。こういうことは苦手だ。

「元はと言えば先生が原因なんですからね!

 なにかあってもわたし知らないフリしますから。」

「わかっているよ。」

「では、失礼します。」

 彼女は満足そうに頷くと、そう言って立ちあがった。

「あ、問題の班は明後日帰ってくるそうですよ!では!」

 廊下に人がいないことを確認して出て行った。


 途端に部屋が静かになる。しかし彼の耳には部屋中に彼女の声が反響して聞こえる。言葉になっていない声が頭を駆け巡る。最後の言葉だけがまだ辛うじて残っていた。

「…………明後日か。

 しかし、やはり遅いな。」

 雨はまだ降り続いていた。明後日までに止めばいいのだが。

 しばらく雨の音に耳を傾けていたが、目の前の書類が目に映り、ああ、と声を漏らして立ちあがった。




そういえばまだ登場人物の名前が出てきません。

次の話でも出てきません。恥ずかしがり屋なんです、きっと。

感想、指摘、質問等何でもお待ちしています。


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