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序章 一幕

ご覧頂きありがとうございます。


主人公が格好つけています。


 コンコン


 薄い木のドアが控えめに叩かれた。こんな風にノックするのは――――あの子か。それとも初めて訪れた変わり者か。

「入りたまえ。」

 机の上の書類に目を通しながら答えた。誰が来たのか気になるが、何となくいつも気にしていないそぶりで出迎える。今の時代には珍しいヴィンテージの机にガラスのペン。恰好をつけるには十分だ。

「失礼します。…あの、今お時間…」

「大丈夫だ…ああ、君か。」

 何が「君か」だ。そうだろうと思っていたくせに。自分が発した言葉に思わず笑いが零れた。

「すみません…。毎度毎度…。」

 どうやら己に向けられた笑いだと捉えたらしい。悪いとは思ったが都合がいい。

「いや、構わんさ。

 それで?今回はどんな用件で?」

「はい…。

 僕の班が次の任務に就くことが決まりまして…。」

 ほう。久しぶりに来たと思ったら……なるほど。どうやらこの子は本当にわたしの力がなくてはいけないらしい。短命であるが故か。

「先輩曰くかなり難しいそうなので長丁場になると思うんです。」

「うむ。」

 その先輩とやらは親切で言ったのだろうが、あまり良い方向にいってないようだ。

「だけど僕、持久力ないし、その分も難しくなりそうなので、気休めでもいいのでまたまじないをかけてほしいんです。」

 それみろ。何かにすがるのは人の悪い癖だ。

「君はまじないが好きだねぇ。」

「指揮する側の人間がこんなんじゃいけないことはわかっているのですが…。

自信が持てなくて…。」

 若さが邪魔をしているのか。指揮する者の不安は下の者を不安にさせる。

「わたしのまじないで自信が多少でもついているのであれば、いくらでもやるさ。」

 これは本音だ。無暗に犠牲を出すわけにはいかない。

「本当にありがとうございます。なんだかすごく勇気づけられるんですよね。魔法みたいで…不思議です。」

 そう言うと彼はにこっと笑った。

「魔法ね…。こんな機械に頼ってばかりの世界で、君は可愛らしいことを言うね?」

 そこら中にパイプが伸び、空飛ぶバイクに車、新しいのにどこか古さを感じる金属製品たち。一部を除いて消えた木。木製の物はほとんど残っていない。使われている紙は特殊繊維だ。近い将来、耐震だのといって建物からも木が消えるだろう。「可愛らしい」というのは社会に対するちょっとした皮肉だ。

「あー…。子供っぽいっていう意味です?40近くになるおっさんがそんなことって感じですよね…ははっ…。」

「おや、君そんなに歳を重ねていたのかい?これは驚きだ。」

 30前半がいいところだと思っていた。

「え?知らなかったんですか?」

「書類を見ればわかるだろうが…覚えてなんかいないさ。必要ないことだからね。」

 見る気もしなかった。特殊医療班としてここにいるが一人だし、訪れる人はほんの一握りだ。医療に関することをした試しがない。

「はぁ、そういうものですか。」

 おそらくこの子はわたしがしっかり医者をしていると思っているんだろう。何の根拠もないだろうが。

「それこそ、魔法とかを使うなら必要かもしれないがね?」

「からかわないでください…。」

「はは、すまないね。

 さて、君の背中を押すおまじないをかけようか。」

「あ、お願いします。」

「と、いってもお守りだがね。」

「あれ、前みたいに背中に何かするのかと思いました。」

「今回は長丁場なんだろう?なら長く続くもののほうがいいと思ってね。」

 前回は背中に術を書いて結界を張った。

 いつか渡せればいいと思って作っていたお守りを渡せる口実を向こうから持ってきてくれるとはありがたい。どうせ気づかないだろうが。

「ああ、確かにモノがあったほうが落ち着くかもしれません。」

「不安になったら握りしめればいい。」

「なんだか馬鹿にしてません?」

「毎度来ておいて何を言うかね。」

 そろそろ君にはしっかりしてもらわねばならない。そんなこと言えるはずもないが。

「…返す言葉もございません。」

 守りに紙を入れ、手渡す。

「……朱いですね。」

「わたしの色だよ。」

「なんです、それ?イメージは白ですけどねぇ。」

「イメージカラーじゃないさ。守護色だよ。」

「守護…?」

「そう、守護色。君は緑寄りの紫だから紐をそれにしたよ。」

「緑寄りの紫ですか。聞いたことがありませんでしたが、へえ、こんな色ですか。そういうのどこで知るんです?」

「…秘密だよ。無事に帰ってきたら教えてあげようか考えよう。」

「教えてくれないかもしれないってことですね。」

 不満そうに口を尖らせた。歳を知らなければもう少し可愛く見えるのかもしれないが、残念ながらもう無理そうだ。

 しかし、ただの馬鹿ではなかったようだ。

「そうだね。」

「無事に帰ってくるしかないですね…。何度も帰ればいつか機会がくるでしょう。」

「ああ。君がわたしを訪ね続ければいつかはね。」

 口角をつい、と上げてこたえた。

「できれば避けたいですが…。わかりましたよ」

 つられたように彼もつい、と笑った。

 いつの間にか部屋がオレンジに染まっている。これ以上彼がここにいると彼の班員がリーダーを探してやってきてしまう。このたいして広くもない部屋におしかけてきたのはわたしのトラウマだ。

「さあて、もう帰りたまえよ。君の班員がここへ来ると疲れるんだ。」

「相変わらず人が多いのは苦手なんですね…。ではお暇させていただきます。お守りありがとうございます。」

「くれぐれも失くさぬように。

 まぁ、失くしてもわたしの守りが消えたわけじゃないから不安になる必要はないがね。」

「どういうことです?」

 落として誰かに拾われるのは避けたいがための忠告だ。

「その守りはわたしのまじないを可視化しただけだ、ということだが。難しいか?」

 ―――この医者は簡単な言葉を操ることができない。だから、聞く側が言葉を噛み砕かなければならない。多くの人に嫌われる理由の一つである―――

「いえ、わかりました。

まじないは僕にかかっているけどそれを見えるようにしただけ、ってことですよね?」

天然ではあるが、彼はしっかり40年近くを生きていた。

「うむ、励めよ。」

「えぇ、きっちり任務遂行してまいりますよ。」

「ああ。」

「ありがとうございました。では。」

 椅子から立ち上がり兵士らしく90度の敬礼をして、自信たっぷりに出て行った。

 医者はドアがしっかり閉まるのを確認してから、大きく息を吐いた。椅子が音を立てて軋む。胡乱に窓に目を向け独り言ちた。

「…魔法ね。ずいぶん的確なことを言ってくれるじゃないか。すまないがまだばれるわけにはいかんのだよ凡人くん。まだね。」

 …班のリーダーを務めているが、わたしからしたら十分凡人だ。



雰囲気は掴めたでしょうか?伝わっていたらいいなぁ。

ちなみにですが医者はただの引きこもりです。

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