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序章
【序】
今日も酒を片手に、原稿用紙の上で鉛筆を走らせる。
時々止まったり、戻ったり、遊んだり。
ころろ、と転がし手を止める。
「蜘蛛か」
紙の上で蜘蛛が、酔っ払ったオヤジの如く縦横無尽に歩く。
フッと息を吹きかけるところりと転がり、脚をジタバタさせくるりと元に帰る。
ジッと男を見つめまたじぐざぐに歩きだす。
男はボンヤリとその様子を眺めていた。
男の口から
「・・・そんな俺の欲の塊を読んで面白いのかい?」
「お前が人間の女だったら良かったのによ」
と言葉がこぼれ落ちる。
そのまま男は横になりいびきをかきはじめた。
蜘蛛の足が止まる。
刹那、原稿用紙に書かれた文字は足が生え、ざわざわと蠢きだす。
まるで、つつかれたザトウムシのように。
蜘蛛を中心に文字が集まり、それはとても大きな蜘蛛へと変化する。
ざわり、ざわりと歩き出し、男の大きく開いた口へ入ってゆく。
男は少し眉をしかめるが、何も知らないまま寝息を立てている。