決意と訓練
「あ、ありがと」
しばらくして泣き止んだ俺はここまで泣いてしまったことに少し恥ずかしさを覚えながらも何も言わずにいてくれたギンジにお礼を言った。
「別にいいってもんよ!それにジンはしっかり者だけどな、まだ子供なんだよ。もっと大人に頼っていいんだ。」
ニシシっと満面の笑みを浮かべながらも優しく諭すように言うギンジに俺は曖昧な返事しか出来なかった。
「で、ジン。お前の事情は聞いたが…これからどうするんだ?」
「強くなる。」
ギンジの問いに俺は即答した。
「俺は確かに才は平凡だ。でも、それでも俺は冒険者になりたいんだ。父さんたちが冒険者と知ってますます思った。冒険者になるなら強くならなきゃいけない。才能が無いから強くなれない?そんなこと知ったことか!誰もがそう豪語するなら俺がAランクだろうがSランクだろうが勝てるってことを証明してやる!強くなって、それでーーーーーーー」
ーーーーー最高の冒険を。
紛れもない俺の本音をギンジに話した。
ギンジは俺に近づき手を差し伸ばしてき、
「んじゃとりあえず今から村へ行くか。」
俺の頭を撫で回して横を通り過ぎていった。
通り過ぎたギンジへと向くと「強くなるんだろ?ならついてこいや」と零して歩いていった。
「……おう!」
「待てよ!」と叫びながら追いかけていった。
村へと着く頃にはもう辺りはほぼ真っ暗になっていた。
ギンジに付いていくとやがて村の中心の大木へと着きそこには辺りの家々から漏れでる光を背景に村長が立っていた。
「今までどこをほっつき歩いていたんだ!どこを探しても見つからないしどれだけ心配したと思っているんだ!」
村長は俺を視界に入れるとギンジには脇目も振らず俺に詰め寄って見たことないようなほど怒っている表情で言い放った。
「ご…ごめん、なさい」
ここまで感情を顕にする村長を見たことがなく少し狼狽しながらも心配かけてしまったことを詫びた。
「全く……無事で良かったよ…」
村長は優しげで温かみのある表情に変わり俺を抱きしめた。
「久しぶりだな!グレイス」
ギンジの言葉を聞き村長はその方向を向き少し驚きながらも返事を返す。
「久しぶりだなギンジ。10年ぶりくらいか?すっかりおっさんになっちまって…」
「それを言ったらお前もおっさんだろうが…それに俺はおっさんじゃなくてダンディな男になったんだよ。」
村長はいつもは静かなのに珍しく俺でも分かるくらい嬉しいという感情を隠すことなくギンジと軽口を言い合う。
「グレイス。ジンが話したいことがあるそうだ。聞いてやってくれよ。」
ギンジがそう言うと一歩下がり俺が一歩前に出た。
「…ジンが?そう言えばジン。何でお前は今日いきなりどこかに行ったりしたんだ?」
俺が柄にもなく真面目な顔をしてるからなのか、村長も顔を引き締めて尋ねる。
「…うん、今から言うことはそれも関係してるから。」
そして俺は少し間をあけ、息を吐く。
ここが勝負所だ。頑張れ!俺!
自分で自身を叱咤し村長に向き直る。
「村長。俺、村を出てギンジに付いて行く」
「なっ!?」
村長は俺から吐き出した言葉にひどく驚いていた。
驚くなという方が無理な程だ。今までもジンはそんな村を出たいなんて素振りは全く見せていなかったからだ。
それが神の天啓を受けた日に一人走り去ったと思いきや旧知の友を引き連れ、あろうことか出た言葉が村を出る…だ。
グレイスはギンジが事の原因だと判断し詰め寄った。
「ギンジ!お前まだ幼い子に何を吹き込んだんだ!?」
村長に詰め寄られてもギンジは何も喋らず答えない。ーーーーーここで折られるようなら連れてけねーなー。
不思議とギンジの言いたい事が分かった気がした。
「村長、ギンジのせいじゃないよ。俺が自分で決めたことなんだ」
村長はギンジの胸ぐらを掴んでいた手を離しジンに近づく。
「ジン。言ってることが分かってるのか?ギンジは冒険者だ。それに付いていくってことがどれだけ辛くしんどいことか。」
「分かってるよ。」
俺に向かい諭すように言う村長。
まだ止められる。と考えているんだろう。だからこそ俺はそれを断ち切る。
「ギリムに聞いたぞジン。才能のランクもあまりーーーーー」
「関係ないよそんなの。どんなことをしたって俺は強くなるよ。……あいつらに追いつくために」
村長の声を遮って俺の決意を告げる。
村長はジンの顔を見てこれは説得は無理だと悟った。
覚悟を決めた顔をしていたからだ。
思えばジンは昔から決めたことに対しては意志が固かった。
村長は溜息を一つ零すとギンジへと向き直った。
「ジンを頼むよ…」
「言われなくてもな。」
二人のやり取りを聞いて俺は思わず肩の力を抜けることが分かった。
「ギンジお前達はこれからどうするつもりだ?」
「そうだな、ま、しばらくはあそこの森の深くまで行ってジンをある程度闘えるようになるまで訓練だな」
ギンジが指差したのはさっきまで俺達がいた森だった。
「そうか…今日は泊まってくのか?」
「いや、善は急げとも言うし今から行くわ」
「相変わらず行動が早いな」と村長が漏らし、
「ジン。ライトたちに何も言わずに行くのか?」
俺とギンジが行こうとすると村長が尋ねてきその疑問に俺は足を止めた。
「…いいよ。今の俺にあいつらに会う資格はねえしな。」
村長はその言葉に込められた思いが伝わったのか口を閉じた。
「じゃあなグレイス。暫しの別れだ。元気でな。」
「…相変わらず台風みたいな奴だな。…元気でな。ギンジ、ジン。」
別れを告げると村長は自身の家へと戻るため歩き出した。
「んじゃ、行くか」
ギンジが歩き出し俺もそれに着いて行った。
ここからだ…ここからが出発点だ
そんな想いを心に留めて歩み出した。
✱✱✱
「おいジン、ジン!おーいジンくーん?起きてますかー!?」
耳元から騒がしい声が聞こえ目を開けると太陽がまだ昇りきっていないくらいの早朝で笑顔のギンジが視界に入った。
「ジン。これからはこんくらいの時間に毎回起きるから次は俺が起こす前には起きとけよ」
「………なんで?」
ギンジはジンに明日からはこの時間に起きろと言われるがジンは朝が苦手なため明確な理由を求め、ギンジが答える前にむ眠りにつこうとする。
「待て待て待て!?」とギンジは寝ようとするジンを慌てて起こした。
「訓練だよ訓練。……強くなるんだろ?」
「訓練」という言葉が聞こえるとジンはさっきまでぐずぐずしていたのが嘘かのように目覚める。
「何の訓練するの?」
「ランニング」
こんな早朝から何をするのか気になったジンはギンジに問うとその返答に少し驚く。まるでそんな事で強くなれるのかと言いたいかのように。
「強くなるにしても冒険者になるにしても基礎体力は必要だろうが…それとも身体能力を上げる|才能《ギフトでも持ってんのか?
そこまで言われジンは納得した。
確かに身体能力はあればあるほど動きに幅も広がるからな。
俺達が住み始めた場所は森の中でも比較的魔獣が少なく近くに湖があるところだ。
ランニングに行く前に二人とも顔を洗い走る準備をする。
「んじゃ行くぞ」
結論から言おう。死にそうだ。
開始から十数分はついていけた。
しかし身体が暖まってきたと思ったところからが訓練という名の地獄の始まりだったんだ。
ぐんぐんと速度が上がっていき開始時は横についていけていたのが5m、10mと差が広がっていきギンジに少し速度を落としてと声を張り上げて聞こえるように訴えかけた。
するとだ、ギンジは何を思ったのか俺にそのまま走れと伝えたと思ったらいきなり腰に差してある武器…刀と言う東方にあり斬れ味抜群な武器を抜いたと思ったら後ろからスピードを上げていき俺に斬りかかってきた。いきなりの事にびっくりしたが何とか髪の毛を少し斬られるレベルに抑えられた。
ギンジの目が完全に本気だと伝えてき、俺は体力とか関係なしに走り出したよ。
ギンジとか笑いながら追いかけてくるしもうあれは恐怖でしかなかったよ。
気づいたら開始地点に戻っていて直後に俺は倒れ込んだ。
ギンジは確実にドSだね。あれがドSじゃなかったら何をSと言えばいいのか分からなくなるくらいだよ。
俺がぶっ倒れたらどこから出したのか俺の顔に水をぶっかけで無理矢理意識を覚醒させられた。
そんな苦行を強いられげんなりとやつれた顔でギンジを見ていると麻生色の袋を取り出したと思ったらその袋の中から鍋と魔獣の肉が出てきたんだよ。
あれは目が飛び出ると思うくらいびっくりした。
ギンジに聞いてみたらあれは魔袋という魔道具であの中は異空間で想像以上に入るらしい。
ここからまたギンジのドSモードが発動したんだ。
全速力で何キロ走らされたかわからないくらい走ってもうへとへとで普段なら寝るくらいする状態の時に食事をしろってのが無理なもので食事にあまり俺は手がつかなかった。
そしたらギンジは黒い笑みを浮かべたかと思ったら俺口に無理矢理突っ込んで食べさせ始めた。
吐き出してしまいそうになるとギンジが笑いながら「吐いたらまたランニングからだな」とか言ってくるもんだから意地でも吐かないように数十分もの時間を要した。
この時点でギンジが言うにはまだ昼前らしい。
「ジン。1時間後に訓練するからな」
ギンジに次の訓練を告げられた俺は始まるまでのあいだ少しでも気力を増やそうと眠りについた。
休憩の1時間が経ち身体の節々をぽきぽきと鳴らしながら身体を伸ばしながら立ち上がった。
「ん、起きたかジン。じゃ今からする事を言うぞ」
ごくんっと唾を飲み込み死の宣告を聞く覚悟を決めた。
「今から才能を使いこなすぞ」
「へ?」
才能って貰ったら勝手に身についてるんじゃないの…?
ギンジの口から出た意外な言葉に俺は心の中で呟いてしまった。
変な終わり方になっちゃいました