神の天啓
シリアス回はむずいですね…
村の中心に生えてある大木へと急いで向かう。
急いでるせいで息が上がりまくってるがそんなことは気にしていられない。
「ハァ…悪いみんな。遅くなっちまって。」
大木近くには既に俺以外の5人が集まっていた。
「珍しいね…。集合時間ぎりぎりなんて。」
「ああ…今日は大切な日だしな。昨日ちょっと丁寧に母さんと父さんの墓磨いてきたんだよ。」
「それなら仕方ない…それに別に遅れたわけじゃないし。」
ライトとミルルに遅れた理由を説明しながら大木へと近寄る。
「ジン!おっせーよ!あとちょっとで遅刻だったぞ!」
「珍しいな。ジンが遅れるなんて」
大木に寄りかかっていた二人から話しかけられる。
一人は同い年には思えないぐらい筋肉があり頼れる…だけど偶に空気が読めない村長の息子でもあるギリム。
もう一人は細身だがどこか知的な雰囲気を漂わせている少年のアルトだ。
「ああ…悪いな遅れちまって。」
いつもはここから二人のお説教が始まるんだが、今日は神の天啓の為もあってか二人ともあっさりと退いていった。
「悪いなソフィアも。遅れそうになった。」
「あはは。遅れたわけじゃないんだし別にいいよ」
ソフィアの笑った顔を直視しつい俺は少し顔を逸らし頭を搔いてるふりをしてしまった。
斜め後ろにいるライトが地味にニヤニヤしてるの気づいてるぞ!後で覚えてろよ!
「いつもはジンじゃなくてギリムが遅れるもんね〜。それでいつもジンに言われるから今日は俺が注意してやる!とか張り切ってたから。」
「お、おいソフィア!それは内緒にしとけっつったろ!?」
「…へぇ〜それは良いことを聞いたな。ん?どうしたんだギリム?何でそんな顔を青くしてるんだー?」
ソフィアから聞いた俺はギリムに向かい自分でも上手く笑えたと思うくらい綺麗に笑った。
なのにギリムは顔を少し青くしていた。というか周りを見るとみんな少し引いていた。
「あれ?何でみんな少し離れるの?」
「いや何でもないよ!…あ!馬車が来たしそろそろ行こうか!」
ライトが指を向けた方を見ると馬車が着き俺たちを待っていた。
それを見た俺たちは慌てて馬車に乗り込んだ。
「じゃあ、石版の遺跡を目指してレッツゴー!」
ソフィアが元気よく声を上げて出発の音頭をとった。
「それは村長の息子たる俺が言う言葉じゃないか!?…あれ!?何でみんなそんな残念そうに見てるんだよ!」
…それはお前の頭が残念なくらいな脳筋だからだよ…
そんな出来事がありつつも、馬車で石版の遺跡へと向かう。
石版の遺跡…建物自体は小さく一家族が住む一軒家くらいの大きさのものだ。しかし、造りが全て石で出来ており、その中にある遺跡の中にあるたった一つの部屋に12歳のこの時期に入ることによって石版に自分の才能が映りゆくことによりそれを行使出来るようになる。
「ジン!お前はどんな才能狙ってんだ?」
馬車に揺られながら外の風景を見ているとギリムに話しかけられる。その瞳は早く才能が欲しいと物語っている。
相変わらずそのキラキラした瞳とその図体が真逆過ぎて似合わねーなー
そんなことを思いつつもギリムへと身体の向きを合わす。
「まあ…レア度が高ければ何でもいいけど」
「えぇ…欲がねーなー。特定の欲しいのとかはねーのか?」
「……そうだな…強いていうなら目立たず強い才能が欲しいな」
「ジンはあまり目立つの好きじゃないからね」
俺が答えるとそこにライトも話に加わっていく。
「欲がねージンもやっぱ強い才能が欲しいんだな!ライトはどうなんだ!?」
「僕か?僕は……どうせなら聖剣召喚とかが良いな」
大抵の女ならこれで一発!と言えるくらい爽やかな笑顔で答えた
「さっすがライト!狙うねー」
「狙うとかじゃないと思うが?強いていうなら自分の才を引き出される的なのじゃね?」
「いちいちジンは細けーなー。何でもいーじゃねーか別に。」
「おい、ジンそんなこと言っても無駄だぞ。ギリムはそんじゃそこらの脳筋とは訳が違うから」
「んだと!アルトー!生意気なお前にはこんなお仕置きだー!」
ギリムは逃げようとするアルトを即座に捕まえ両手で頭を挟むようにしてグリグリする。
「生意気って同い年だし…いて!いてててててて!いってー!」
ギリムにやられアルトは叫びながらも身体全体で暴れギリムから逃れる。
知的な雰囲気が台無しだった…
周りを見るとみんな笑っていて楽しそうにしている。
「ジン?どうしたの?」
ジンは微笑んでるソフィアをつい凝視してしまっていた
「な、何でもねー!」
そんな楽しい馬車旅を過ごしながら時間が過ぎていく。馬車一行は馬車の丁度良い揺れ具合に雲一つもない青空から見える太陽の暖かさがちょうど良くウトウトしているうちにその瞳を閉じていった。
✱✱✱
石版の遺跡に着いた俺たちは幼い頃から教えて貰っていた石版の遺跡が意外と平凡なことに驚いていた。
しかし石版の遺跡周辺はどこか普通とは違う異様なオーラを6人は無意識の内に感じていた。
「石版の遺跡ってのはなんか雰囲気が違うな…」
「遺憾だけど同意。それに信じられないけどここらへん一帯は魔獣が現れてない。」
「おいミルル。遺憾て何だ遺憾て。普通に同意でいいだろう!?」
「遺憾だから遺憾と言った。」
「え?何その目?何でそんなことも分からないの?と言った感じの目で見るの!?」
「確かにね…どこが普通じゃない。でもそこまで嫌な感じはしないようだよ。」
俺とミルルが話しているとライトも同意し皆同じタイミングで遺跡を見る。
「さて…じゃあ誰から行く?」
ライトがそう提案するもみんな初めは緊張するのか行きたそうにしていない。
「俺だ!俺が最初に行く!」
ギリムが勇ましく声を張り上げ言い放った。
ギリム以外の5人がギリムを見るが、いつもとは違い本気な表情をしていたため誰もそれに反対しなかった…が、横槍を入れる人はいた。
「ギリムくん…いくらかっこつけたってそのまだ少し幼い顔とその筋肉と身長が余りにもあって無さすぎて々ネタになってるよ?」
横槍を入れたのはいつもギリムと一緒にいるギリムの幼馴染のアルトだった。
「おいアルト!せっかく偶にはカッコいいところ見せようと思って本気になってたのにそりゃないぜ!?」
「ギリムくん…君のカッコいいところは後数年くらい経たないと無理だと思うよ?」
「何その哀れんだ目!?あーもーいーよ!どーせ俺は図体と顔で差があるさ!覚えてろよアルト!良い才能貰ってきて思っくそ自慢してやるからな!?」
そう言うやいなや先程まで表情は何だったのかと思いたくなるくらい少し涙目になりながら走って遺跡の中へ入っていった。
さっきまでの緊迫とした空気は何だったのかと思ってしまいつい笑みが零れてしまう。
周りを見てみると全員さっきまでの緊張は解けて笑っているようだった。
アルトはこれを狙ってやったのか…と視線を向けるとーーー爆笑するのを必死に抑えて我慢していた。
ああ、ただのからかうことで喜ぶドSか………
俺はついさっきまで向けていたアルトへの尊敬の眼差しが一欠片もなく消えた瞬間だった。
そして緊迫とした空気から少し和やかな空気になり和気あいあいと話していること10分。
ドンっという音を立ててドアを開き嬉しそうな表情のギリムが出てきた。
「ギリムくん、才能はどうだったんだ?」
アルトがギリムに尋ねると他のみんなも気になっているようで興味深々に聞いていた。
「おぅおう!みんな気になるみていだな!見せてやるよ!才能展開!」
ギリムがそう言うとギリムの前にカードが出現する。
皆がそれを覗き見ようとギリムの後ろに回る。
【筋肉増強】
体の中に内包されてる筋肉の質が上がる。
【火魔法】
身体の内にある魔力を使い火系統の魔法を生み出す。
【前衛適正 大】
前衛で使う武器に対して適性が上がる。
前衛で戦う場合のみ自身の能力が上がる。
「ギリムやったね!レア度Aランクのがある上に才能も豊富で!」
「おう!筋肉自慢の俺にピッタリの才能もあるしな!」
ソフィアがギリムに向かって祝いの言葉を述べる。
そう。ギリムの才能にはレア度Aのが加わっていたのだ。
レア度とはこの神の天啓制度が出てきた頃に人間が作り上げたもので珍しいものほどレア度が高い。
稀にレア度が高くても使い物にならない才能はあっても大多数は羨ましくなるほど強い。
「じゃあ次は私が行って来るね!」
次はソフィアが行くようで俺含む皆が激励をしていた。これ以降も10分ごとに俺たちは入っていき続々と才能を貰い受けていく。
そしてとうとう最後…俺の番が回ってきた。
「じゃあ行ってくるわ」
「この調子ならジンもきっと良い才能が貰えるよ!」
俺の声にライトが返してくれ、それに続いてみんなも激励してくれる。
「…ジン。焦らないで…頑張れ」
「ミルルがまともな言葉を俺に言うとは……待て待て!?そんな冷たい目で見るな!…頑張ってくるよ」
ミルルをからかうように言うとミルルが怒りそうになった。
実際俺は焦っていたためミルルのお陰で少し落ち着けた。頭を撫でてミルルの言葉を聞かずに遺跡の中へ向かう。
「ジン!きっと良い才能来るから頑張ってね!」
「ソフィアか。まあ、程々に頑張ってくるわ」
遺跡手前でソフィアから激励されながら俺は遺跡の中へ入っていった。
✱✱✱
「…くそったれが」
遺跡の中の石版に映り出される才能を前に俺はそんな言葉が漏れ出てしまう。
悔しさと悲しさが混じり混ざったような声色だった。
だがそんな声が出たのも仕方ないと思う。
なんせ俺の前に映り出される才能がーーーーーー
【感覚操作】
身体の中にある感覚全てを操作する。
※これを手にしたものはちゃんと扱えるようになるまで稀に自動で発動する。
扱えるまで感覚操作は最低か最高のどちらかにしかならない。
【雷魔法】
身体の内にある魔力を使うことで雷魔法を発生させる。※雷魔法は一定量の魔力を放出できるようになるまで扱えない。
(派生スキル: ライトニング)
【魔眼】
眼が魔眼に変わる。しかし魔眼は1度使えば自然に扱えるようになるが、開眼させることが困難。さらに、どんな魔眼かは開眼しない限り不明。
この三つだったからだ。
普通に俺一人でここに来ていたならこれでも充分喜べたと思う。なんせ【感覚操作】はレア度C、【雷魔法】はレア度B、【魔眼】はレア度Cだからだ。
だが、今この時に限っては全く喜べそうになかった。
俺はライト、ソフィア、ミルルとパーティーを組んでいる。パーティーは実力差が出来るだけない方がより上手く連携が出来るため拮抗している人同士が組むことを推奨されている。
才能を貰うまでは俺たち6人は誰でも組めたと思う。
だけど、俺がこのレア度の才能ならばそれは無理に近いことになる。
まず、ギリムは総合レア度Aだ。
また、アルトは【水魔法】に【風魔法】、【身体能力強化 中】で総合レア度がBだ。
ライトは、【身体能力強化 大】に【聖魔法】に【聖剣召喚】で三つのうち二つもレア度Sの才能だ。レア度S自体が珍しく10年に一人と言われるレベルの品物を一人の人間が二つも所持している。
まるで物語に出てくる主人公みたいだ。
ミルルも【身体能力強化 大】に【全属性魔法】に【魔力増強】と三つのうち二つがA、一つがSと破格の才能だった。
またもやレア度Sが出てその瞬間はとても騒がしくなったくらいだ。
ソフィアも【身体能力強化 大】に【後衛適正 大】に【聖回復魔法】とレア度Aが二つ、Sが一つときたものだ。
5人中総合ランクB、Aが合わせて二人、Sが3人。
世間が狭いとかそういうレベルを超えていた。
レア度Sだけでも10年に一人と言われてるにも関わらずそれが3人。しかも俺のパーティーメンバーだ。
パーティーメンバーは実力が拮抗している方が良い。つまり差があるほど組まない方がいい、ということだ。
その三人に比べ俺はレア度Cが二つ、Bが一つと総合ランクCだ。CとSでは差がありすぎる。
気を落ち着かせようとするも難しい。
石版の部屋は10分しかいられないためもう出なければならない。
まだ動揺していたがそれでも出なければならないため仕方なしに石版の部屋をあとにした。
部屋を出ると5人がどうだったのか興味深々な顔でこっちを見ていた。
「ジン。どうだった?」
ライトが聞いてくることによってそれに合わせようとほか4人も聞いてくる。
「…才能展開」
俺の前に出現したカードを見て5人は固まった。
そして俺の表情を見ると途端にフォローしてきた。
俺は頭がまっしろになっていたため何も言うことが出来なかった。
「これじゃージン!ライトたちとパーティー組めねーんじゃねーか?」
ここでギリムの空気読めないが発動し言い放つ。
その瞬間他の4人は滅多に見ないが憤怒の表情でギリムに何か言っていた。
「はは…そーかもな。」
俺がそう言うとアルトはまたギリムを怒り、ライトは心配そうな表情に、ミルルは信じられないとでも言いたげな表情、ソフィアもミルルと同じ表情だった。
帰りの馬車は何とも後味が悪い空気になり、誰一人喋ることなく村へと向かっていった。
村に着き神の天啓での結果を報告すると村全体で歓喜の声を上げその日は村人大勢で宴会をした。
それも当然だ。総合ランクBやAでも珍しいのにSが3人もいるんだから。
俺に対し仲のいい人達は労いの言葉をかけてくれたりしてくれたが大多数の人は俺なんていないように扱っていた。高ランク者に比べ俺は低かったからだ。
だが今の俺にはそんなことは関係なく何もしようという気力が湧かなかったため宴会には出席しないと伝え自宅へと向かっていき何も食べずに瞳を閉じ眠りについた。
次の日なんとか頭の中で整理することが出来た俺は村の習慣の狩りの為いつもの場所に行きライトたちを待った。
足音が聞こえライトたちが来たと思いそちらに目を向けると思わず目を疑ってしまった。
ライトたちの横に村長も連れていたためだ。
「…ジンくん、昨日は家のバカ息子が馬鹿なことを言って悪かったね」
「い、いえ。村長、実際あいつの言ったことは事実ではありましたし。お陰で踏切がつきました。」
あいつらに追いつけるように努力し続ける、ていう覚悟ができたんだ。
「…そうか。なら話は早いな。これから十日間はライトたちとギリムたちで狩りに向かわせる。」
何を勘違いしたのか村長はそんなことを言ってのけた。
「い、いや村長。踏切が付いたと言うのはですねーーー」
「奨学金制度は知っているよね?」
俺の話を遮るように村長は割って入り話し出す。
奨学金制度ーー王都にある学園に推薦として入学できる制度だ。あれの対象は確か総合ランクBいじょ…ぅ。
ここまで来て村長の言いたいことがやっと分かった。
つまりあいつらは十日後に王都に向かうため今の俺は邪魔だということだろう。
「ジンくん。辛いかもしれないけどギリムたちを笑顔で見送って欲しい。その方がきっとみんな幸せだと思う。」
「………………はい。分かり…ました。」
そう言って村長は来た道を戻って言った。
「…ジン。昨日は悪かった!」
ギリムが綺麗に90度曲げ謝罪してきた。
「あぁ、お前に…悪気が無いのは分かってるよ」
この展開が早すぎる状況に理解出来ないまま俺はギリムに言った。
「私達は王都に行くけどジンもいつか来るよね?約束したでしょ?パーティー組むって。」
ミルルが俺に詰め寄って言ってくる。
その真っ直ぐな瞳に俺は目を逸らすしかなかった。
そんな俺を見たミルルは一瞬悲しそうな顔をし、無表情で離れていった。
「ジン。まだ整理出来てないかもしれないけど、絶対会いに来てよね!」
ソフィアが言ってくるも俺は頭を抱えこの目まぐるしく変わっていく状況に意味がわからなくなって言った。
ここから逃げ出したい。今は一人になりたい。そんなことしか今は考えられなかった。
「あ、ああ、そうだ、な。悪い、俺ちょっと用事あるから戻るな」
俺はそう答えライトたちとは真逆の方向へと走り出した。
後ろから何か声が聞こえるが今は何も考えたくなかった。
一人になりたかった。
ここで回想は終わります!
文字数増やせるように頑張りますね!
ちなみに派生スキルは基本、自身しか見れません。