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マリーとルディ  作者: 緑茶少年S
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第9話

 風が唸る音を聞く。次いで空気を震わせる咆哮が。

 丸太のような腕が大振りに振り下ろされる先をわざわざ予測する必要は私にもルディにもない。それは私たちで間違いないのだから。

 私は浮かせた水のクッションを操りそのまま文字通り上空へ「泳いで」回避し、ルディはその場から飛び退くことで回避する。動作に焦りはない。落ちた拳が地を陥没させようとも、当たらなければ無意味だ。

 大鬼は頭が悪い。中には会話もこなす程の者もいると聞くが、正直眉唾物としか思えない。

 避けられてイラついたのか、大鬼は浮かんでいる私より叩き潰しやすいだろう

、地に立つルディを狙う。聞くに耐えない獣にも似た醜悪な咆哮を上げて飛びかかっていく。

 当然のようにルディは避け──


「っルディ!?」


 ると思っていた。なのに、ルディは避ける素振りも見せない。受け止めるつもりなのか、それとも肉を切らせて骨を絶つつもりなのか!?

 それは無茶だ、どう考えても無茶だ!

 助けに戻ろうにもここからでは間に合わない!ならば水の魔法でどうにかならないか?盾など作れば──いや、私には水を操ることはできても、凍らせることはできない!

 急速に回る思考に乗り物酔いでも起こしたかのような気分になる。そして必死に考えだした結果を実行するべく傘の先端を突きつける。狙いは──大鬼の腕。

 この数秒の間でやれることは、滝のように水を当て続けて押しとどめ、ルディが逃れる時間を稼ぐことだけだろう。


「マリー、準備しといてよ!」


 どこか楽しそうな声が聞こえてきた。それに傘を突きつけたまま動きが止まる。

 準備?何を?彼女は、何をするつもりなのだろう?

 困惑する私をよそにルディの箒が大鬼の腕を払うように振り抜かれた、その瞬間。


「焼かれろッ!!」


 炎がルディの魔力に「引火」する。

 爆発的に燃え上がったそれは大鬼を引きずり込もうと手を次から次へと伸ばす!

 赤と橙と黄色が混ざって苛烈に燃え盛るそれは、「悪意」を呑み込み浄化していくようにも見えた。

 炎の勢いと熱に驚いた大鬼は、情けない声とともに後ろへ大きくよろめく。


「マリー!」


 名前を呼ばれてはっとする。今が間違いなく攻撃をしかけるチャンスだ。今度こそ突きつけた傘に魔力を集める。


「っわかった!」


 針のように細く、風よりももっと速く、雨のように降れ──魔力は水へと変わり、思った通りの姿をとり、大鬼めがけて降っていく。細く勢いよく飛ぶ水は、対象を蜂の巣にすることなど容易である。

 巨体を地に縫いつけた水の糸が消え、操り人形が崩れ落ちるように大鬼が倒れた。同時に、気持ち悪い程だった「悪意」が晴れていくのが分かる。


「やっ、た……?」

「みたいね……。頑丈だから一時的に、でしょうけど」


 大鬼に駆け寄ったルディが急ぎ気味に例の首飾りを剥ぎ取り、すぐに大鬼から距離を取る。私もルディの側まで泳いで戻る。


「そっか。真火香さんに連絡入れないとね」

「それは私がやっておくわ。マリーには、その」


 気まずそうな顔をしたルディの視線が右に左に移動した後、苦笑いを浮かべながらある方向を指差す。首を傾げた私がその指の先を辿ると……。


「ル、ルディ!燃えてる!!」

「そう……ちょっとやりすぎちゃって……申し訳ないんだけど消火を頼んでいいかしら……」

「わわわ分かった!まかせて!」


 傘の先からシャワーを作り出し、消火をしながら横目に携帯で真火香さんに連絡を取るルディをちらっと見る。

 思い出すのは先程の苛烈な炎。あんなに穏やかな人が、あんなに苛烈な魔法を使うなんて。

 意外ではあったが、怖くなったわけではない。むしろ、もっと知りたくなった。私はまだまだ彼女のことを知らない。そしてそれは彼女も同じ。帰ったらたくさん話をして、少しずつ、もっと分かり合えればいいな。

 楽しみでつい笑ってしまった私をルディが不思議そうな顔で見ていて、それに笑みを深めた。


「帰ったらおしゃべりしてくれる?ルディのこともっと聞きたいの」


 私の言葉にルディも笑ってくれる。何を話そうか、何を聞いてみようか──鼻歌でも歌いたくなるような気分になる。


「マリーの話も、たくさん聞かせてよね」

「もちろん!」


 楽しみで仕方ない気持ちが顔にまで表れる。きっとすごく緩んでいるんだろうなあ、ちょっと恥ずかしいかも、と思う反面、こういうのもいいなあと思う。

 元々仕事漬けであまり誰かとゆっくり話すような時間なんてここしばらくなかった。自分が好んでそうしていたとはいえ、少し働き過ぎていたのかもしれない。「向こう」に戻ったら、もう少しゆっくりする時間を作ろう。

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