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マリーとルディ  作者: 緑茶少年S
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第13話

 翌日、私とルディは真火香さんの書斎へ呼ばれた。大事な話がある、と真面目なのかそうでないのかよく分からない顔だった。普段どおりの、にこやかな笑顔だったような気がする。それでも、ルディの雰囲気が変わったように見えたので、本当に大事な話なのだろう。


「急に悪いね。今お茶でも……」

「お茶なら用意してきましたよ。ちょうどイレブンジズの時間ですから」


 イレブンジズとは午前11時に行われるティーブレイクで、仕事や家事の合間の気分転換なんだそうだ。貴族であり紅茶好きである真火香さんは、朝昼晩はもちろん、合間合間のティータイムも欠かさずとる。こういったお茶の文化とは縁遠かった私は、ここに来てから本当によく飲むようになったと感じる。こうやって温かいお茶を飲むだけでも結構な気分転換になることを初めて知った。包みこむような紅茶の香りを楽しむことも、一緒においしいお菓子を楽しむことも、前の自分ではできなかった。それを私は嬉しく思う。

 真火香さんはルディにありがとう、と笑った。

 私はソファに座れないのでソファに挟まれたテーブルの真横、というお誕生日席みたいな位置に落ち着く。


「それで、どうしたんですか?」

「新しい仕事が来てね、それについてさ。……マリー、アン・フィ・アルヴェーンという名に聞き覚えは?」

「アン・フィ・アルヴェーン……!」


 その名前の主を思い出すのに少しも時間はいらなかった。なぜなら、私が喚ばれる前に任務で捜していた少女だったからだ。彼女は生きた獲物を食べる水生の種族で、人の近寄らない場所で暮らしているため、普段は魚や動物など(当然そこには人魚も含まれる)を狩っている。

 ただ……、アン・フィ・アルヴェーンは人の肉を食べた可能性がある。幼い内に人の肉を覚えてしまうと、以降それのみを食べたがるようになってしまう。

 その真偽を問うためと、もし食べていた場合を考え被害が増える前に確保する。それが、私のしていた任務だった。

 その彼女が、同じ世界に来ているなんて……。


「知ってます……!ここに来る前に、追っていた子です!」

「それは、すごい偶然ね……」

「私はこれをまたとないチャンスだと思っている。彼女を喚んだ魔法使いを捕まえることができれば、それは帰るための大きな手掛かりになるはずだ」


 帰るための手掛かり!私は思わず身を乗り出した。

 そうか、同じ世界から魔法使いに喚ばれたのなら、彼女を喚んだ魔導書を持っているはずだ。たしかにそれがあれば、私を喚んだ魔導書を特定する大きな手掛かりになる!

 唐突に現れた帰れるかもしれないという希望に、期待を隠すことはできなかった。そんな私に真火香さんは微笑んで頷く。


「っルディ!」

「良かったわね、マリー!」


 嬉しさのあまりルディに抱きつけば、彼女もしっかりと抱きしめ返してくれる。彼女の体温は水生の私からすると熱いくらいなのであまり長く触れ合えないのだが、そんなことは全く気にならなかった。そのことを気にして力を緩める彼女とは対照的に、力を込める。やけどのひとつくらい負ったって構わない。私は完全に舞いあがっていた。それは悪いことだろうか。


「お祝いは全てが終わってからゆっくりと、盛大に行うとしよう。まずは……」


がしゃあん、どんっ。


「招かれざるお客の相手からだ」


 ガラスが割れる音と叩きつけるような音に肩が跳ねる。この部屋ではない。ばっ、と二人同時に真火香さんを見る。


「奥の廊下だね。外から見てみよう」


 真火香さんが魔法で部屋にある私たちの武器を取り出し、音のしたところへ急行する。

 近づくほどに強くなるのは、鉄の嫌なにおい。そこで本当に鉄だと思うほど私は純粋じゃない。そして、他の2人も。

 到着した先に広がる光景に、全員が息を呑む。割れた窓と、ひびの入った壁にぶちまかれた赤。倒れている人、と思われるもののすぐ前に座りこむ子ども。腕を動かして、手当てをしているのだろうか。いや────


 ゆっくりと振り返る子ども。その身に合わない大きな異形の腕が口に運びそこねた肉を落とす。べちゃりと嫌な音がした。上手く食事ができない子どもみたいに胸元も口の周りもたくさん汚して、口を開いたままぼさぼさの前髪の隙間から覗く、黒い目。


────食っている。


「アン、フィ……アルヴェーン……」


 私の小さな声に子どもが反応する。黒い目が私を捉える。

 ぞっとした。ペンでぐるぐるぐちゃぐちゃと塗りつぶしたような黒。その目を少しも見ていたくないし、見られたくもない。このまま見て、見られていたら、狂気に引きずり込まれてしまうからやめろ、今すぐ逸らせ、そんな警鐘がずっと頭の中で鳴っている。

 アンがふらふら立ち上がった。異様な表情は、そのままに。腕が重いのか足がおぼつかないのかゆらゆらとしきりに揺れている。目だけが、揺れることなくこちらを捉えて離さない。

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