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マリーとルディ  作者: 緑茶少年S
12/17

第12話

「やあ木槿、さっきぶり」

「さっきぶりだな、真火香」


 書斎に現れた木槿を、真火香は笑顔で迎えた。陽気な鼻歌を歌いながら応接用のテーブルに魔法でお茶とお菓子を用意する。メロディに合わせて指をくるくると回したり振ったりすれば、良い香りを漂わせるティーポットとティーカップ、ソーサーが現れ、器用にテーブルを跳ねて位置につく。リズムをとるようにかかとを鳴らせば大皿が出現し、宙からたくさんのお菓子が降り、皿に着地するなりきれいにグループを作って整列する。焼きたての香りがするマドレーヌに色とりどりのマカロン、かわいくかたどられたチョコレート……口直しのクラッカーまである。真火香お気に入りのフランボワーズのマカロンと、木槿お気に入りのカピバラ型のチョコレートが少し多いのを見て、木槿が微かに笑った。

 最初は生き物のように動く食器類とお菓子に、木槿は気味悪く思ったこともあったが、今ではもうすっかり慣れたものだった。

 これは長話をする気満々と見て間違いない。このたくさんのお菓子と同じくらい、積もる話があるのだろう。

 鼻歌の終わりについと指された机の上の蓄音機が、レコードを回し始める。真火香お気に入りのピアノ曲、「鱒」だ。


「さ、座って座って」


 木槿が促されてソファに座るのを見て、真火香も向かいに座った。まずは、ひとりでに注がれた紅茶の香りを楽しむ。ベルガモットの香りがすっと広がるのを感じて、さわやかな気持ちになる。

 久しぶりの再会を喜ぶ真火香の気持ちを表現しているような、そんな香りだ。


「アールグレイか。とてもいい香りだ」

「気に入ってもらえて良かった。仕事の後だから、こういうものの方が良いかと思ってね」

「仕事と言っても、タクトも無い魔法使いを護送しただけだが……ありがたく頂こう」


 一口飲んで、ほっと息をつく。体が内側から温まる感覚は不思議と安心するものだ。


「最近はどうだい、調子は」

「大きな怪我もなく、変わりない。真火香は?」

「マリーがうちに来たことくらいで、特に変わりないね」

「人魚の彼女だな。彼女が来てから、屋敷がまた明るくなったんじゃないか?」

「君にも分かるかい、ふふ。私しかいなかった屋敷が、ルディとマリーのおかげでずいぶん明るくなったよ」


 お菓子を順調につまむ真火香の顔は、昔に比べて柔らかくなった、と木槿は思った。元気な性格の彼女たちから良い影響を受けたのだろう。真火香の変化は木槿にとっても嬉しいものだった。


「木槿、積もる話の前に頼みたいことがある」

「何だ?」

「まだこの町には来ていないけど……人を食らう使い魔の話があるだろう」

「…………視たのか」


 人を食らう使い魔。その存在は戦闘専門である魔導騎士達の間でしか流れていない情報だった。また野良犬かと思われていたのだが、真火香ははっきり使い魔と言った。彼女はまた未来を視たのだろう。その中で、使い魔であると確信できる出来事があった、というところか。


「うん。そいつの討伐任務、私に預けてほしい」

「は……!?」

「危ないことは分かっているから、怒らないでくれ。……これはあの子に関わりのある案件なんだ」

「……あの子、だと」

「私が視たものは二つ。良いものと悪いもの……まだどちらに進むか分からないんだ。だから良い方で確定させたい。……公爵デュークの地位にあるとはいえ、魔導騎士の管轄のものを好き勝手するわけにはいかなくてね」


 木槿は腕を組んで考え込んだ。攻撃手段を持たない魔法使いが戦うとすれば、戦うことのできる使い魔に任せることになる。ルディは確かに強い方の使い魔ではあるが、真火香自身が討たれてしまえばそんなことは関係なくなる。正直、彼女に預けるには重すぎる任務だ。


「頼むよ、木槿」


 白銀の瞳が逸らされることなく木槿の赤い瞳を見つめる。頼み込む真火香の顔を見て、盛大に溜め息をついた。木槿は真火香のこういう顔に弱いきらいがあるのを自覚していた。


「……良いだろう。ただし……一人で行動するのは許さん」

「そ、れは……」

「いくら魔導騎士の管轄で好き勝手できないとはいえ、公爵なら誰でも好きに呼びつけられるだろう。私でなくとも、お前に快く協力する人物の心当たりはあるはずだ」

「たしかに氷柱も凪も、二つ返事で来てくれるだろうね……。もちろん、君も」

「なら、構わないな」


 異論は認めない。そう言外に伝えれば真火香は諦めたように笑って、条件を呑んだ。


「うん、ありがとう……ふふっ。さて、積もる話をするとしようか」

「……そういえば真火香は好きなものを最後に食べる方だったな」

「ああ……君はどっちだったかな?」

「私は最初に食べる方だ」

「ふ……嘘はいけないね。君はバランスよく食べる方だ」

「なんだ……覚えているんじゃないか」

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