Missing 10 ◆螺旋を描いて舞い上がれ
時間も夜になってしまってたし、盛り上がったんで今日は随分と長居をした。
会計を済ませて、入ってきた小路を逆戻りする。
ふと、彼女が頭を振り上げた。
「……空」
「うん? あ……」
夕立で空気が澄んだのだろう。暗闇色の夜空の遠くから、星の便りがここにも届いていた。
暫く上なんて見てなかった。
「ね、あれ、天の川」
彼女が指差した方向に、星々が連なって静かに流れる天上の大河があった。全体は見えにくいが、ぐるりと頭をめぐらして闇夜にちばめられた星屑を仰ぐ。
いつだったか、小さいときに連れてかれた山のキャンプで、物凄い星空を見たことがある。
「星座がさ、分かんないんだよ。星がありすぎて」
ぎっしりとマジックボックスにダイヤモンドやルビーやエメラルドを詰め込んで、その中に放り込まれた感じがした。
南から北へ、西から東へ、何度も何度も身体と頭を回転させながら、まるで宇宙に浮かんでいる感覚がしたものだ。
そのうちに目が回る。いや、感覚がおかしくなる。
なぜ?
足元が地面から離れて、「自由」になってしまうのだ。
それは怖いことだ。
もしかしたら、自分達はまだ、地に足をつけていないと恐怖を感じる人類なのかもしれない。
「良く考えたら」
「ん」
「あのヤケに大きい星が二つ見えるんだけど」
「……あ、ホントだ」
星屑の墨流しみたいな河の両岸にそれぞれ、ひと際強く輝いて互いを呼び合うような星がある。
ゆえなく引き裂かれた距離を、定められた時間に、ただ一度の逢瀬を待つ。
そんな物語が……あったな。
(……彼女と『彼』も、そういう出逢いなんだろうなぁ)
大好きな人って、別に恋人とかじゃなくても、そういうの居るだろ。
その気持ちはどこでも共通事項なんだろうか。
「少年時代にありがちなもと天文おたくの記憶によれば、あれはベガとアルタイルって言うんですけどね。織姫と彦星とも言います。あの夏の大三角形の一角をなす白鳥座のデネブを天の川に架かった橋にして―――で、あの星の中の、何処から来たんですか?」
空は不思議だ。
特に星が見える空。
囁いたフリして何も言わず瞬くから、寂しそうな感じなのに、全然寂しくないんだ。
星がいっぱいあるから?
違うな……星が生きてるから。
「何処って……」
二人とも見上げてるから互いの顔は見えないが、それでもどんな表情か分かる。
彼女は微笑んでる。
「たぶん、ずっと遠い星……」
とても遠い星でも、手の届かない異世界からでも、願えば星の光が教えてくれるだろう。
「逢えたんだね」
「うん。逢えるまで寂しかったけど」
時空の大河を渡って、限られた時間を、大切な一瞬を取り戻しに。
ずっと上を見っぱなしで首が痛くなってきた。
「聞いていい?」
「なーに」
「『彼』とは今後どうなるの? 一緒に戦うの?」
彼女が押し黙った感じがしたので、オレは少し焦って彼女に視線を送った。
聞いちゃ悪かったんだろうか。
「『彼』は――」
妙に凛とした表情で俺を見返す。
「『彼』はね」
先へ進む事に迷いの無い意思を感じる。
「――結果的に、私を守って死ぬわ」
近い将来、間違いなく、その未来はやってくる。
「私が居る、この場所を護って。それが『彼』の使命。私との約束」
でも、この世は仮の世。
だから、私たちの恋は仮初めの恋。
限られた時間と空間を共有し、一瞬の貴方を大事にするためにも、此処へ来たのだから。
【天河を渡る仮初めの恋 完】
最後まで読んでくださいました、
根気良く、そして読解力ある読者諸氏に多謝。
盛り上がりには欠けますが、世界の隅っこで語る物語、
天の川のように密やかに流れるイメージのつもりでした。
恋愛にするつもりが恋愛にならなかった。
ファンタジーにするつもりがファンタジーにならなかった。
ヲカルトにするつもりはなかったがスピリチュアルテイスト。
SFかと思いきや脳内ファンタジー。
ジツワとモウソウの練り物。(混合比不明)
ちゃんとやれば「すぺーすふぁんたじー」になるんですが、
いかんせん、三万文字と言う「短編」にするには無理があった点を
自省します。
(しかも最後のほうで規定三万文字オーバー焦って添削)
と言うのも、この作品の元ネタは、
現在シリーズで連載している物語の外伝「神伝」に当たるものですが、
小説化の目処が立たないので急遽、
七夕小説企画に参加させていただき、投下してしまったモノでした。
いつかいつかいつか、このネタ焼き直しした物語書きたいものです。