走れ
ジョン・スミスは走っていた
何時間も
この深い森の中を
あたり暗く闇に覆われていて静かで
彼の心臓の鼓動ですら聞こえるような気がした
何かが彼を追っていた
何かはわからない
でもそこに恐怖はあった
月が頭上に一つ輝いていた
決して振り向いてはならないとこの森に入る前、誰かがスミスに言った
しかし、誰かはわからない
だからもしかしたら言われなかったのかも知れない
しかし彼の体は”逃げろ”と悟っていた
だから走りながら水を飲んだ
だから走りながらスミスは寝た
だから走りながら食事を取った
スミスは空を仰ぎ見て、時計を見た
時刻は森に入った時と変わらなかった
五時五十四分で時計は止まっていた
月が頭上に一つ輝いていた
”はぁはぁ”
スミスの息使いが荒くなる
後ろで木がミシミシと圧縮されるような音がする
それが何かはわからない、だがしかし確実に
”近づいてる”
スミスは走る速度を上げた
これを二十四回繰り返した
時折、追いつかれそうになった
そのたびにスミスは逃げ延びたが、徐々に足の傷が増えていった
走っていて、スミスはある事に気づいた
”どこに向かっているのだろう?”
”この森に入ったとき、確かに理由はあったはずだ”
スミスは空を仰ぎ見て、時計を見た
時計の針は無かった
空では月が二つこちらをにらんでいた
さらに走っていて、スミスはある事に気づいた
”いつから走っているのだろう?”
”いつまで走ればいいのだろう?”
スミスは空を仰ぎ見て、時計を見た
時計の針は無かった
空では月が二つこちらをにらんでいた
もうずっと長いこと走っている気がする
”もしかしたら”とスミスは思った
”すべてがあべこべだったとしたら・・・”とスミスは考えた
何かがスミスの中に入っていった
何かがスミスの中で変わった
スミスは静かに歩みを止めた
じっと空を見つめていた
雲がゆっくりを動いてる
自分の感覚に身をませた
そしてゆっくりと何時間もかけて振り返った
そこには何も無かった