∮灰の魔女 共通② エンジェリクス
「遅かったな」
「しつこいのを巻くのにてまどって」
帰宅すると客人がドアを叩いた。顔がバレないようにローブを巻いた。
◇◇◇
「ここに天弓の魔女はいるか!」
「なんだい騒がしいねぇ」
黒いローブで全身を隠した女が音もなく青年の背後に現れた。
ゾワりと全身の皮膚が泡立つのを感じながら、青年はすぐさま距離をとる。
「恐いの?」
「……魔女を恐れていないといえば、嘘になる」
「へぇ、意外な答え」
こういう場面で、正直に恐怖していると言う素直さに女は驚く。
「単刀直入に聞く。どんな願いも叶えるという天弓はあるのか?」
「なかったらここにアタシが姿を晒すわけないだろ」
愚問としか言い様がない。という口調で淡々と答えた。
「完全に姿は晒していないだろう」
女は全体が布で覆われていることから、せめて顔を見せるのが礼儀だと青年が強く言った。
「天弓の魔女はそう安易に顔を晒せないんだよ」
「……ならば仕方がない」
あまり機嫌を損ねると願いどころではない。あくまでも彼の立場は懇願する側だと言葉を飲みこんだ。
「それで、アンタはどうして恐い魔女さんを訪ねてきたんだい?」
「病の婚約者がいる」
「……いい医者紹介してやるよ?」
これは冗談だったが、この顔は医者で解決できるものではない類が絡んでいる様子である。
「ほー呪いか」
呪い程度で魔女がいちいち驚いてられない。だが、それなら呪術師でいいんじゃないか?
他に企んでいることがあるのではないかと、疑いの目を向けた。
「グレーラ私を覚えているか?」