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第四章 ―其の市―

カインを王国へと送り届けた帰り道…前回の戦友であった公国の兵士と遭遇する勇者一行。だが、そこで明かされる衝撃の事実…

前回顔を合わせる事無く終わったカライモンの姪は、実は勇者達の想像を裏切る美形だったのだ!


そして、兵士と魔族の女…カライモンの姪を勇者の領地へと向かえる最中、再び襲い来る黒い甲冑の二人組。

……しかしそれは、決戦の前の前哨戦でしか無かった。


天空山にて繰り広げられる、黒い甲冑の二人組との決戦………

激しい戦いの末、勇者とエレナは辛くも勝利を収めるのだが…突如。デミ・マオウシステムへと変貌してしまう黒い甲冑の女。

更にその窮地の中、勇者は遂に二人の正体…かつてのパーティーメンバー、前回の記憶を引き継いだ戦士と僧侶だという事に気付く。


僧侶を倒さなければデミ・マオウシステムを倒す事は出来ない…覚悟を決める面々


だが、勇者はそんな前提を討ち破って勝利を収め…戦士と僧侶を再び勇者パーティーへと呼び戻す事となるのだった。



●第四章 ―可能性の迷路 其の市―


―帰りの山道―


エレナ「それでナビちゃん、ちょっと質問なんだけど」

ナビ「質問を許可」


エレナ「前回存在していた人物しか、今回も存在していない…っていうのは間違い無いんだよね?」

ナビ「肯定する」


エレナ「じゃぁやっぱり………ナビちゃんが今ここに存在しているのって、二人―――」

ナビ「肯定する」

エレナ「まだ最後まで言って無いんだけど」


ナビ「エレナが正解を導き出している事は想定済み。それよりも勇者」


勇者「何だ?」

ナビ「話は変わるが、セーブとロードの活用をしているかが疑問。経過と反応を見ている限り、初見で無茶をしているように見える」

勇者「あぁ…そう言えばそんな物もあったな。すっかり忘れていた………いや、無言で毒針を刺すのは止めてくれ」


ナビ「ぷすぷすぷすぷすぷすぷす」


勇者「いや、訂正する…有言で刺すのも止めてくれ。地味に痛い」

ナビ「では、次回からは活用する事を要請する。否、今から活用するべき」

勇者「わ…判った」


ナビに促されるまま、俺は早速セーブを行った。



カイン「で…それは良いんだけど、この後はどうするのさ。何かやる事が一気に片付いちゃって、次の目的が無いよね?」

勇者「そうだな………とりあえずは、勇気の証明を行う手段を探さなければいけないんだが」

エレナ「それこそ雲を掴むような話なんだよね。だから…」


帝王「その手段を探すのが、当面の目的…ってぇ事だな」

ヤス「ッスね」


勇者「しかし、それを探すためとは言え時間を無駄に出来ないのも事実。まずはやれる事からこなして行こうと思う」

ナビ「では勇者……当面の目的地を決めるべき」

勇者「そうだな…なら」


何となくここが分基点な気がして、俺はここでまたセーブを行った。


勇者「まずは…マオウシステムの破棄を提言するため、公国に行こう」



―公国の関所―


検査官A「それでは…王国からの確認が完了しましたので、次の手続きへ」


天空山での決戦後…一旦領主の館に戻り、改めて公国に訪れた俺とエレナ。国王様からの言伝があったため、関所で行われる検問もそれ自体は順調に進んでいたのだが…ひ


ょんな事から、暫く足止めを食う事になった。


検査官B「おい、そっちはどうだ?」

検査官A「問題無い。前もって連絡のあった勇者様ご一行だ」

検査官B「そうか…では悪いが、もう少し待って貰ってくれ。あっちの部屋で問題があったらしくて、人手が必要なんだ」

検査官A「おいおい、またか……」


勇者「何があったんだ?もし良ければ力になるが…」

検査官A「いえ、勇者様のお手を煩わせる程の事では……あぁでも、手伝って貰えた方が早くお通し出来るのかも…」


悩んだ挙句、協力の申し出を受け入れる検査官。そして俺達は、連れられるまま奥の部屋へと進み…


検査官B「こいつら…全員が全員、密輸犯なんですよ」


部屋を見渡すと、ざっと10数人。これら全てが密輸犯だと言う


勇者「これだけの数…よくある事なのか?」

検査官A「いえ…今まではこんな事は殆どありませんでしたが…逆に、ここ数ヶ月になってからは毎日のように…」

検査官B「巷で噂になってるブラックマーケット…それにこいつ等が関わってるんんじゃぁ無いかと思うんですが…」


勇者「成る程…つまり、ここで早急に全員の尋問を済ませられれば、事が早く進む…という事か」

検査官B「はい、そういう事です」

勇者「確かにこの人数は骨が折れそうだ。まぁ…実際に骨を折れば手間を減らせるのかも知れんが…」


と言って威圧を行う俺。その甲斐あってか、密輸犯達は怯え素直になりそうな感じではあるが………人数が人数なだけに、そう簡単には終わらなそうだ


エレナ「あ、じゃぁここは私に任せて。丁度試したい魔法があったんだよ」


と進言するエレナ。ここから先はあえて省略するが………一つだけ言うべき事あるとすれば、そう。自白させる魔法があったのなら、最初からそれを使ってやっても良かっ


たのでは無いだろうか……と言う俺の感想だけだ。



検査官A「ご協力ありがとうございました」


そして…自供から得られた共通の情報はこうだ


エレナ「ブラックマーケットに参加するために、違法な品を持ち込んだ人達……まぁ、これで終わってくれて居れば良かったんだけど」

勇者「関所で捕まるよう、誰かに仕組まれた形跡がある者も多数…これはつまり」


エレナ「スケープゴート…だね。その本命はもう、裏から入国を済ませてるんじゃないかな」


勇者「裏から…か。そのマーケット自体に裏がありそう…と言えば当然なのだが、まだ何かが隠れている気がする」

エレナ「前回の冒険では、ブラックマーケットの存在自体知らなかったんだよね?」

勇者「あぁ、それどころでは無かったからな…」

エレナ「それじゃぁ…」


本来の目的からは大分逸れるが、見過ごしておく訳にも行かない。


勇者「潜入してみるか。そのブラックマーケットに」



―兵士と魔族の女の愛の巣―


勇者「………と言う訳で…ブラックマーケットの開催場所を探しているんだが、何か心当たりは無いだろうか?」


エレルの転送魔法の力を借り、一時的に自分の領地…その中の、兵士と魔族の女の住む家へと訪れた俺達。


エレナ「スケープゴートの人達は、そこまでの情報を知らされてなかったんだよ…」

兵士「と、言われましても…私が所属していた頃にもブラックマーケットの捜索は行われていたのですが…」

勇者「その時も成果は無し…か」


エレナ「具体的には、どんな捜索方法を取ったのかな?」


兵士「それは…ええと。まず、公国が東西南北と中央の5つの地区に分けられているのはご存知ですよね?」

エレナ「うん」

兵士「そこを、4つの部隊で毎日ローテーションで捜索していたのですが…あ、多分今でも実施されていると思います」


エレナ「5つの地区なのに、4つの部隊だったの?」

兵士「はい、何分人手不足で」

勇者「と言う事は、常に一つ穴が出来る。その地区を確認してから、ブラックマーケットを開催すれば…」


ふと思い付き、俺は問う。


兵士「あ、いえ。それは無理です」


だが否定されてしまった


勇者「何故だ?」



兵士「ブラックマーケットを開催するためには…規模を考えれば最低でも1週間前には、場所の準備だけでも始めておかなければならないはずです」

勇者「準備中の所を押さえられないのか?」

兵士「それは無理です。マーケット自体は様々な場所で幾つも開催されていて…違法な品物でも確認出来ない限り、準備段階でそれが合法なのか違法なのかの区別は…」


勇者「成る程…つまり開催側からすれば、開催当日だけ警備の穴を突けば良いだけなのか」

兵士「しかし、それは容易ではありません。5つの地区の内の警備が無い1つを、何度も当てて開催するなんて……」

エレナ「でも逆を言えば、誰かから事前に警備の穴を聞けば、そこで開催出来る…って訳だね」

勇者「あるいは…特定の部隊が買収されていて、意図的に見逃して居たか…」


兵士「いえ、そのどちらもありえません」

勇者「何故そう言い切れる?」


兵士「警備のローテーションは、5日前に上層部が決定するんです。それに、編成される部隊もその選抜も毎回入れ替えられていましたから…」

勇者「ローテーションの発表があってからでは、遅い…と言う事か。流石に警備員の候補者全員を買収しているとは考え難いが…」

エレナ「これまた開催にも裏がありそうだねえ…まぁ、目下の所は重大な問題じゃないけど」


勇者「いや、大問題だろう?」

エレナ「話が脱線して忘れてるみたいだね……私達の最初の目的は、ブラックマーケットに潜入する事だよ?」

勇者「あぁ………そうだった。潜入だけなら今の話しで十分だったな」


エレナ「そう…捜索隊が巡回しない地区を探せば良いんだよ」


兵士「しかし、探すと言ってもそう簡単には…どの地区も、開催場所になりそうな場所が沢山ありますから…」

勇者「となると…公国の地理に詳しい人物が必要になるな」

エレナ「あと、警備の情報を得る事が出来る人物………」


勇者「前回はともかく…さすがに今回は、まだそこまでの人物の心当たりは………」


兵士「そうですね…」

エレナ「……………」

勇者「…………」


兵士「ん?皆さんどうしました?」


居た



―ブラックマーケット会場―


エレナが開発した不可視化の魔法を使い、兵士が警備の情報を得る事に成功した。そして穴となった地区で、兵士の協力の下、セーブとロードを繰り返し……俺達はやっと


ブラックマーケットの開催場所を探し当てた。

まぁ、そこから更に入場手続きやら何やらで手間取ったが……エレナの魔法で万事解決。俺達は今、ブラックマーケットの会場に居る。


幸か不幸か、会場内はマスカレード…仮面着用必須となっており、変装と相まって俺達の正体はばれていない。

まずやるべき事は観察…会場内を歩いて周るのだが…


エレナ「嘘………あれって、霊獣隷属の首輪?」

魔族の女「あちらの方は…古代の装飾品のようですね」


エレナ「あの魔除け、装飾に魔法金なんて使ってるよ!?あれだったら魔法銀で十分なのに…」

魔族の女「実益よりも見栄を重視した結果なのでしょうね…」


女性陣はウィンドウショッピングに花を咲かせていた。

頼むから、余り目立ってはくれるなよ……などと心配を抱える最中。ふと…オークション会場の一角が目に止まる。


勇者「あれは……」

エレナ「あれは………奴隷のオークションだね」


数年前…合衆国で行われた奴隷制度廃止を皮切りに、今や全世界で禁止されている制度………奴隷。その取引現場のようだ


勇者「……まだこんな所に」

魔族の女「需要と供給…需要を持つ人達が居なくならない限り、いくら禁止されようとも、こういう物は無くならないのでしょうね…」


心底軽蔑するような冷ややかな声で言う魔族の女

…と、そうだ…彼女の事も呼び方を変えておこう。つい先程知ったのだが………彼女の名はカーラ。ブラックマーケットにおいて、彼女の知識が何か助けになるかも知れ無


いと進言してくれたので、潜入捜査に同行して貰っている。


勇者「捨て置けないな…今すぐにでも……」

エレナ「あ、待って勇者くん。あれ見て」


勇者「ん?…………あれは…」



エレナ「うん、間違いないね…あれ、人魚だよ」


人魚…人間とも魔族とも異なる存在で、その肉を食らえば不老不死になれると言われている伝説の種族だ。ただその姿は、魚の下半身に人間の上半身…と言うよりも、人間


と同じ形状をしている上半身…と表現するのが近いかも知れない。半漁人…では無く人魚と呼ばれるのは、語り手の手心なのだろう…そう思う俺であった。


勇者「まさか…こんな所でお目にかかれるとはな」

エレナ「うん…多分あの人魚が今回の本命…」

勇者「大量のスケープゴートに隠された物の正体か」


エレナ「さて…この後はどうする?」

勇者「どうするもこうするも…人魚を含め、全ての奴隷を開放する…それだけだろう」

エレナ「まぁ…私もそれに賛同したいのは山々なんだけど………多分今回はそれじゃ解決しないと思う」


勇者「…と言うと?」


エレナ「多分これは氷山の一角だよ。例え今ここで開催されてるブラックマーケットを潰したとしても、また同じ事が繰り返される」

勇者「マオウシステムと同じく…根幹から断たねば意味が無い…と言う事か」

カーラ「そういう事になりますね。それで…私に一つ考えがあります。そのためには、あの人魚と話がしたいのですが……」


勇者「あの警備の厳重さでは、気付かれずに近付くのは無理だな。だが、ただ話すだけなら…」

カーラ「それはあまりお勧めできませんね………恐らく、この場に居る全員の目を引く事となります。そうなると…」

勇者「潜入捜査に支障が出る…と言う事だな」

エレナ「そうなると…ちょっと癪だけど。オークションで競り落としてから、落ち着ける場所で話をしてもらおうか。勇者くん、その作戦で行けそう?」


勇者「問題無い。金ならいくらでもある」


そう、前回の冒険で溜め込んだ金と、領主として運用した桁違いの金が俺の手元にはある。


だが…伏兵は思わぬ所から現れた。



―オークション会場―


青年貴族「1000万G!!」

司会「1000万G!!1000万Gが出ました!!」


勇者「1001万G」

司会「1001万G!!1001万G!!他にいらしゃいませんか?!」


青年貴族「………2000万G!」

司会「2000万G!!2000万Gが出ました!!」


ざわめく周囲…しかしそれも当然の事。2000万Gと言えば、小さな国が買える額だ。しかも、そんな法外な額の入札で競り合っているのが…俺と同年代くらいの、貴族


と思われる青年。


エレナ「2000万Gかあ…観賞用だとしたら法外にも程があるし…」

勇者「となると…それだけの価値のある用途はやはり………」

カーラ「でしょうね………それだけは避けるべきかと。勇者様、行けますか?」

勇者「金の事ならば任せろ……3000万Gだ!!」


俺の言葉に再びざわめく周囲。貴族の青年もまた…表情こそ見えない物の、驚愕の様相を隠せない。


司会「3000万G!3000万G!! さぁ、他にいらっしゃいませんか?」

貴族の青年「くっ………!!」

司会「いらっしゃいませんね?いらしゃいませんね?それでは3000万Gにて、あちらのお客様の落札で御座います!!」


こうしてオークションは終わり、俺達は受け渡し場所である奥の部屋へと向かった


―受け渡し部屋―


商人「3000万G…現金で確かに頂きました」

勇者「…俺達の身元の確認はしないのか?」

商人「それはまた、おかしな事を聞かれますね。私達は本来ここには存在しない人間…存在するのはお金と品物だけ…でしょう?」


成る程、そういう事か。余計な詮索をされずに済むのは助かるが、逆に捜査の糸口を掴めない。………悔しいが良い仕組みだ。


勇者「そうだったな…ではこの人魚、頂いて行くぞ」

商人「はい…あぁ、そうそう……最近は物騒で、ここでの品物を奪おうとする輩も少なくは無い様子」


エレナ「物が物なだけに、警備隊にも届出を出す事が出来ないから…正に恰好の獲物って訳だね」

カーラ「加えてここは今日の警備外区画…ですからね」


勇者「忠告感謝する。では。俺達はこれで失礼…」



―帰路―


そうして人魚の入った水槽…勿論それとは判らないように偽装した物を引き、ブラックマーケットの外へと出る俺達。そこから先は…案の定と言うか予想通り。人魚目当て


の賊が、次々と襲撃をかけて来た。が………まぁ、それは大した問題では無かった。あえて予想外な事を挙げるとするならば…


勇者「お前は………オークションに居た貴族だな」

青年貴族「良く判りましたね…ですが勘違いしないで欲しい。僕は君達を襲いに来た訳じゃない」

勇者「………」


エレナ「まぁうん………さすがに丸腰で襲撃する盗賊は居ないよね。どうする勇者君。大体想像は付くけど、話しだけでも聞く?」

勇者「………あまり良い予感はしないが…話だけなら聞いても良いか」



―宿屋の一室―


青年貴族「あれだけの入札を行った人が、こんなひなびた宿屋に宿泊しているだなんて………」

勇者「いかにも襲って下さいと言わんばかりの高級施設に泊まるよりは、幾らか裏をかけるだろう?」

青年貴族「成る程…言われてみれば確かに…」


いや、口から出任せだ。実際は貧乏性が染み付いた故の習慣的行動なんだが…結果オーライか


勇者「それで…大体の察しは付くが、用件は?」

青年貴族「他でもありません。貴方が落札した…その人魚を私に譲って頂きたい。時間さえ頂ければ、貴方の落札された価格の倍でも…」


勇者「では質問するが……この人魚を手に入れて、貴方は一体何をする積りだ?」

青年貴族「そ………それは……」


言いよどむ貴族。この反応を見る限りでも、何を目的としているのかは聞くまでも無い。


カーラ「人魚の肉による不老不死が目的…でしょうね」


俺だけに聞こえるよう、小さな声で呟くカーラ。俺も同感だ。


勇者「答えられないか…では、お引取り願おう」

青年貴族「そんな!!僕には…僕にはどうしても………」


必死の青年…その気迫だけは通じるが、だからと言って人魚を見殺しにする訳にもいかない。少々不本意だが、力付くでの退散を申し出ようとした……その瞬間。


盗賊達が、窓を破って乱入してきた。



先は出任せで言った物の、盗賊がこんなボロ宿屋をこうしてわざわざ狙うと言うのもおかしな話。しかも他の部屋への侵入の様子は無く、脇目も振らずにこの部屋に………


これは明らかにおかしい。


勇者「エレナ…これは多分」

エレナ「うん…今調べてみたら、追跡魔法がかかってた」

青年貴族「え…それは一体どういう……うわぁ!?」


運悪く盗賊の不意打ちを受ける青年貴族。気絶こそしている物の、致命傷は負っていないのがせめてもの救いだろう。


カーラ「これはまた…何ともキナ臭い事態のようですね」

エレナ「うん……3人だけだとちょっと手回しが間に合わなそうだから、今回はエレルの力も貸して貰おうか」


襲い来る盗賊を軽く殴り、気絶させる俺。手早くエレルへの連絡を行うエレナ。気絶させた盗賊を魔法の鎖で縛るカーラ。そうして俺達は盗賊の襲撃を片付け―――


エレル「という訳で、パパッと調べてきた事を、ササッと説明しちゃいますね」

勇者「頼む」


エレル「まずそこの盗賊は…案の定商人に雇われて、商品…人魚を奪いに来たようです。だた相当な下っ端らしく、それ以上の事は知りませんでした」

エレナ「私が調べた部分だね」

エレル「そして次に、そこでのびてる青年貴族…彼はまぁとりあえず、婚約者が重い病に臥せっているという事と…そうですね。これは直接見た方が早いでしょう」


そう言って俺達に手招きをするエレル。その意図を察した俺達は、エレルにぴったりとくっつき…


勇者「4人同時でも大丈夫なのか…?」

エレル「範囲内に居さえすれば質量は関係ありません。では行きますよ」


空間転移で、4人同時に別の場所へと飛んだ。



―青年貴族の自室―


カーラ「これはまた……」

勇者「何だこの部屋は………」


エレル「見ての通り…判り易く病的なまでに人魚の資料ばかりです」

カーラ「人魚の生態……それだけではなく、人魚解剖学…人魚の肉の調理法方…」

エレナ「信じられない程貴重な資料ばかりだね…」


勇者「言うまでも無いかも知れないが…これはつまり…」

魔族「………はい、人魚の肉を食らう上での下準備…と考えるべきかと」

勇者「しかし…先の話を聞く限りでは、彼自身が食らうのでは無く」


カーラ「婚約者……愛する者のため。自らの財産を擲ち、それでも婚約者を助けようとしている…と言う事でしょうね」

勇者「彼の婚約者の命か、人魚の命か…天秤にかける事など出来ないな」

カーラ「私が同じ立場だとしたら………そう考えると、私もあの青年貴族を責める事は出来ません」


エレル「と言う訳で……このまま話して居ても仕方ないので、そろそろ戻りましょうか?」

エレナ「うん…そうだね。あんまり長居してると、それだけリスクが増えるし」

カーラ「すみません、感傷に浸りすぎました」


勇者「………頼む」



―宿屋の一室―


エレル「それで、この青年貴族さんは柱に縛り付けておくとして………この後はどうします?」

勇者「カーラに何か考えがあった筈だが…」

カーラ「はい。少々いざこざが起きて遅れてしまいましたが…少し、そこの人魚に話を聞いてみようかと思います」


勇者「そう、それだ…会場で言っていたな。しかし、あの時あの場所では話せないとも言っていたが…」

カーラ「それは、実際に聞いてれば判るかと…あの場所でこれをやっっていたら…」


そう言って一呼吸置くカーラ。そして


カーラ「――――――――」


周囲に響き渡るそれは、耳を裂くような超音波。成る程…これをあの場でやったら、騒ぎどころの話しじゃない


人魚「―――!?――――-!!」


そして、人魚の方からも返される超音波。水槽の中に居るおかげか、人魚の方の声はカーラの発したそれよりは大分マシなのだが…聞き続けていると、頭が揺れるような感


覚に襲われてしまう。


カーラ「…っと言った感じですので、ある程度の事情が聞けたら話します。あと…我々は味方で、貴方に気外を加えるつもりは無いとも伝えておきました」

勇者「さすがだな……」

カーラ「いえ、人間には珍しいかも知れませんが…魔族ではそれ程特異な事では無いので」


あぁそうか…魔族がモンスターと連携を取っているのには、こういう裏があったのか。


カーラ「では…まずこの人魚を捕縛した人間達の特徴ですが―――」


エレル「―――あぁ、それは紅旅団の人達ですね」

勇者「知っているのかエレル!」

エレル「紅旅団…それは世界を股にかけ、主に国家や権力者の命を受けて。護衛から殺人まで、様々な荒事を引き受ける集団である」


エレナ「エレル…何か口調変わってるような…」

エレル「ちなみに彼等はこっち側の業界では有名ですが、あまり表舞台には出て来ないので…前回の勇者さまは知る機会が無かったんでしょうね」

エレナ「あ、戻った」


勇者「つまり…今回のブラックマーケットには、それだけの集団を操れるだけの力を持っている者が関わっている。という事か」


エレナ「規模が規模なだけに予想はしてたけど……問題は、その権力者が誰なのか…って事だよね」

エレル「じゃぁ聞いて見ましょうか。紅旅団の人達なら丁度今王宮に来ていますから」

エレナ「えっ」


カーラ「………」

勇者「なっ………」


エレル「と言うか、勇者さまが直接聞いた方が早そうですね。行きましょうか」

カーラ「あ、少々お待ち下さい。その前に……」


カーラ「―――――――」

人魚「―――――――」


今度は先刻よりも抑えた声で会話しているようだ。


カーラ「これで大丈夫です、人魚には事情を説明しました。あと…声帯に制限かけられていたようなのでそれも解除しておきました」

エレナ「これだけ手際が良いと、今回私が居る意味あんまり無いね…」


拗ねるな拗ねるな。


エレル「では改めて……いざ王宮へ!」



―謁見の間―


勇者「…お前達が紅旅団か」


団長「そう言うアンタが勇者様か」

勇者「答えて貰おう…何故人魚を攫った、誰の差し金だ?」

団長「何故それを……おっと、依頼主の名前は言えないな。ただ、何故かってのは至極簡単だ。金のため、団員全員で食ってくために決まってるだろ?」


そう話している間にも、団員の一人が国王の視線を伺っている。何だ?どういう意図だ?


エレル「にしても…今回は随分と危ない橋を渡ったみたいじゃないですか」

団長「何故かは知らないが、ここ最近はめっきり魔族が現れなくなったからな。こんなのでもなければ仕事が無かったのさ」


カーラ「………」

団長「な…何だそこの仮面の姉ちゃんは!?物凄い殺気なんだが…」


まぁ当然だろう


エレル「では王様…こういうのはどうでしょう?公国のブラックマーケットを根絶するため、黒幕探しを紅旅団に依頼する…と言うのは」

国王「ふむ、それは名案だ。どうだ団長よ、この依頼受けてはくれぬか?勿論、この依頼のために必要な行為だったという事にして、人魚の件も不問に処すつもりだ」

団長「そりゃまた太っ腹な提案だが………いや…いや、やっぱり依頼主を裏切る訳には………」


勇者「よし、追加報酬3000万Gだ」

団長「…………………はぁっ!?」

勇者「因みに、人魚の落札価格も3000万Gだった」


団長「………嘘だろ?」

エレナ「本当だよ」

団長「………………」


エレル「相当安値で買い叩かれたみたいですね………」

団長「………いや、それでも駄目だ。雇い主を売る訳にはいかない。投獄するなり処刑するなりしたければ好きにしろ…ただし俺だけだ、団員達は関係無い!」

エレル「無駄に男らしいですねー……」


エレナ「あっ!」


勇者「どうした?」

エレナ「人魚ちゃんがまた襲われてる………うぅん、命が危ない?!!早く戻らないと!」


いつの間にそんな魔法を…どんどんエレナの力の底が知れなくなってきたぞ

と言うか、人魚の命が危ないとはどう言う事だ?


エレル「それは不味いですね…行きましょうか。3人とも此方に!!」



―宿屋の一室―


勇者「これは一体……」


宿屋に戻った俺達…そして、そこで待ち受けていた物は………


粉々に砕けた硝子と陶器と盗賊の鎧…加えて、内側から爆ぜたような無残な死体の山…恐らくは盗賊達だった物だろう。人魚は水槽の外に身を乗り出して息を引き取り、唯一原型を留めている青年貴族も………盗賊の刃により絶命している。


カーラ「恐らくは…彼女が、水槽の外に出て声を使ったのだと思われます」

勇者「声…?どういう事だ?」

カーラ「人魚の声は、物体の固有振動数に合わせて波長を変える事が可能で、ありとあらゆる物を破壊する事が出来るんです」


勇者「こゆ………?」

カーラ「ただし…その力を使うためには水の外に出て直接声を当てなければいけない。そして長時間水の外に居れば、当然呼吸は出来なくなり…」

勇者「………」


カーラ「私の…私のせいです。下手に彼女に戦う術を与えてしまったばかりに……」

エレナ「それを言ったら私もだよ…追跡魔法を解除した時点で、次の襲撃に備えておくべきだったもの」


カーラの説明は何となくだが理解した…だが、一つだけ腑に落ちない点が一つある。そして…それを確かめるための手段が脳裏を過ぎる。


勇者「すまない。エレル、エレナ…少しだけ前の時点に戻ってくる」

エレル「えっ」

エレナ「あぁ…そう言えばその手があったね。勇者くん……頼んだよ」


勇者「………任せておけ」


そう宣言して…俺はロードを行った。



―帰りの山道―


戦士と僧侶との決戦の後…帰りの馬車の上。セーブをした地点に戻った俺。

そう……ここは確か、行き先を決める選択の途中の筈。宣言するべき俺の答えは決まっていた。


勇者「公国に行こう。そこでブラックマーケットを潰すと同時に、やるべき事がある」

ヤス「えっ?ブラックマーケット?何ッスかそれ?」

ナビ「…情報の齟齬から、ロードを行った物と推測。全員に道中での説明を推奨する」



―オークション会場―


勇者「5000万G」

司会「5000万G!!なんといきなり5000万Gの入札です!!どなたか他にいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんか?」

勇者「さてエレナ…一つ聞きたいんだが、追跡魔法を使う事は出来るか?」


エレナ「え?魔力でマーキングして、触れた相手と箇所が判る程度の魔法なら…出来るけど…」

勇者「そうか、だったら………―――」


司会「5000万G!5000万Gにてあちらの方の落札で御座います!!」



―帰路―


勇者「さて…居るんだろう?青年貴族」

青年貴族「良く判りましたね…では、早速ですが用件を…」

勇者「人魚の事だろう?俺からもその事で君に話しがある。道中、盗賊共でも撃退しながら話さないか?」


青年貴族「えっ…」



勇者「それで…単刀直入に聞くが、君は人魚を手に入れて一体何をするつもりなんだ?」


盗賊を切り伏せながら問う俺。安心しろ、みね打ちとは行かないが致命傷でもない。


青年貴族「それは………」


そしてやはり言いよどむ青年貴族。後ろ暗い事があるのは見て取れるが、どうも様子がおかしい。ここはやはり…強引ながらも核心を攻めて行くか


勇者「婚約者の命を助けるため…か?」

青年貴族「えっ……?」


ん…?何故だろうか…図星を突かれた驚きと言うよりも、突拍子も無い事を言われた時の驚きのようだ


勇者「違うのか?」

青年貴族「あの娘のために彼女を犠牲にするなんて、とんでもない!!あの娘の病気は、金さえ惜しまなければ治せる病気なんだ!」

勇者「………すまない、その辺りは詳しく知らないんだ。説明をして貰って良いか?」


青年貴族「そもそもあの娘との婚約は親同士が勝手に決めた事で、僕もあの娘も気乗りして居なかったんだ」

勇者「………本人同士が望まないような婚約を、何故?」

青年貴族「あの娘の両親が、僕の金を欲しがった…ただそれだけの理由ですよ。そしていざ婚約を行った直後、あの娘は重い病気にかかり…」


勇者「それから?」

青年貴族「治療費と称し、多額の金を渡す事で婚約の解消を取り付けました。ただ、その金を本当にあの娘の治療に使っているかは別ですが」

勇者「なら…この人魚を欲する理由は何なんだ?彼女では無く、自分の不老不死のためか?」


青年貴族「そんな筈が無いでしょうぅ!?!?何を言っているんですか!!!」

勇者「だったら何故…」

青年貴族「そもそも!そもそもですよ!?人魚の肉を食べたら不老不死になるだなんて、大嘘も良い所なんですよ!」


ん?何だか話しの雲行きが怪しくなってきたぞ?



青年貴族「元々海洋生物に近い構成なのだから栄養価は高くて当然ですよ。でもだからと言って、それで不死になれるなんて考える方がおかしいんです!」

勇者「お、おう……」

青年貴族「元々は飢饉により漁村の村人全員が早々に死に行く中、一人だけ人魚の肉を食べて生き延びた者が居た…それだけですよ!!」


勇者「………」


青年貴族「皆がバタバタ死んで行く中で一人だけ生き延びて居られれば、そりゃぁ不老不死だなんて噂も立つでしょう!そしてその食料が人魚だと知られれば、人魚なだけに尾ひれが付いて寓話にもなるって物ですよ!!だっておかしいでしょう!?本当に人魚の肉を食べる事で不老不死になるなら、何で実際に不老不死になった人が居ないん


ですか!!」


あぁ、そうか…彼の部屋にあった人魚に関する資料の数々は、それを活用するための物では無かった…それを否定するための物だったんだな


勇者「では改めて聞くが…君は人魚を手に入れて一体何をするつもりなんだ?」


青年貴族「一緒に暮らすんですよ!!僕は彼女に恋をしてしまったんだから!!」


話しの勢いか、今度はよどむ事無く言い切る青年貴族。

またこのパターンか………こう言っては失礼だが、人魚の見た目が見た目なだけに油断していた


勇者「…………………」


まぁうん…趣味は人それぞれだ、口を出す事でも無いだろう。しかし………色々と予想を大きく外れた事もあったが、結果的にこれで合点がいった。


勇者「よし…だがその前に、もう一つ確認する事と条件がある」

青年貴族「何でも来て下さい…もう何も怖い物なんてありません」


語る事で相当興奮しているようだ


勇者「カーラ、ちょっとその人魚に聞いて欲しいんだ。この青年貴族の事をどう思うのか…あ、出来れば小声でな?」

カーラ「その青年貴族の事を………ですか?では、少々お待ち下さい」


カーラ「――――――」

人魚「―――――――」


小声でも中々耳に響く音で会話する二人…いや、一人と一匹か?ええい、もう二人で良いだろう。


カーラ「えっ…そんな……こんな偶然って……」

青年貴族「―――――――!!」


お前もか!頼むから音量を抑えてくれ


カーラ「…………と言う訳で、この人魚の方も、この青年貴族に一目惚れだったようです」

エレナ「正に種族を超えた愛の奇跡だねぇ…異種族恋愛の先輩としてはどうなのかな?」


物は言い様…という野暮な事は言わないでおこう。実際、こうして異なる種族が判り合い結ばれるというのは尊い物なのだから。…うん



それにしても…やはりそうか。


商品として狙われている以上、無抵抗でじっとしていれば攫われるだけで助かった筈の人魚。それが何故か、ロード前は抵抗の痕跡を見せ盗賊達と相討ちになっていた。加えて、盗賊達と同じ構成……同じ人間であり、同じ固有振動数を持つであろう青年貴族が原型を保っていた理由…そう。人魚は青年貴族を守るために声を使い…青年貴族を避けるように声を出し…結果、盗賊達を迎撃するため、窒息するまで無理をした。


青年貴族の方は、人魚を助けるため縄を自力で解き……盗賊と戦い、その刃により命を落とした。皮肉にもお互いが助けようとした相手を助ける事が出来ずに、お互いが命を落としてしまった……


…こういう事なのだろう。



勇者「では…条件の方を出させて貰おう」

青年貴族「……はい」

勇者「二人とも、俺の領地で暮らして貰う。このままではまた何時襲われるから判らないからな」


青年貴族「………え?」

勇者「心配しなくても大丈夫だ…君達と同じような境遇で、異なった種族同士で暮らしている者が他にも居る」

カーラ「そう…私のような魔族と、人間の彼が一緒に暮らす……そんな事が出来る土地ですよ」


そう言って仮面を外すカーラ。


青年貴族「まっ…魔族!? あ、いえ………失礼。予想外の事なので驚いてしまいました」

カーラ「大丈夫、驚かれるのには馴れて居ます。それよりも…そうやって納得して頂ける事の方があまり馴れませんね」


よし、カーラの冗談で場が和んだ


エレナ「ちなみに…非公式だけど、国王様と帝王さんも味方だよ」

勇者「という訳だ………まぁ、今の暮らしに比べれば色々と不便にはなるだろうが…」


青年貴族「え…それが条件?それだけですか?」


ん?何か予想していた反応と違うぞ?



勇者「良いのか?」

青年貴族「えぇ、だって…元々全財産を注ぎ込んででも、彼女をあそこから助け出す積りでしたし。そうなっていれば、後は不便も何も…」


あぁ、そう言えばそうだった


青年貴族「むしろ、お金の面での条件かと思っていました。だって、彼女のために貴方は…」

勇者「あぁ、成る程……そう言えばそうだったな。まぁ、その事は別に良い。その金は移住に使って、余ったのなら彼女に何かしてやると良い」


エレナ「えっ!?」


何か不服なのだろうか…驚愕と怒りの視線を此方に向けて来るエレナ。だがまぁ…男としては、一度言った事を取り消す事は出来ない。ロードしてやり直す事も出来るが、


一応のハッピーエンドなんだから気が引けるしな……


青年貴族「ありがとうございます……本当に何とお礼を言えば言いのか。あ、所でお聞きしたいのですが……貴方の領地とは何処ですか?そもそも貴方は…」


そう言えばそうだな…まだ自己紹介をしていなかった


勇者「俺は………勇者だ」



―謁見の間―


勇者「―――と言う訳で。ブラックマーケットの黒幕について話して欲しい」

団長「おいおい、冗談はよしてくれ。俺達が雇い主の事を話す訳が……」


勇者「5000万G」


団長「……はっ?」

勇者「5000万G…お前達の黒幕が人魚を売って得た金だ」

団長「………はぁぁっ!?んな……っ…!!」


勇者「そして5000万G」


団長「な……今度は、何の話しだ」

勇者「黒幕の情報でお前達に支払う報酬の額だ」

団長「……………はっ………?」


団長は膝をガクガク震わせながら迷っている。やり過ぎたか?しかしこうかはばつぐんだったようで、脂汗を流しながら団員達と話し合っている。


団長「……………よし」


大臣「フ~フフン、フンフンフンフ~ン」


と、そこに現れたのは鼻歌を奏でる大臣


エレル「おや大臣さん、今日は珍しく上機嫌じゃないですか」

大臣「おや、これはエレル殿。いえいえ、ちょっとした投資で大勝ちしましてなぁ…がっはっはっはっは」


ちなみに…国王様の視線を気にしていた団員が、今度は大臣を凝視している。そうか………あれは国王の何かを伺って居たのではなく…国王の視線が向かう先を気にしてい


たのか。


エレナ「うわっ………!」


そして今度はエレナの驚愕


勇者「どうした?」

エレナ「あのさ…勇者くんに頼まれて、金貨に追跡魔法をかけたよね?」

勇者「あぁ…」


その話をここでする時点で……つまり。そう、俺の中の予感は確信へと変わった


エレナ「あれに触ると、触ってた時間に応じてその箇所に痕跡が残るようにしておいたんだけど………」

勇者「ふむふむ?」

エレナ「大臣さん……全身めっさ光ってる」


勇者「うわぁ…………つまりそれはあれか?そういう事か?」


ある意味予想以上だった。………あぁ、あまりその光景は想像したくない。だがまぁ、これで一応の解決にはなるのか

事情を知っているであろう団員が、国王の視線を気にしていた理由…ブラックマーケットで支払った金貨の痕跡が、大臣の全身に残っている理由…


それは………


団長「…俺達に仕事を依頼したのは………」

勇者「大臣…お前が公国のブラックマーケットの黒幕だな!!」


大臣「なっ………何故それを―――」



―公国商店街―


それからの事………


まずブラックマーケットの件。

芋蔓式に明らかになった事らしいのだが、どうやら王国の大臣だけではなく公国の大臣もぐるになってブラックマーケットを開催していたらしい。開催場所や警備の穴………上層部でしか知り得ない事を事前に知って居たからこそ予め開催場所を決められた。当然と言えば当然の話しだ。尚、ブラックマーケットの一斉検挙により回収された商品と金に関しては…各国と公爵が未だに交渉中。逞しいと言うか何と言うか…


あと余談ではあるが、ブラックマーケットの件で両国で大規模な人事異動が行われたという話しも聞く。



次に紅旅団の件。


返答が遅れたとは居え、協力の意思はあったと言う事で、王国公国両国からの情状酌量あり。加えて、流石にあの状態からそれ以上突き落とすのも気が引けたので…

あの時提示した5000万Gで、紅旅団全員の生涯雇用…勇者領専属の旅団化という形式で決着が付いた。


続いて………また脇道に逸れ過ぎて忘れそうになって居たが、公国に対してのマオウシステム破棄の提言の件。


これに関しては、また思いも寄らぬ方向から解決の糸口が見付かった。青年貴族の元婚約者…事情を聞いておいて放置する訳にも行かず、僧侶に病気を治して貰ったのだが


…彼女は実は記憶喪失で、それまで治療してしまったのだ。

そしてそこからが怒涛の展開…彼女は公爵の妾の娘だった事が判明し、母親に捨てられて居たところを今の親に拾われた事が発覚。だが今の両親は今の両親で、これまで彼


女を利用してあくどい金稼ぎをしていたようで………これを知った公爵は、当然今の両親から親権を剥奪。改めて彼女を自らの娘として迎え入れるという結末に到った。


と言う経緯があり………話は驚く程すんなりと進んだのだった。あぁ、ちなみに


公爵『元々我が領土は、科学と商業を主体に民の欲望で栄えて来た。マオウシステムの維持など、他の国に合わせて来たに過ぎんのだよ』


との事らしい。



あと兵士に関しては…


今回の件とブラックマーケット検挙に貢献した事で晴れて無罪放免。

カーラとの仲に関しても、これまた非公式ながら公国の助力を得られる結果となった。



そして最後に…………


団長「旦那ぁ!良い情報が入りましたぜ!それと、姐さんには皇国の土産でさぁ!」

エレナ「で…勇者くん。考えて見たら勇者くんが勇者になってから、私は何もプレゼントされた記憶が無いんだよね…」

勇者「……」


エレナ「前回から持ち越したお金も沢山あった筈なのにおかしいよね?これって記憶の欠落かな?」

勇者「………」


エレナ「それにしても、まさか前回稼いだお金を殆ど使い切るなんて…うん、まぁ勇者くんのお金なんだからどう使おうと自由なんだけど…」

勇者「面目ない」

エレナ「…………」


勇者「今日は…その、その何だ……埋め合わせと言う事で………」

団長「お、姐さん。こっちの自由市場に掘り出し物がわんさかありますぜ!!」


エレナ「うん、容赦しないからね?」


物凄く良い笑顔で言い切られた。


頼む…持ち堪えてくれ、俺の財布



●第四章 ―可能性の迷路 其の煮― に続く

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