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第三章

帝王の助力により、カインと再会した勇者。


しかし…ついでとばかりにそこに現れたのは黒い甲冑の二人組。

カインとナビの助力により事無きを得るが、それは本当の戦いの前奏でしか無かった。


カインを国王の下に連れて行き、孫だと明かしたその帰り道…

帝王のラッキースケベにより、勇者はカインが女性だと言う事を知る。


だが、その代償として帝王の命は今風前の灯となってしまったのだった…


●第三章 ―それは二人の問題―


―帰りの馬車―


勇者「エイジ…惜しい奴を亡くした」

エレナ「うん…スケベだったけど、根は良い人だったのにね…」

帝王「死んでねぇよ!勝手に殺すな!」


勇者「しかし…時間の問題だろう?」

帝王「死の宣告すんな!勇者が言うと洒落にならねぇんだよ!」

ヤス「と言うか今更ッスけど…帝王様、カイン様のあれを食らってよく生きてられましたね…」


ナビ「それは恐らく、帝王の勇者特性による物」


帝王「うぉっ!?ビビッた…お前居たのか…」

エレナ「二人組の襲撃以来、ずっと喋って無かったもんね…」


すまない、正直俺も忘れていた。


勇者「ところで…その勇者特性とやらは一体何なんだ?」

帝王「勇者がそれを聞くのかよ…いや、俺も聞きてぇ所だったんだがな」

ナビ「読んで字の如く…勇者となった時、顕著に現れる特性の事。そう、判り易い例を挙げるのならば…」


と言ってナビはカインを指差す


ナビ「カインの勇者特性は、大地と火炎の加護…最も得意とするのは溶岩の操作」

カイン「みたいだね」

帝王「成る程なぁ……んで、問題の俺の勇者特性ってのは何なんだ?」


ナビ「しぶとさ」


帝王「おい!!」


帝王「せめて頑強さとか、鉄壁だとか他に言葉があんだろ!?」

ナビ「それは適切ではない。防御力に変化が無い以上、しぶとさとしか言いようが無い」


一同「………っ…」


帝王「おい手前ぇら!笑い堪えてんじゃねぇよ!」

ヤス「じゃぁ…その勇者特性って言うのはあっしにもあるんッスか?」

ナビ「当然ある。ヤスの勇者特性は、スカウト…脚が早くなり、器用さが増加。加えて気配を消し易くなっている筈」

帝王「……何だその実用性ありまくりの特性。俺のと大違いじゃねぇか」


何の慰めにもならないかも知れないが、俺はエイジの肩を叩く


エレナ「じゃぁ私の特性は、魔法マスターって所かな?何か思い通りの魔法を作って使えるみたいだし」

ナビ「その通り。ちなみに…勇者はパーティーメンバーの特性を各ステータスメニューで見られる」


あ、本当だ。


…………と言うか俺の勇者特性……何だこれは



―帰路の森―


エレナ「あ…ちょっと馬車止めて!!」


そして唐突に声を上げるエレナ。ヤスは慌てて馬車を止め、エレナの方を見る


ヤス「一体どうしたんッスか?」

エレナ「何かこの辺りから魔力を感じる…それも、大分弱ってる感じ」


いつの間にそんな魔法を覚え…いや、作ったんだろうか。心強い反面、ちょっと底知れない物があるぞ


勇者「よし…行ってみるか。ヤスは馬車を頼む」

ヤス「了解しましたッス」


そして森の奥へと進む俺達。エレナを先頭に獣道を歩き…湖の近くまで辿り着く


エレナ「あ、あそこだよ」


指差された場所に居たのは、どこかで見た顔。そうだ…魔王城で星天の柱の攻撃を受け、生き残った連合軍の兵士だ。そしてその腕の中で力無く、うな垂れているのは………魔族の女だった


帝王「普通に見りゃぁ、魔族に襲われるも返り討ちにした…ってー感じの組み合わせなんだが…」

エレナ「どうもそう言う状況って訳じゃ無さそうだね」


俺達に気付き、刃を向けて来る兵士。

そこに瀕死の魔族が居て、同じ人間である俺達に刃を向ける…可能性としては、魔族に操られての行動…という線が濃厚だが


勇者「待て、俺達は敵じゃない。まずは話を聞かせてくれ」

兵士「黙れ!そうやってまた彼女を罠に嵌めるつもりだろう!!」


どうやら低い可能性の方だったようだ。…となると、この流れは…


エレナ「黙るつもりは無いよ。信用できないならただ聞いてくれるだけで良いんだけど…もしかしたらそこの女性。カライモンさんの姪っ子じゃない?」

魔族の女「……!?…っ………な、何故…それを………?」


先にエレナに言われた。まぁ良い、そうなれば話は早い


勇者「話せば長くなるんだが…俺達は勇者パーティーだ、そしてカライモンはそのメンバーであり友人でもある」

兵士「………はぁっ!?」

魔族の女「………え?……ぇ…?」


エレナ「勇者くん………その発言はちょっといきなり過ぎるんじゃぁ…」

ナビ「明らかに相手を混乱させてしまっている」

勇者「……………」


とても気まずい。こうなったらどうするか…よし、とりあえず敵意が無い事を示すためにも、彼女の傷を治してしておこう。

俺は兵士の隙を見て、魔族の女に回復の秘術を使った


魔族の女「え……何?嘘…あれだけの傷が一瞬で…?」

兵士「な…何をした!?」


駄目か…また混乱を煽ってしまったようだ


エレナ「勇者くん…本当こういう突発的な事態に弱いよね。前回の私の死ってあんまり役に立たなかったのかな…」


面目無い


帝王「あー…ってかよぉ、勇者の事はまだ知らないとしてだ。俺の顔くれーは判んだろ?」

兵士「え?……あ、貴方は。帝国の……帝王!?な、何でこんな所に」

帝王「それを納得してくれるってんなら話は早ぇな。こいつは勇者で、さっき言った事も全部本当だ…ってかこんな状況じゃ落ち着いて話しも出来ねぇか」


エレナ「それじゃ、私達の馬車に来て貰おうよ」

勇者「そうだな」


兵士「………」

帝王「そう警戒すんな。ここは帝王の名と名誉にかけてお前等に危害を加えねぇと誓うぜ」

兵士「判りました…その言葉、信じます」


意外とこういう時のエイジはまともに帝王をしているようだ…ここの所急下降していた株も上昇したぞ



―帰りの馬車―


兵士「知らぬ事とは言え、本当に失礼しました!!」


勇者「いや、良いんだ」

エレナ「そうそう、勇者くんが話しをややこしくしちゃったのが原因だからね。で…どうしてあんな状況になってたのか聞いても良いかな?」

兵士「はい…それは…」


そうして語り始める兵士


兵士「事の始まりは…まず、公国内に魔族が侵入したとの通達があった事。それを受けた私は、いつものルートで巡回を行っていたのですが」

魔族の女「私は、そこで彼に見付けられました」

兵士「本来ならば、当然その事を報告をしなければならず…場合によっては戦闘も已む無し…と覚悟を決めていたのですが。その………彼女に一目惚れしてしまいました」


勇者パーティー一同「……………」


魔族の女「私の方も…本当は、公国にしか生えない珍しい薬草を摘みに来ただけだったのですが。そこを彼に発見され……一目惚れしてしまいました」


エレナ「それで…あんな怪我をしていた理由は?」

兵士「………私と彼女が出会ったすぐ後…他の兵士達に見付かってしまったんです」

魔族の女「そしてその兵士から逃げる道中…この方が村人を説得して、匿って貰っていたのですが……」


兵士「その村人に売られました」


勇者「………」

兵士「かつての仲間達も、俺と彼女に襲い掛かって来て…その猛攻により彼女は深い傷を負い…」

帝王「命辛々、国境を超えて王国の森まで逃げてきた…って事か」

兵士「はい、その通りです」


エレナ「そうか…彼の今の立場は脱走兵なんだね。こうなって来ると、中々難しいと言うか…」

帝王「帝国としても、さすがに今の状態で魔族と脱走兵を匿う訳には行かねぇからなぁ…」

兵士「いえ…その辺りはお気使いを頂いただけでも十分です。彼女と逃げると決めたその時から、元より安住に未練はありません」


勇者「その件なんだが…」


兵士「何でしょうか?」

勇者「行く宛が無いなら、俺の領地に来ないか?」


帝王&カイン&ヤス「はぁっ!?」



エレナ「あ、うん…それ結構良い考えかも」


帝王「な…いや、そりゃぁいくら何でも…」

エレナ「さすがに魔族って事と逃亡者って事は、外部には黙っていて貰う事になるけど…」

勇者「逆を言えば、外部にさえ漏らさなければ…内部から外部に漏れる事は無い。その点は保障する」


エレナ「もし漏れたとしても、もみ消せるだけの手段はあるし…地理的にもかなり良いと思うんだよ」

帝王「あぁ、そうか。あそこは帝国と王国の国境…下手に手を出せば両国を敵に回す事になるから…」

エレナ「そう、公国は迂闊に近寄る事すら出来ない」


ヤス「それならあれッスよね。ついでに……公国からの侵入者、魔族と一緒に居た怪しい侵入者を勇者様が始末した…って事にしておけば」

帝王「それだっ!!そうすりゃ公国の奴等、口も出しては来れねぇだろ!」

兵士「しかし…遺体の返還を求められたりでもしたら…」

カイン「灰でも送り付けてやれば良いんじゃない?消し炭にしちゃったって事にしてさ…」


怪しい笑顔を浮べながら言うな。


エレナ「うぅん、むしろ向こうがそう言って来たならチャンスだよ。そんな物を何故欲しがるのか、公国は魔族と繋がっていたんじゃないか…そう言ったあらぬ噂を立てる口実になるからね」


何とまぁ悪だくみに長けたメンバーだろう…この皆が敵でなくて本当に良かったと思う。


魔族の女「え……では…」

兵士「と言う事は………勇者様のお言葉に甘えても…」


勇者「良いに決まっている」

エレナ「むしろ、甘えて欲しいってこっちからお願いする所だよ」

帝王「何だそりゃ」


こうして兵士と魔族の女…カライモンの姪の移住が決まった。



エレナ「うん…非公式だけど、国王様の承認も貰えたよ。もし他所に知られるような事があったら、魔王討伐のための勇者の作戦って事にするって」

勇者「手回しが早いな……と言うか、それがエレルとの文通魔法か」

エレナ「あぁ、勇者くんはまだ実物を見た事が無かったんだっけ…」


カイン「あ、そうだ。話しの腰を折って悪いんだけどさ」

エレナ「ん?何かな?」

カイン「そもそも何で人間が魔族を恨んでるかっての思い出してたんだけど…魔族ってさ、人間に対する悪意を植え付けられてるんじゃなかったっけ?」


帝王「………そーいやぁそうだよな」


カイン「前回はその悪意をエレルが抜き取って結晶化させたから、途中から争いが無くなっただけで…」

勇者「今の彼女には、その悪意がある…そう言いたいんだな?」

ナビ「当然ある…しかし、ここは本人の口から聞くのが一番」


魔族の女「はい…ナビさんの言う通り、私の中には人間に対する悪意が今も渦巻いています。ですが………それ以上に。彼への愛が溢れて仕方が無いんです!」

帝王&ヤスカル&カイン「………」

エレル「うんうん、愛の力は偉大だよねえ。勇者じゃ無くったって、これだけの奇跡を起こせるんだから」


帝王「やべぇ…俺ついて行けねぇ」

ヤス「あっしもッスよ…」

カイン「……………」


ナビ「そう言えば、質問を一つ…お互いに一目惚れをした時、何かきっかけになる様な物を感じた覚えは?」

兵士「え…何故その事を?」

魔族の女「そうですね…何と言いますか……こう」


兵士「以前…どこかで彼女に出会った事があるような………そう、立場は逆なんですが、前にもこういう事があったような…」

魔族の女「はい…私もどこかで彼に会ったような気がして………」


勇者「……………」

ナビ「確認完了。返答に感謝する」

勇者「愛の奇跡には間違いは無いが……愛の奇跡だけという訳でもない…そう言う事なんだな?」


他の皆には聞こえないよう、小声でナビに問う。


ナビ「………」


ナビは否定も肯定も行わず、ただ沈黙を保っていた。そして………それを問い質す暇も無く、次の難関が俺達を待ち構えていた



―勇者の領地入り口―


勇者「………」

エレナ「………」

カイン「………」

帝王「………」


ヤス「………本当、何なんッスかね…あいつ等」


我慢出来ずに口火を切ったのはヤスだった。


馬車を走らせ、今まさに領地へと踏み込もうとした俺達の前に現れたのは…そう、黒い甲冑の二人組。黙したまま俺達の前に立ち憚り、行く手を阻む。そして俺達は馬車を止め…


エレナ「貴方達は何者なのかな?どうして勇者くん達を付け狙うの?」


黒い甲冑の女「まるで自分が標的では無いような口ぶり…まぁ、その記憶が無いのだから仕方ないけど」

黒い甲冑の男「その点を言えば…記憶があっても尚気付かないそこの勇者はもっと問題だな」


勇者「…随分な物言いだな。気付いて欲しいのならば、二人共その仮面を取ったらどうだ」

黒い甲冑の男「自分の無力を棚に上げ、他人からの答えを求めるな。せめて…お互いの剣を交えて答えを見出せ」

勇者「良いだろう…その勝負、受けよう」


エレナ「っていう流れになるって事は…」

黒い甲冑の女「そう…貴方の相手は私」


カイン「………何か面倒臭い事やってるよね…はぁ、もうボクが出て片付けちゃっても良いかな?」

帝王「止めとけ。どうやらあいつ等の問題みてぇだ、口も手も出すだけ野暮って物だぜ」

カイン「そういう物なのかなぁ…」


黒い甲冑の男「では……行くぞ!」

勇者「……来い!」


黒い甲冑の男…その男が手にした勇者の剣から繰り出された一撃は…剣圧だけで周囲の木々を薙ぎ倒し、空気を震撼させる。

エレナと黒い甲冑の女の戦闘に至っては……魔法の応酬を行っているとしか表現出来ない。あえて付け加えるならば…エレナの放った魔法は予め読まれていたかのように、飲み込まれて瞬時にかき消され…逆に黒い甲冑の女の魔法は、エレナが即座に解析して対応しているように見える。


黒い甲冑の男「戦闘中に余所見とは…余裕だな」

勇者「―――!!」


反論の余地も無い。余所見をしている間にこの男の一撃が振るわれ、俺はそれを辛うじて防御するが…受けた剣にはヒビが入り……いや、もたない。ヒビが入った次の瞬間には、折れて砕けてしまった。こうなってしまっては戦法を変えざるを得ない…俺は男の懐まで一気に踏み込み、魔法『閃光の連弾』を使った。


黒い甲冑の男「なっ……に!?」


男の腹部で幾重にも放たれ弾ける光の弾。さすがにこの攻撃は予想していなかったようで、十分なダメージが見て取れる。


黒い甲冑の男「……くっ、中々やるな」

勇者「お前の方こそ…その剣術………」


そしてここで脳裏に走る違和感。加えて、黒い甲冑の男の剣捌きに覚える既視感。相手の主張を肯定するその感覚に、思わず手が止まり…


黒い甲冑の男「隙有り…!!」


男の攻撃が直撃。俺は鎧の胸部を打ち砕かれ。その身で地面を抉りながら吹き飛ばされる。


エレナ「勇者くん!!」


そして更には、俺の失態が生んだエレナの危機。意識を此方に向けた隙に、黒い甲冑の女から放たれる魔法。空に描かれた円の中心から光りが降り注ぎ、エレナの障壁を次々に削り取って行き……ついにはエレナが宙へと弾き飛ばされてしまう。

俺は駆け出し…辛うじて地面に激突する前にエレナの身体を受け止め、改めて二人組を見据える。


黒い甲冑の男「さて…これ以上のヒントを与えるつもりは無い」

黒い甲冑の女「そして、貴方達の死に場所もここでは無い」


勇者「くっ………どういう事だ」


黒い甲冑の女「最高の死に場所を用意したから…」

エレナ「………それは一体どこなのかな?」

黒い甲冑の男「勇者の剣が眠っていた地…天空山。そこで最後の決着を付けよう」


勇者「………良いだろう」


黒い甲冑の男「では決まりだな…日時は今日より七日後。日暮れと共に始めよう」

勇者「………心得た」


二人組の正体は未だに判らない…だが、ほんの僅かに見えた糸口。

その糸口をどう掴むのか…それが恐らくはこの戦いの鍵となるのだろう。



カイン「あのさ…ナビ。ちょっと確認したいんだけど」

ナビ「質問を許可する」

カイン「あいつらの正体とかは判んないんだけどさ。あいつらってもしかして………―――」


ナビ「その推測の通り…ただし他言は無用」

カイン「あぁ…やっぱりねぇ………大丈夫、こんな事馬鹿馬鹿し過ぎて言う気にもなれないって」



―天空山―


エレナ「わぁ…ここが天空山かぁー…山の上に更にもう一つ山が浮いてるなんて凄いねえ」


帝王「お前は勇者と一緒に来た事があるんじゃねぇのか?」

エレナ「それは前回の私…でもないか。前回の私はここに来る前に死んじゃったみたいだから、どの道ここに来るのは初めてだよ。ね?勇者くん」


勇者「あぁ……前回はここに向かう途中…いや、ここに辿り着く正にその直前に魔王軍の攻撃を受け…」

帝王「あー………これから決戦って時に湿っぽい話は止めにしようぜ。今は生きてんだから良いじゃねぇか」

エレナ「そうそう。折角今を生きてるんだから、この命を無くさないように頑張らないと」

ヤス「とか言ってる内に…あちらさんも来たみたいッスよ」


夕日を背に現れる黒い甲冑の二人組。決戦の時は近い。

俺とエレナは互いの獲物を構え、黒い甲冑の二人組を見据える


黒い甲冑の男「さて…遂に今この時この瞬間まで俺達の正体に気付けなかったようだな」

黒い甲冑の女「………」


勇者「焦る事は無い…まだまだ時間はある。そうだろう?」

黒い甲冑の男「…そうだな。確かに…この戦いが終わるまでは刻限では無いな」


エレナ「私としては推測が幾つかあるんだけど…情報を出し惜しみする物だから、どれが正解なのか確信が持てないんだよ」

黒い甲冑の女「私としては…別にそのどれにも確信を持ってくれなくても良い。そう…ただ死んでくれれば」


…物騒な事ばかり言う女…だが、向けられる殺意は今までの非では無い。何か信念の篭った…目的を果たす前のような……いや…そもそも、黒い甲冑の男と黒い甲冑の女は、目的に食い違いがある…そんな感じがした。が………それを深く詮索している余裕はありそうにも無い。


男は勇者の剣を両手で構え、俺を射抜くように見据える……それが仮面の向う側からでも判る。対して俺は鋼の剣を片手で構え…最初から全力で行く。魔法『加速の時計』を使い、自らの行動を速めた上での…『力溜め』


そして………剣戟一閃!!


黒い甲冑の男「なっ………!!!?」


空振り…では無い。大気ごとその場を斬り裂き、間合いの外から男に斬りかかる。男はそれを勇者の剣で受け止め、足場に大きな裂け目を作り出す。そして更に俺からの追撃。今度は一気に間合いを詰め…打ち上げの一撃。

男の体は大きく弧を描いて吹き飛び、岩肌に激突……するかのように見えたが、寸での所で停止した。


黒い甲冑の男「すまない…助かった」

黒い甲冑の女「気にしないで…それよりも、気を付けて」


エレナ「一対一の二回戦じゃなくて…二対二…って事で良いのかな?」

黒い甲冑の女「そう…その方が手早く二人とも殺せるから」


と…語りながら、男に回復魔法をかける女。向うは向うで相性もコンビネーションも良い事が見て取れる


勇者「これは…長期戦になるな」

エレナ「うん…そうみたいだね」



ヤス「何て言うか……互角の戦いッスね…」

帝王「あぁ…お互いの力が拮抗してやがる。こりゃぁどっちが勝つのか本気で判らねぇぞ」

カイン「いやさぁ…二人とも、本気でそんな事言ってる?あれで互角の戦い?力が拮抗?」


ヤス「違うんッスか?」

カイン「はぁ………まぁ良いやそれで。結果的に同じくらいの力でぶつかり合ってる訳だし…」

帝王「だからそれが拮抗してるって事じゃねぇか…」


黒い甲冑の男「どうした…大分息が上がって来ているな」

黒い甲冑の女「そろそろ決着の時が近い…そういう状況ね」


勇者「息が上がっているのはお互い様だろう」

エレナ「終わりが近いって言うのも同感かな。やっと見えて来たし…」


黒い甲冑の男「ではそろそろ…」

勇者「決着をつけよう…!!」


恐らく次がお互いに最後の一手。俺は、先の戦いで一つの事に気付いていた…


この黒い甲冑の男は、俺の事をよく知っている…だが、ある一定の線を超えるとその知識は途端に枯れ果て、その場に応じた行動を取らざるを得なくなる。その線が一体どこにあるのか…現時点で判っている限りでは、俺が上位魔法を使えるようになった時よりも前…つまり

それ以降に取得した手段を用いれば、この男を倒す手段となり得る。

加えて、エレナの方も相手の出方や思考を掌握した様子。魔法への対応速度が格段に高まり…恐らくは次の手で直撃を当てられる。


そう………そしてその読みは見事に当たり、黒い甲冑の二人組を見事討ち果たす事となったのだが…



黒い甲冑の女「認めない…認めない…認めない認めない認めない!!!」


倒されて尚立ち上がる女…そして、その女を中心に渦を巻く……『悪意』…俺はこの現象を知っている…そう、これは………


ナビ「非常に不味い………このままでは…」

勇者「マオウシステムが………実体化する」


そしてその予感と予期は的中………


黒い甲冑の女は、マオウシステム…いや、デミ・マオウシテウムへと変貌した。



デミ・マオウシステム「ミトメナイミトメナイミトメナイ。コンナセカイ…アイツガイキテルセカイ、ゼンブゼンブミトメナイ…」


ナビ「…これは想定外の事態」

勇者「あれは一体何なんだ…前回のマオウシステムとは別物に見えるんだが…」

ナビ「あれは…デミ・マオウシステム。マオウシステムでありマオウシステムとは異なる物」


ナビ「激しい悪意により形成され、マオウシステムの一部を取り込んだ物…」

勇者「つまりは…マオウシステムの亜種……という事だな」

ナビ「その見解で問題は無い」


黒い甲冑の男「馬鹿が……自分自身が呑まれる程の悪意を内包するなんて…」


これほどの悪意を内包する存在…この二人組は一体何者なのだろうか?俺はこの二人について何も知らない…いや、知っているのかも知れ無いが、それに気付く事が出来ない。この二人は俺達の事を熟知していると言うのに………


ん………?いや、待て?こんな時に考えるのも何だが、逆に考えてみたらどうだろう?


この二人は俺達の事を知っている…では、何を知っている?どこまで知っている?それをどこで知った?一体誰ならばそれを知りうる事が出来たのか…そう…そして、何故このような感情を持つに到ったのか…………


答えが見えた


勇者「そうか………お前達は………」



黒い甲冑の男「………その様子だと、やっと俺達の正体に気付いたみたいだな」


男は仮面を外し、素顔を晒す。そう…俺が良く知っていた顔………気付くべきだった顔だ


勇者「やはり……と言う事は、あっちの方は…」

黒い甲冑の男「そういう事だ。あぁなってしまったのは流石に想定外だが…察してやってくれ」


勇者「お前は……一体どうするつもりだ?」

黒い甲冑の男「あぁなってしまった責任の一端は俺にもあるからな…その分のかたは付けるつもりだ」


エレナ「私は……覚えて無いけど、私が手を出すべきじゃ無いんだよね」

黒い甲冑の男「そうだな…あいつのためにも、エレナのためにも…それは控えて貰いたいな」

勇者「それは同感だ…だが、俺にも力を貸させてくれ。お前だけに背負わせるわけには……いや、これは本来俺の役目だから…だな」


黒い甲冑の男「相変わらず難儀な性格をしてるな…まぁ、それがお前らしいと言えばらしいんだが」

勇者「判っているのならば、共に行こう…」

黒い甲冑の男「あぁ……そうだな……」


デミ・マオウシステムへと向けて足を進める俺達


黒い甲冑の男「この剣はお前が使え。でなければ、あれは倒せないんだろう?」

勇者「すまない……ただ、この剣があるからと言って倒せるとは限らない」

黒い甲冑の男「なら……倒せる可能性を掴んで貰うとするか」

勇者「そうだな。それが勇者としての義務だからな」


俺は黒い甲冑の男から勇者の剣を受け取った。

いや……ここまで来れば、あえて黒い甲冑の男だなんて呼ぶ事は無いか


勇者「よし、行くか……戦士」


戦士「あぁ…!」



エレナ「候補者を挙げる事自体は、難しい事じゃ無かったんだけどね…」

ナビ「…」


エレナ「勇者の剣を手に入れるだけの条件を揃えて居て、あれだけの力を有した存在…その条件に当て嵌まるのが誰なのか………ただ、イレギュラーな状況を考慮に入れると…きりが無いんだよ。国王様みたいな裏技を使って勇者の剣を使ってるのか。帝王さんみたいに、異世界からの来訪者だったり…もしかしたら、どこかで重複した私と勇者くんなのかも…そんな事も考えた」

ナビ「………」


エレナ「でも、その考えは途中で無くなったよ。男の方は魔法を使えなかったし、女の方は神聖魔法しか使ってこなかったからね。それで…仮定に仮定を加えて、さっきの条件と…今までの発言を行うだけの根拠を持った人物を割りそうとしたんだけど」

ナビ「……」

エレナ「何だかんだで、察しが悪い筈の勇者くんに先を越されちゃったよ」


カイン「ボクは…正体も何も元のあいつらを知らないから、答えには辿り着かなかったけど…盟友の絆の効果が出てる人物だって事はすぐに判ったね」

エレナ「…前回、勇者くんと一緒に勇者の剣を取りに行ったメンバー…そのメンバーがもし勇者特性を持っていて、前回の記憶を残していたら…」

ナビ「その推論の通り。前回から継続してパーティーを組んでいた二人が、先回りして勇者よりも先に剣を手に入れた」


エレナ「そして………二人を殺した私と、その原因になった勇者くんに復讐に来た…って事なんだね」

ナビ「………」


カイン「加えて言うなら…あいつらが記憶を残してたのって、ナビが一枚噛んでたんだろ?おまけに…」

ナビ「否定は行わない」

エレナ「私は…ナビちゃんを責める気は無いよ。私が同じ立場なら、きっと同じ事を……うぅん、多分もっと残酷な事も厭わなかったと思うから」


ナビ「………」



戦士「それで…マオウシステムを倒すにはどうすれば良いんだ?」

勇者「マオウシステムを構成する存在…この場合は僧侶から悪意を消し去り、核となるマオウシステムを覇者の力で破壊する。この方法で倒せる筈だが…」

戦士「成る程…しかし、今の僧侶から悪意を消し去るなんて事は出来そうにないな。となると、取れる手段は……」


勇者「………」

ナビ「………取れる手段は限られる。そして、それは勇者にとって最も難しい手段」


戦士「悪意の更に大元………僧侶の命ごと、マオウシステムを消し去る事…だけか」

ナビ「肯定。僧侶の命とデミ・マオウシステムが直結している今の状態ならば、その方法でも消し去る事が出来る。ただし…」


戦士「ただし?」


ナビ「物理的な手段での破壊を試みる場合…最低でも勇者の剣を用いらなければ、それも叶わないと推測する。他の攻撃では精々行動を阻害する程度」

戦士「成る程…な」


勇者「戦士…お前は本当にそれで良いのか?」

戦士「本音を言うなら、良いとは思わないさ。だが…仕方の無い事だ。それだけの報いを受けるだけの事をしてしまったんだからな」

勇者「それは……」


戦士「おっと、勇者は謝るな。今となっては思い出してくれただけで十分だ」

勇者「しかし………」


戦士「まぁ…殺された事に文句が無いと言えば嘘になるがな」

勇者「………」


戦士「俺達は勇者のために殺された…そこまでは良いんだが、問題はその後だ。勇者が何も果たせないまま、あれに負けてしまった事が許せなかった」

勇者「………そんな俺の不甲斐無さに怒りを覚え…お前は…」

戦士「と思ってたんだが…別にお前が弱かった訳じゃないのは良く判った」

勇者「………」


戦士「それで僧侶に至っては、エレナに理不尽に殺された事自体が許せなかったという訳だが………あぁ、あと…」

勇者「………何だ?」

戦士「実はな…あの時、僧侶の腹の中には俺の子が居たんだ。それで…無事勇者が勇者の剣を手に入れたら、俺達はパーティーを抜けて………」


勇者「―――っ…」

戦士「…という事情もあったんだが………まぁ、それも今思えば………」


と言ってナビを見る戦士。そして、不意にエレナが口を開く


エレナ「………うん」

勇者「エレナ…?」



エレナ「私は前回のエレナじゃなくて今回のエレナ…だから、二人を殺した本人じゃないから、言葉の重みはあまり無いと思うけど…」

戦士「………」

デミ・マオウシステム「エレナ………?……エレナァァァァァ!!!!」


エレナ「私は、二人を殺した事を、後悔していないと思う!」

勇者「なっ……!?」

エレナ「二人を…そして私自身を殺した事で、勇者くんは生き延びる事が出来た。そして、マオウシステムという核心まで辿り着く事ができた」

デミ・マオウシステム「ナ……ッ…ニ……」

エレナ「だから…二人の命も、私の命も無駄じゃなかった、そう断言するよ」


戦士「それに…あえてエレナが言わなかった事を付け加えるなら。あの時俺達がエレナに殺されていなかったとしても…」

エレナ「………」

戦士「どうせ魔王軍に殺されていた。当然勇者も一緒に殺されて…文字通り、完全な無駄死にになってただろうな」

エレナ「………」


戦士「そして、エレナもそれを感謝しろとは口にしていない。俺達の死に意味を持たせる事に、恩着せがましい優越感なんて感じていない」

デミ・マオウシステム「……………」


戦士「なぁ………もうそろそろ許してやろうぜ?お前も疲れただろ?」

デミ・マオウシステム「ソンナコトバ……ワタシハ………ワタシハ…私は………」

エレナ「僧侶ちゃん……」

デミ・マオウシステム「私自身が殺された事が悔しかった…うぅん、怖かった。何の意味も無く、無意味に消えてしまう事が…どうしようも無く」


勇者「無意味なんかじゃない!」


デミ・マオウシステム「………?」

勇者「エレナの言った通りだ!戦士と僧侶のお陰で今の俺が居る。俺にとっては、二人とも決して無意味な存在なんかじゃない!」

勇者「お前達は、俺の……俺の、大切な仲間だ!!」


戦士「勇者……」

エレナ「勇者くん……」


デミ・マオウシステム「じゃぁ………本当に意味があったの?私が生きて、私が死んだ意味………あったの?」


勇者「当然だ!!」

戦士「あぁ…勿論だ…」


デミ・マオウシステム「そっか………じゃぁ、私……このまま安らかに眠って良いんだよね?…もう…何もかもお終いにして………」

戦士「あぁ………だが心配するな。俺も一緒に…」


勇者「いや、それは違う!!」


戦士「えっ?」

デミ・マオウシステム「…え?」

ナビ「えっ…」



勇者「戦士も僧侶も…二人共、ここで死なせる訳には行かない!前回の分も生きて貰う!!」

戦士「いや…だが、マオウシステムが…」

ナビ「そう…マオウシステムを倒すためには…」


勇者「悪意なんて物はとっくに消えている!」

ナビ「しかし…勇者の剣だけでは、核のみを破壊する事など…」


勇者「覇者の叫びも…勇者の剣の封印石も魔王の剣も無い……だが、何とかして見せる!!」

ナビ「…………」


勇者「何とか出来ないとしても何とかする!それが勇者だ!!」

ナビ「判った………ではこの場の収拾は勇者に一任する」


勇者「あぁ…心得た!!」


エレナ「でも…実際問題、どうするつもり?マオウシステムを倒すには…」

勇者「足り無い物が山ほどあるな。だが……逆に、満ち足りている物がそれ以上にある!」


俺は大きく息を吸い込み、目を閉じる。


思い出す。

覇者になった時の感覚を

聖剣を手にした時の感覚を

邪剣を手にした時の感覚を

マオウシステムに一撃を与えた時の感覚を。


………そして、強く想う

仲間に…二人に生きて欲しいと言う、その思いを!!!


勇者「聖剣も邪剣もここには無い………だが、ここには俺の拳がある!」


エレナ「えっ…まさか……」

勇者「その………まさかだっ!!!!」


俺は、デミ・マオウシステムの核に向け………勇者の拳を放った



デミ・マオウシステムの核は、粉々に砕け散った。




ナビ「…………この結末は想定外」


勇者「まぁ正直、俺自身あんな事ができるとは予想して居なかったからな」

ナビ「………」


エレナ「それで…僧侶ちゃんの具合はどう?」

戦士「まだ目は覚めない…が、この顔を見ている限り心配は無さそうだ」

エレナ「安らかな寝顔…してるよね」


勇者「ところで二人とも、この先どうするつもりなんだ?」

戦士「正直な所、何も…ここで決着をつけて終わりにする心算だったからな」

勇者「よし、ならば俺の領地に来れば良い」


戦士「………いや、さすがにそれは無理だ。俺達は領地を襲撃した張本人だぞ?」


エレナ「あの領地を襲撃できた人物だからこそ、あの領地を防衛するにも適してる…そう言えるよね」

戦士「おいおい………」

カイン「諦めなよ…この二人にここまでペースを捕まれたら、もう逃げられっこ無いよ………」

戦士「………」


勇者「その通りだ」

エレナ「そうそう」


戦士「本当に………良いのか?本当にそれで……」

勇者「しつこい!俺が良いと言ったからそれで良い。たまにはリーダーらしく命令させて貰おう、俺の領地に来るんだ」

戦士「勇者…お前という奴は……」


吹っ切れたように笑顔を浮べる戦士。


こうして俺達は新たな仲間を加え……いや、呼び戻し。また一歩、打倒マオウシステムへの道を前進するのだった。




ナビ「…勇者の可能性は未知数…これならば、本当にマオウシステムを破壊する事が出来るかも知れ無い。けれど……その可能性に甘えて手を抜く事が出来ないものまた事実。私に出来るだけの事を、全て行う。


ナビ「マオウシステムを……完全に消去するために」



●第四章 ―可能性の迷路 其の市― に続く

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