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「つまりね、僕は君が好きなんだ」

作者: 白鯨 彼方

彼の頭は、縁日に行けば売っているあれに良く似ていた。


「癖っ毛なんだ」


不服そうに呟くと指先に髪の毛を絡める。

周りの男子よりも少し伸びた髪の毛は少し暑そうで、なのに彼は汗一つかいていない。


「短くしちゃうと癖っ毛がひどくて。だからまだ伸ばしていた方がマシ」


白くて細い指が髪の毛を弾く。

彼の仕草一つ一つに私の心臓は敏感に反応してしまう。


「嫌い?」


私がそう尋ねれば

「嫌いだったけど、嫌いじゃなくなった」

なんて少し嬉しそうに答える。


「私は君の髪の毛すごく好きだよ」



(君の髪の毛だから、好きなんだよ)



「ありがとう」


彼は照れたように笑った。






「今日、縁日やってるんだって。ちょっとだけ覗きに行かない?」


夏のある日。

彼に私は提案した。


「いいよ。そのお祭り花火も上がるんだよね」


君と行ったその縁日を私は一生忘れない。


出店で買った甘い綿菓子は前々から思っていた通り彼の頭に似ていた。

彼が取ってくれた真っ赤な金魚は今でも元気に、気持ちがよさそうに泳いでいる。


花火が見える場所へ向かう途中、人の流れに負けて遂に打ち上げ時間に間に合わなかった。


「花火、始まっちゃったね」


少し残念そうに彼は呟く。

君の手には白い水ヨーヨーとりんご飴の入った袋がぶら下がっている。


人通りのいない道で、花火の打ち上げ音がビルに反射して聞こえた。


たまたま見つけた木と木の間。

花火の全貌は見えないけれどちょうど間から花火が見えた。


「あ、見て」

「ん?」

「花火」


二人で木と木の間を見つめた。

君の腕が当たりそうで、当たらない。

そんな距離で二人で花火を見た。


「ここから花火見ようよ」

「君がいいなら僕はいいけど。それでいいの?」

「これでいい。これがいい」



今ここから花火を見ているのは私と君だけだ。


そんなくだらないことが、とても大切に思えた夏だった。












「覚えてる?花火」



夏の暑さはとうに過ぎて、桜が咲き始める季節になった。

今年は寒さが長引いたため、私たちの卒業式には桜が咲かなかった。



「覚えてるよ。良く覚えてる」




私と君以外誰もいない教室。


二人ともめを合わさず、窓から見える外の景色を眺めていた。



「楽しかったな、夏」

「もう終わっちゃったけどね」

「夏だけじゃないよ、終わったのは」

「もう何もかも無いんだよね」

「文化祭も、体育祭も、球技大会も」

「青春なんてあっという間だね」


青春なんてあっという間だ。

私はもう一度呟くと指先に自分の髪の毛を絡めた。


「ずっと、続けば良かった」


君との夏も、クラスでの生活も。

永遠に続くような、そんな錯覚に陥っていた。


(もうこれが終わったら君にも会えなくなっちゃう)

(理由が無いと、話せなくなっちゃう)

(もう彼の癖っ毛を褒められ無い)


言葉にしたい思いが胸の中で蟠る。

言いたい。

もう君に会え無い。


なら今言わ無いでいつ言うんだろうか。



私が言葉を呟きかけた瞬間


「僕は癖っ毛なんだ」


君は自分の髪の毛を白くて細い指に絡めた。

さっきまで、交わらなかった視線が交わる。

君の瞳に捕まった私は言葉を話すことさえできない。


「僕はこの癖っ毛、嫌いじゃ無いって言った」


白くて細い指が髪の毛を弾き、今度は私の髪の毛に彼の手が伸びる。


君の体温がすぐ近くに感じられる。


君の白くて細い指が私の髪の毛に触れた。


「理由はね、君がいつも褒めてくれていたから」


「君がいつも、この癖っ毛を好きって言ってくれたから」



彼の指は、髪の毛から離れて私の頬を伝う涙を拭いとった。


「これから会えなくなるのは嫌だ」


「多分君と会えなくなったら、僕はまたこの癖っ毛を嫌いになってしまう」


「理由がないと話せ無いなんてそんなのは嫌だ」














「つまりね、君が好きなんだ」












教室のドアから、春一番が吹き込む。

私の髪の毛も、君の縁日に売っているあの砂糖菓子のような癖っ毛も春一番に揺れていた。

ご閲覧ありがとうございます。

読みにくい文章に付き合っていただき誠に感謝申し上げます。

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