表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/155

其の零

 「今、海部(うみぶ)総理大臣と、全日本魔術使連盟のリーダーである魔術頭(まじゅつのかみ)、一ノ瀬藍一郎(いちのせあいいちろう)氏が姿を見せました!」

テレビ画面に向かって興奮した様子で語りかけるレポーターの声が、シャッター音で掻き消される。強烈なフラッシュが連続で瞬き、しばし混迷の様子を見せた。

 しかし、それも総理大臣が演台に立つまでの事。総理大臣が喋り出す頃には、シャッターも控えめになっていた。

「えー、(わたくし)は、昨年行われた国民投票の結果として、賛成が過半数を超えたことを受け、魔術頭である一ノ瀬藍一郎氏と会議を重ねてまいりました。そして、その結果、本日、一九九〇年九月十三日、このときをもって、日本国が持つ政治上及び国内外の全ての権利を、全日本魔術使連盟を中心とする政治機構、『魔術議会』に譲渡する事を決定いたしました。これより、日本国が定める法律は一部例外を除き効力を失う事になります。また、日本国憲法に変わる憲法が施行され、半年前に公布された『日本魔術帝国憲法』が施行される事となります」

それだけを述べ、総理大臣は演台を降りる。入れ替わるように、一ノ瀬藍一郎が前に出た。同時に、またしてもフラッシュの嵐が巻き起こる。それを意に介した風もなく、藍一郎は口を開いた。

「たった今より、旧日本国の領域は、日本魔術帝国の領域に変わります。また、憲法及び法律の変更により、今後一年前後は混乱が予想されておりますが、それを少しでも緩和するため、この場を持って宣言させていただきます。今後、基本的な法律が大幅に変更される事はありえません。事前に公布したように、憲法は君主制、及び軍隊の保持を認めて降りますが、それ以外に関しては日本国憲法とおおよそ同じであります。それに則り、法律も憲法同様、おおよそは同じとなります。

 この建国には、反対の方もいらっしゃったと思います。その方々にも、『変わってよかった』と思っていただけるような国を目指し、私を始めとした政府関係者一同、粉骨砕身の精神で精進していく所存であります。どうか、よろしくお願いいたします」

選挙演説のような演説を終え、藍一郎――――第二十七代魔術頭は後ろに下がる。

 そこで会見は終了らしく、鮨詰め状態で取材していた報道陣も次々に出て行く。すぐに、会見場から人の気配は無くなった。


 古来より、魔術と呼ばれる超常的な力を操る技術は、ひっそりと、そして脈々と受け継がれてきた。それは決して表に出てくる事はなく、しかし常に歴史の裏側に存在していた。

 そして、奈良時代。日本魔術連盟の原型と思しき組織が、歴史書に現れる。それ以来、魔術は科学と同様に、そしてそれ以上に発展を遂げてきた。

 日本魔術連盟は名前を変え、指導者を変え、しかし根本的な仕組みは何一つ変化しないままに歴史の中で変遷していき、遂には政府よりも影響力のある組織として根を張っていった。

 そしてついに政権を握る事となった西暦一九九〇年九月十三日、日本国政府はすべての権限を魔術連に譲渡、君主制を布く帝国の政府として、魔術連は日本を統治する。

 以降八十年間、大きな動乱も無く、時間は平穏無事に流れる事となる。

 そう、帝国建国から八十年が経過した、西暦二〇七〇年までは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ