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変化の朝

変化の朝


俺は冴えない高校生、坂西(さかにし) 孝太(こうた)。16歳だ。

自分で冴えないというのはだいぶ来るものがあるが、それは一先ず置いておく。


今、俺に起こっている事実は、そんなチンケなものではない。この国を動かすほどの重大な重大な、もひとつおまけに重大な事件なのである。


……。すまない、誇張した。


げふんごほんがへん。


それはともかくして、この事実に気付いたのはつい先程、ほんの数分前だ。


俺はいつも通り冴えない朝を迎え、冴えない歯磨きを始めようと洗面所に向かう。

鏡の前に立ち冴えない自分の顔を眺めてみると、微かな違和感を感じた。


そうそれは一本の『鼻毛』だ。まごうことなき『鼻毛』だ。


『鼻毛』以外に形容しようのない、キング・オブ・ノーズヘアーである。


果たして鼻毛がノーズヘアーなのかはわからないが。



おかしい。すぐにそう思った。

その、右の鼻の穴からひょろーっと伸びる、とってもビアウティフルでキゥートな『鼻毛』は、どうにも長過ぎる。


だがしかし、長いだけなら、長いだけならまだいい。


が、昨日はなかったのだ。昨日の夜は『鼻毛』の片鱗さえも感じなかった。


俺の身体は、一夜にしてこの牙城を作り上げたのだ。


ふと自分の前世は某猿顔の戦国武将、よく光秀を操った黒幕扱いされる人、なのかと思ったが、残念違う。


俺の顔は冴えないが、悪い意味で目立つことはない。

猿顔は親友ポジと決まっている。


俺が主人公の親友ならば俺が猿顔の可能性はあったが、俺に親友と言える友達はいない。

親友と言えない友達もいない。


か、悲しくなんかないんだからねっ!

キャピっとしてみだが、キモかった。

当たり前だ。


あと、光秀はもやし病弱臆病ノンケだったと思う。


信長はホモだったらしいから、今のジャ○さんみたく光秀に迫って、光秀は嫌気が差して謀反を起こしたと。


どうでもいいか…。


どうでもいいな…。


こんなの、腐った女子しか喜ばない。

健全な男子には毒である。



話を戻そう。


俺がその奇妙な『鼻毛』を、ギネスとかに載らないかなー、などと思いつつ眺めていると、変化は訪れた。


一つ言っておくが変化とは鼻毛のことじゃないからな。


じゃあ、変化ってなんだっていうと…。


鼻毛の横に、文字が浮かんでいるのだ。日本語で。


名称:鼻毛

ランク:レア


な、なんだこれは。と思ったのは一瞬だった。


何故なら俺は、この文字に見覚えがあったからだ。


それは、某RPGゲームのステータス魔法。その表示に酷似していた。


半透明の黒い画面のようなものが浮かび、その回りが紺色で縁取りされている。

そして縁取りされたその中に白い文字で、


名証:鼻毛

ランク:レア


と書いてある。


シュール…。


ゲームの中の物が現実に出てくると、酷くちぐはぐな印象を受ける。


この、何とも言えない気持ちをどう表せばいいのやら。

ボキャブラリーのない俺にはわからない。


目をごしごしとこすり、冷たい水で顔を洗う。

すると急速に脳味噌が冴えてきて、視界がクリアになる。


うん、気持ちいい。


顔を洗い終えた俺は、再び鏡を見る。いや、鏡に写った鼻毛を見る。


名証:鼻毛

ランク:アブノーマル


ふむ。

俺はひょろりと伸びる、THEアブノーマルさんに手を添えて…。フンッ!


縄を引きちぎったような音がなる。

普通は鳴らない。


鼻毛を千切るだけでこんな音が出るとは、世も末だ、


見事に抜けるアブノーマルさん。

いやぁスッキリした。少し痛かったけど。


そしてまた鏡を見る。


名証:鼻

ランク:ノーマル

体力:95/100

破損度:微

美:565


その、ステータス表示のようなもの(長ったらしいので以下ステータス)は消えていない。むしろ増えてる。


わざわざ水で洗った甲斐がある。

このステータスどうやら現実のようだ…。


てか、体力ってなんだよ体力って。0になったら俺の鼻はどうなっちまうんだ。消滅とか?


自分の鼻が消滅してしまうかも知れないという事実に危機感を抱き、しばらく呆然としていると、我が双穴から赤いものが垂れてくる。


注視する。


名証:血

ランク:ノーマル

型:AB


やばいっ。アブノーマルさんのダメージがまだ残っていたか!

しかも俺の血液型が明らかにぃ!!


当たっている所がムカつくぜ。


そんな、気にする所が違うだろ、という突っ込みが入りそうな思考をしつつ、拭くものを探す俺。我ながら冷静である。


上を向きながら洗面所の下を探っているので、なんだか人様には見せれない格好になってる気がするぜ。


はずかちいっ!


そんなこんなでごそごそやってると、柔らかいハンカチを見付け、急いで手に掴み鼻に当てた。


布が血だらけになってしまったが、まあいいだろ。


しばらくして鼻血も止まって来た頃、足のしびれを感じて俺は立ち上がる。深呼吸をひとつ。


ん…?


何か鼻…じゃなくて、花の匂いと汗の匂いが混じったような、そんな香りがする。


どうやらこの布から香ってくるようだ。


今更ながら布の正体が気になり見てみると…。


名証:パンツ

ランク:至高

効果:男性を興奮させる。例外有り。


可愛らしい、水玉の小さなパンツが…。


や、ヤバイ。いくら焦ってたとは言え、我が家の洗面所が兼脱衣所であることを忘れていた。せめて布の確認ぐらいしていれば…。


「おにーちゃーん、ご飯だよーっ」


と、そこで、間が悪いことにノックの音が響き妹の美沙(みさ)が俺を呼びに来た。


「わわわわわわわかったから、ちょっと待て!いいか、絶対に入るなよ!!絶対だからな!!」


焦ってどもりまくる俺。怪しすぎる。


だが心優しい妹は、こんな兄の言葉でも信じてくれたようで。


「何慌ててんの?待つから急いでね」


クスクスと笑いながらそう言ってくれた。


その言葉に安心してパンツの隠し場所を探す。


いやぁ、我が妹ながら良い子に育ってくれた。嫁に欲し…おっと、つい本音が出ちまったな。


へへっと鼻の下を擦り、手に鼻血が着く。


「なーんてね!美沙ちゃんはド〇フだってわか…る……」


!?!?!?!?


「んだ…か……ら…ねぇ?」


な、なんと、美沙が入って来てしまった!


名証:坂西 美沙

ランク:ノーマル

レベル:14

体力:482/500

状態:健常

好感度:724

嫌悪度:276


空気を読まずに現れるステータスにイライラしながらも、俺は弁明の言葉を探していた。


瞬時に最悪のケース、妹が叫び両親にバレる、が脳内に浮かび、とるべき行動が何なのかを思考。ついでに判断。


このような事態の適切な行動。脅威は妹の声であり、言葉だ。

つまり何をすればいいのかと言うとーーー


俺はイギリスの特殊部隊にも引けを取らない素早さで妹に接近、口の中に手を突っ込む。


確か、喉に手を入れれば声は出ないはず。親戚のおじちゃんが言っていた。のだが。


予想に反して、妹は鶏を絞め殺したような声を盛大に上げる。そして吐く。


うわ!きたねぇ!


即座に手を出し水で洗う。


くそ、俺の計画では声を出せなくなった妹にカッコ良くわざとではないと言い聞かせて、うまーく事なきを得るはずだったのに。


妹は相変わらずげほげほ言っており、その声を聞き付けた母さんが「どうしたのー?」とか言って来る。

更に、足音が聞こえたので間もなくここに来るだろう。


冷静になれ、俺。

こう言う時こそ、その人物の人間性が問われるのだ。


そう、ステータス。まだ良くわからないが、こいつを使えばなんとかなるかもしれん。


妹を注視。


名証:坂西 美沙

ランク:ノーマル

レベル:14

体力:478/500

状態:混乱

好感度:720

嫌悪度:280


妹の体力には余裕がある。

これなら死ぬことは無い!


あんまステータス活用してないけど許してねっ



気合を込め、渾身の一撃である手刀を妹の首に降り下ろす。

ごげぇ、と、豚を絞め殺したような声が鳴り、妹は静かになった。


注視。


名証:坂西 美沙

ランク:ノーマル

レベル:14

体力:401/500

状態:小破損

好感度:724

嫌悪度:276


よし、死んでない。記憶消去完了。

親戚のおじちゃんが、こうすると人の記憶は消えるって言ってたからな。


確認を終えると、同時に母が来た。


「い、一体何があったの!?」


焦り問い詰める母。だが、今日の俺は冴えている。言い訳の準備は完了していた。


「違うんだ母さん、聞いてくれ」

「違うも何も無いわよ、ちょっと美沙、大丈夫!?」


母は俺の言葉を華麗にスルー。

美沙の身体を揺すりだす。


そんな、息子を無視して娘の心配をする心優しい母の肩に手をかけ、俺は言い訳を開始。


ていうか、無視するなよ。そんなことするから、息子がクソババアとか言い出すのだ。


いや、俺は言わないよ?



因みに、パンツはポケットに隠している。完璧だ。


流石に鼻血は洗えなかったが。

この鼻血さえ利用した完璧な言い訳が出来ているからな。


ふっ。


「ここに来たらいきなり美沙が気持ち悪いって言って、ゲロ吐いちゃってさ、そのまま寝ちゃったんだよ。挙げ句に俺の顔に頭ぶつけて」

「あ、そうなの…」


わりとまとも、とか考えただろ。ひとつ言うが、俺はまともな人間だ。

悪いのは親戚のおっちゃんである。


母は、でもさっきは元気そうだったのに、とか呟いている。

余計なことを考えるでない!


この感触から言って、この言い訳で押し通せる。はずだ。


畳み掛ける。


「なんか最近そう言う風邪が流行ってるらしいよ?友達が言ってた。ここは俺が片付けとくから、母さんはご飯作ってきなよ」


うむ。我ながら素晴らしい。


この場を誤魔化すだけでなく、俺の株まで上がっただろう。

一石二鳥の意味がよくわかった。


予想通り母は、怪訝な顔をしながらもリビングに戻っていった。


そして俺は妹を綺麗に拭き後片付けをしていつも通りに飯を食い、学校へ向かうのだった。




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