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第七話 無言の友人たちと、不審者な僕

長らくお待たせいたしました。

その割にはまたもや短いですが、これには理由があるのです。

説明の前に、本編をどうぞ。

 保健室を出て、そのまま三人(そろ)って校舎の中を歩く。


 いつものように、手に入れたばかりであろう無駄知識を披露し始めるハルトと、そんな友人の語りに素直に聞き入りながら目を輝かせているコウジ。


 今回の雑学講座は、日常的に感じる軽い症状についてらしい。そこそこ役立ちそうな情報だな。いつもこういう知識をためていれば良いものを。


 二人に少し遅れて黙々と足を進める僕は、彼らが何も聞いてこないことに、小さな落胆を感じつつも、安堵していた。


 早く家に帰ってテレビ番組でも見たい、と思う。





 下駄箱が見えたところで、僕の近くに浮かんでいるはずの小さな天使が見当たらないことに気が付いた。


 思えば、ハルトから鞄を受け取って保健室を出た時にはもういなかった気がする。


 おーい、と声を上げようとして、寸前で口を閉じる。あぶないあぶない。


 そのとき、ふと思った。


 ……なぜ僕があいつのことを探す必要があるんだ?


 そうだ。いないならいないで、ありがたいじゃないか。心が休まるというものだ。


 心なしか軽くなった動作で、自分の下駄箱の(ふた)に手をかける。


 開けたらこの中から天使が飛び出してきたりするかもしれない、などと馬鹿な想像をしてみた。


 いつもより勢いをつけて蓋を引く。


 …………。


 ―――案の定、薄暗くて臭い下駄箱の中に愛らしい天使が潜んでいようはずもなく、僕の紺色のスニーカーが存在を主張しているだけであった。


 瞬間、座り込んで思い切り身悶(みもだ)えしたくなった。


 よろよろと重い動作で靴を履き替えていると、すでに上履きから解放されたコウジとハルトが、二人そろって口を閉ざし、物言いたげな視線を僕に向けていた。

 気恥ずかしさが増し、脱いだ上履きを下駄箱にしまう手を止めて、思わずじとりと彼らをねめつけた。

 今度こそ何か言ってくるだろうと予測したが、二人の友人はまばたきをひとつふたつとして何事も無かったかように再び自分たちの会話に戻ったので、いささか拍子抜けさせられた。


 二人がそのまま校門を目指して歩き出したのを見て、急いで自分の下駄箱の蓋を閉じ、いつものように、ハルトを間に挟むようにしてコウジの反対側に早歩きで追いついて並んだ。


 視界のところどころに、青々とした葉っぱを枝いっぱいに茂らせた木々が見えて、もうすぐ夏が始まるのだと感じた。いつの間にか、なんとなしに見ていた繊細な花々は散って、いつの間にか、みずみずしい緑色の景色に塗り替えられていた。


 そろそろ夏服を引っ張り出さなければ、とのん気に周りの景色を見渡していた僕は、またしても気づかなかった。


 目の端にきらりと光が入り込んで。


 「マサキくん……」


 「うわあっ!」


 肩に、小さな天使が。


 いた! 消えていなかったのか! まったく、耳元に突然現れるのはやめてくれ……!


 全く警戒していなかった僕は、数時間前と同じように現れた声の主に、また同じように驚いてしまった。


 雑学講座を続けていたハルトとコウジが、突然大声を上げた僕のほうをびくりと見てきたので、転びそうになっただけだと説明した。彼らの心の内で、僕の変人度がまた上がってしまっているかもしれない。


 それにしても、うらめしそうな声が全く似合わないな、天使よ。


 「ちょーっと離れてたからって、置いて行こうとするのはひどいよマサキくん! どうせ、消えてくれてせいせいした、とか思ってたんでしょ! でしょ!」


 それより、どこにいたんだ。


 「あ、また話をそらす!」


 はいはい、そうだよ。ご名答。で?


 「うー、なんでマサキくんはこんなに捻くれてるんだろう……。神様、ボクにこの子をどうしろと」


 ……神様って愚痴を言って良い相手なのか?


 「はあ……。頑張るしかないかあ」


 なにをだ……。こいつに頑張られても嬉しいことにはならない気がするんだが。


 「マサキくんたちが出て行った後にね、アヤ先生、だっけ? あのきれいな女の人がなんだかうんうんうなりながら悩んでいたから、どうしたのー、って悩みを聞いてあげていただけだよ☆」


 驚きすぎて立ち止まりそうになった。


 悩みを聞いただと? まさか、会話をしていないだろうな! 聞いただけだろうな!


 「……マサキくんはボクをなんだと思っているのかなあ。そんなことをするのはおバカなひとだけだよ」


 だから心配しているんじゃないか! そろそろ自覚してくれ。


 天使と無言の会話をしているうちに、校門を通り過ぎていた。


 「じゃ、また明日」


 「マサキ、ちゃんと休めよー」


 少し心配そうな表情で手を振る友人たちに、ばつの悪い気分で手を軽く振り返した。ここで僕と他の二人は帰り道が分かれる。ここから僕の家までは一直線だ。

 この一本道をひとりで静かに歩くのが好きなのに。


 「マサキくんのお家、楽しみだなー☆」


 うるさいのが約一名。一名? 天使はどう数えればいいのだろう。


 そこで、重大な問題に気がついた。


 この流れだと。


 …………こいつを家に連れて帰ることになるのか。ものすごく、不安だ……。

読んでくださりありがとうございます。


以前、六話を投稿したとき、ある方から、あまりにも短いというご指摘をいただきました。

気がはやったばかりに未完成の状態で投稿してしまったようなものでした。

本来は、この七話の内容まで書くつもりだったので、解決策になるかはわかりませんが、しばらくしたら六話と七話をひとつにまとめるつもりです。


ご指摘、評価、感想などをいただけると嬉しいです。


11/15 表現を一部修正

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