第三話 青春の定義と、葛藤する僕
さて、と、騒ぐ自称天使を無視して思案する。
保健室で休むという名目で教室からの脱出に成功したは良いが、僕は本当に疲れているというわけではないので休む必要はないのだ。……おそらく。
本当に鼻歌を歌い始めたごきげんなあいつをちらりと確認したりしてしまうと自分の精神状態に自信を持てなくなりそうなのでやめておくことにした。
そう、休む必要などはないのだが……。
きーんこーんかーんこーーーん
休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響き、廊下でたむろしていた学生たちが慌てて自分たちの教室を目掛けて走り出した。
何事かを叫びながら必死の形相で階段を三段飛ばしで上って行く強者を横目で見ながらゆうゆうと階段を下りていく。チャイムはもう鳴り止んでいる。今のやつ、間に合わないだろうな……。ご愁傷様。
「ねーねー! 今の音はなぁに? さっきも聞こえたよねー?」
「うわっ」
いつの間にか目の前に可愛らしいお顔がどアップで写っていて驚いて立ち止まってしまった。ちょっと邪魔……。前が見えないじゃないか。
やはり僕の思考は彼女に筒抜けのようで、自称天使ちゃんは少々不満そうな表情をしながらもふよふよと離れてくれた。助かる。
「チャイムのことか? あれは授業時間の開始と終了を知らせる音だ」
「ふーん。 あ、そっか! その“ちゃいむ”が鳴ってる間にさっきの教室にかけっこして戻るっていう遊びなんだねっ☆ 楽しそー☆」
「…………いや、そういうわけでは……」
先ほどの光景だけを見たらそう思ってしまうのも無理は無いか。勘違いを正すべきか否か。
しかし、あながち勘違いだとも言えないのかもしれない。一部の学生はそう感じている可能性もある……。なにしろ休憩時間のたびに毎度毎度飽きずに同じことをしているのだからな。
ああいうのを青春と呼ぶのだろうか。チャイムが鳴り終わり担当教師が入室する間際に教室に滑り込み毎度の様に注意を受けることが? いつだったかハルトが語っていた“青春の定義”のなかにそういう項目があった気がするが、僕には理解ができない。休み時間に友人と話をしたいのなら教室内で椅子に座って話せばいいじゃないか。なぜわざわざ廊下に出て行くのだろう?
そんなことをつらつらと考えている間にいつの間にか一階まで下りてきていた。そのまま角を曲がると目的地に到着する。
……あいつのせいで思考が少々ずれてしまったが、そう、僕は至って健康なのだ。
しかし、だからといってこの中に入らないわけにはいかない。
コウジに先生宛の伝言を頼んでしまった以上、もし行かなかったりしてそれが後で露見してしまえば僕の信用はガタ落ちしてしまうだろう。
扉に手をかけたまま葛藤する。
それに、今しばらくはあの教室に戻りたくない。
どうやらそれが僕の本音のようなので、僕は嫌々ながらも扉を開け、保健室へと入室するのであった。
話数が進む度に一話が短くなっていっていることにマサキくん以上に呆然としております……。
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