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第一話 飛び込んできた非日常と、呆然とする僕

連載第2弾~! よろしくお願いします。


 今日は皆さんに、僕が体験した、夢のような出来事についてお話しようと思う。


 ――――――皆さんは、このようなモノを見たことがあるだろうか?


 たとえば、風の吹かぬ晴れた夏の日、道行く者を惑わすようにアスファルトの上に現れる、鏡のような、“逃げ水”と呼ばれる現象。

 あるいは、年輪を重ねた木々がうっそうとそびえ立つ森の中に突然開けた、日の光が淡く差し込み落ち葉を彩る、空間。


 あいつは、そしてあの日々は、たとえるならば、そういうモノだった。

 ……いや、何かにたとえる事など出来ないのかもしれないな。


 とにかく、そう、僕があいつと初めて遭遇したのは、僕が中学校にあがってしばらく経った、春の昼下がりだった――――――。




          ********************




 「えー……、日本はー、環太平洋造山帯とよばれる……太平洋をとりまく造山帯に属しておりましてー、火山活動によってできたものが多いですねぇ……。桜島、雲仙岳などは現在も活動中でー……―――」


 ただでさえ退屈な地理の授業は、この定年寸前のオジサマ先生にかかると、子守唄に変貌する。なんともありがたい事に、聞き取れないほどの小さな、しかも間延びする声で講義を進めてくださるからだ。

 それに加えて、今は昼メシ直後。腹が一杯で眠い時間だ。こうなると、オジサマ先生の授業は、子守唄どころか、もはや効果抜群の睡眠薬になってしまう。これでは、授業を真面目に聞きたい一部の学生たちも到底睡魔に抗えきれまい。

 

 まったく、ひどい話だ。


 僕のクラスメイトたちも、はじめの頃は、それはそれは文句を言いまくっていた。

 特に、時間割を決めたのが自分たちの担任教師だと分かると、皆の抗議は彼女に殺到した。

 僕は一人、抗議などしても何も変わらないし担任がかわいそうだ、と思っていたが。

 まあ、しばらくすると、皆諦めたのか僕と同じように思ったのか、怒りを鎮めた。

 ……その代わり、子守唄に抗うことをやめてしまったのはいささかどうだろうと思う。


 ――――――相変わらず地理の先生は、妖精よろしく眠りの粉を撒き続けている。

 

 あくびをかみ殺し教室を見渡すと、生き残っている勇者たちは僕を含め五人ほどだ。オジサマ先生、最強だ!


 とは言え、僕も例外ではない。そろそろ限界だ。


 諦めて体の欲求に身を任せ机に突っ伏そうと結論を出したとき、()()はやって来た。


 カサ


 と、コピー用紙の飛行体が僕の机に着地したのだ。


 ……は? 紙飛行機? おいおい、誰だよこんなモン授業中に飛ばしたのは……。


 まあ、授業中に生徒の大半が寝ている事のほうが問題なんだろうけれど。


 ———周りを見渡しても、こちらを見ているクラスメイトはいない。


 どのみち寝る結論に達していたので、僕は授業そっちのけで、差出人を確認するために紙飛行機を広げた。


 ……あれ、真っ白だ。


 拍子抜けして、折り目のついたコピー用紙を机に放り投げる。


 その瞬間、


 「あーっ! ダメだよそんなに乱暴に扱っちゃあ☆」


 と、顔のすぐ横で、聞き覚えの無いいやに明るい声で発された文句に、えっ、と肩越しに振り返ったとき、


 きーんこんかーんこーーーん


 とチャイムが鳴った。そして瞬間的に起きだして騒ぎ始めるクラスメイト(バカたち)を横目に、僕は呆然としていた。

 

 だってさ、ありえるか、こんなこと?


 「こんにちはー☆」


 俺の肩に、人差し指ほどの大きさの小さな小さな子供がいたのだから。


 「あはっ、びっくりしてるー☆」


 ……当たり前だっ! というか、なんだこれは!? 幻覚か!? 僕は麻薬なんてしていないぞ!?


 「ほらほら落ち着いてー、マサキくん☆」


 突然僕の名前を呼ばれて驚くが、そんなことよりまず確認をしなければ!


 僕はすかさず自分の右手を顔に伸ばした。


 ほおをつねると……痛い。よし、僕は正常だ! 確認終了。

 ということで、改めて肩にいる小人(?)を観察する。


 薄い灰色の長い髪に、くりくりとした大きな黒い目。透けるように白い顔には可愛らしいえくぼが浮かんでいる。

 ……女の子、だよな。多分。

 しかし……この服装はいったいなんだろうか? アジア風の白いドレスローブ??


 「なあに? ……ボク、そんなに可愛いの? あはっ☆ 照れちゃうー☆」


 じっと見つめていたからか、小さな女の子は両手をぴこぴこ振りながらよく分からない反応をした。


 ……あのさ、その、語尾がやたらキラキラしていてウザくなってきたんだが。


 そう思ったとき、肩の小人がむっとした表情になった。


 「ちょっと! 今、ひっどーい事考えてたでしょ。ボク天使だから、これくらい明るいのがちょうど良いんだよ☆」


 ……こいつ、人の思考を読めるのか!? それより、この子、天使だったのか!? 羽根とか光る輪っかとか、無いのか!?


 僕は思わず手を伸ばして自称天使ちゃんを掴み目の前に持ってくると、くるっとまわして背中を確認した。してしまった。


 「な、なななな何すんのーっ! 離して! 離してってばーっ!」


 小さな手足をじたばたさせながら自称天使が騒いでいるが、ショック状態の僕には気にしている余裕は無かった。

 ……無い。無いのだ。羽根が無い! 輪っかが無くてもせめて羽根はあって欲しかった。これでは天使とは呼べないではないか。


 呆然と小さな背中を見つめる僕をよそに、自称天使の女の子は暴れながら騒ぎ続ける。


 「はーなーしーてーっ! もう、こうなったら容赦しないんだもんね! ……えいっ」


 「いてっ」


 突然バチッと電流のような衝撃が指に走り、我に返った僕は掴んでいた小さな女の子を放した。




 ―――僕はきっと、突然飛び込んできた非日常に混乱して、現実世界を忘れていたのだろう。


 「おい、マサキ。……さっきからなにしてんだ? お前」


 ……だから、教室中から向けられる無数の痛い視線に今の今まで気が付かなかったのだ。


 ……不覚。

今回は天使と高校生の男の子のお話です。

放置している連載小説があるのに新しい連載を始めてしまったことについてはノータッチでお願いします……。

誤字脱字違和感などございましたら、作者までお知らせいただけると嬉しいです。


9/11 プロットの確定にあわせて、‘僕ら’を‘僕’に変更。

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