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氷の河  作者: ガンジス川
9/13

第9話

「その後も続けて読んでもらえますか?」


「その後? 後は無いです」


「それだと……たぶん、拡張子の表示がオフになってますね。フォルダの上の方にある『表示』をクリックしてください」


「表示……?」


「『ファイル』の右です」


「……ありました! はい、クリックしました!」


「続いて、『ファイル名拡張子』をクリックしてチェックを入れてください」


「……入れました! あっ、ファイル名の後ろに文字が増えました!」


「何と書いてありますか?」


「てぃ……てぃーあいえふえふ、です」


(TIFFファイルか……。普通はWindowsフォトビューアーで開くはずだけどな)


「あの……そういえば……」


 太一が解決策を思案していると、彼女が補足した。


「本当はこれじゃなくて、ぴーでぃーえふ?っていうファイルにしたかったんですけど……どうしたらいいですか?」


 ちゃぶ台返しだ。そうなると根本から話が変わってくる。


「それは……スキャンからやり直しですね」


「えっ! そうなんですか〜?」


「まだ手元に紙の原本はありますか?」


「あります、あります。大丈夫です〜」


「複合機のメーカーはどこですか?」


「えっと……なんだっけ……あっ、ゼロックスです〜」


「では、複合機の液晶画面を見てください。スキャンの設定画面でファイルの保存形式を指定できますので、そこでPDFを選んでからスキャンしてみてください。PDFならダブルクリックで開けられるはずです」


「わかりました〜やってみます〜。ありがとうございました〜!」


「はい。それでは失礼します」


 通話を終え、いったんヘッドセットを外す。このレベルの質問なら別になんてことはないな、と安堵する。


(しかし、こんな初歩的な質問が来るなんて……最近の若い子がパソコン使わないっていうの、本当なのかな)


 太一たち1970年代後半生まれは、子供の頃から身近にPCが存在していた最初の世代と言えるだろう。この時代、一般家庭に急速にPCが普及し、特にWindows95の発売を大きな転換点として、ワープロ、表計算、ゲーム、インターネットetc……と、あらゆる機能がPC一台に集約されていった。まだスマホがこの世に存在せず、何をするにもPCが必要だった頃の話だ。ゆえに、当時のインドア派の学生たちは程度の差こそあれ、そのほとんどが苦もなくPCを扱うことができた。それは当人たちにとっては当然のことだったので、太一はその世代限定の特殊なスキルをを自覚していなかった。


 数分後、第二のコール。


「はい、総務部ヘルプデスクです」


「あー、ちょっと聞きたいんだが」


 第一声で太一は警戒した。相手を確認せずにタメ口で話しかける時点で、役職持ちである可能性が高いからだ。


「印刷ができないんだが」


「印刷ですね。ファイルの形式と複合機のメーカーを教えていただけますか?」


「んー……」


 電話口の向こうでカチャカチャとキーボードとマウスを操作する音が聞こえた。


「エクセル。プリンターはゼロックスだな」


「かしこまりました。それでは、印刷設定画面を開いていただけますか?」


「ん? どこだ?」


「メニューの『ファイル』をクリックしていただくと『印刷』が出てきます。それを選んでいただくと複合機が選べるかと思います」


「んー…………いや、無いぞ」


「左様ですか。でしたら……」


「いや、もういい。電話じゃわからん。こっち来てやってくれ」


「そちらへ、ですか?」


「ああ。経営管理部の力久だ。急いでな」


「あの……」


 太一の答えを待つことなく通話は切れていた。


「あの、すみません」


 挙手で中村を呼んで事情を話すと、予想通りの指示が帰ってきた。「あー、行ってあげてよ」だ。


※ ※ ※

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