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1話 出会い ①

けやき通りのアイドル部 1期0話(短編)を読むとわかりやすいかもしれないです…!



 ……今日のライブもなんかつまんなかったな


 なんか先輩たちいなくなってアイドル部観る気無くなっちゃった……

  

 正直、香織(かおり)ちゃんだけだとねぇ……



 ライブを観てくれた人たちの声が聞こえる。聞こえてくるのは落胆の声ばかり。耳をふさぎたくなる。

 それでも、いつか先輩たちが戻ってくるから……。

 私はそう自分に言い聞かせ、ライブの終わったステージ上に座り込んだ。


 ……もう、私はアイドルを……。




 ピピピピッ……


 朝、机の上においてあるスマホのアラームで目が覚める。

 またこんな夢を見てしまった。何回同じような内容を見続けても、起きて初めて夢だと気付く。

 部屋の中に窓の外から明るい光が差し込んでいる。

 二段ベッドからガサゴソと起き上がり、鳴り続けるスマホのアラームを止める。そのついでに、残りの五分おきに設定したアラームも解除する。

 アラームを止めるのが少し遅かったかなと思いながら、音を立てずにソーっと二段ベッドのはしごをのぼり、二段ベッドの上段を覗く。スースーと静かな寝息を立てながら、三歳年下の妹の美琴(みこと)が寝ている。

 まだ小学5年生の美琴を少しでも寝させてあげたかったので、アラームの音で目を覚まさなかったことに内心ホッとした。美琴を起こさないように、私はなるべく音を立てずに姉妹共用の部屋から出て、そのまま洗面台に向かう。

 冷たい水道水で顔をバシャバシャ洗う。髪を水で濡らしてブラシで髪を整える。ドライヤーで髪を乾かす。そして、簡単に歯を磨く。

 いつものルーティーンを済ませ、誰もいない静かなダイニングに出る。

 平日はお母さんが朝早くに会社へ出勤してしまうので、家の中は私たち姉妹だけになる。この時間くらいには、もう会社の最寄り駅に着いているくらいのはずだ。

 休日などの仕事が休みの日は、お母さんがキッチンで朝ごはんを作ってくれているので、平日の朝はその朝ごはんの準備をしている音が恋しくなる。

 ダイニングにある茶色のテーブルの上に、昨日私が買ってきた半額シールが貼られた総菜パンが2つある。珍しいことに、その横に小さなメモ用紙も一緒に添えられていた。

 メモ用紙には、『新学期、頑張ってね!』と、お母さんの字で記されている。


 「お母さん……。」


 朝早くから仕事に向かって忙しいであろうに、私たちのことも気にかけてくれていることには、感謝の気持ちでいっぱいになる。それと同時に、自分もお姉ちゃんとして、美琴のために頑張らないといけないと気が引き締まる。 

 冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出し、冷えた麦茶を2つのプラスチックのコップに注ぐ。

 朝ごはんの準備を終わらせたので、まだ寝ているであろう美琴を起こしに行く。部屋に戻ると、案の定、美琴は気持ちよさそうに寝ていた。

 二段ベッドのハシゴにのぼり、右手で柵をつかみながら、左手で布団の上から美琴の体をゆする。


 「美琴、朝だよ。起きて。」


 「……ん。お姉ちゃん……。……おはよ……。」


 眠りから覚めた美琴は、ごろんと体を転がして私のほうに顔を向けた。毎日この作業をしているのだが、毎度「今日の寝起きの顔もかわいいな。」と、姉ながら思ってしまう。

 きっと、私の数少ない話し相手だから愛着が強いのかもしれない。


 「朝ごはんの準備できたよ。」


 「…ん。うん……。」


 寝ぼけながらも返事をした美琴は、モゾモゾと布団で動き始めた。それを確認した私は、一足先にリビングへと戻った。

 テーブルのイスに座って待つこと3分ほど、美琴が洗面台からゆったりとした足取りでダイニングに入ってきた。


 「おはよ。」


 「おはよー、お姉ちゃん。」


 

 今日の朝ごはんは、美琴がウインナーパンで私がメロンパン。それぞれが、自分の食べるパンを手に取る。


 「「いただきます。」」


 私たちの声は、いつもと同じように、誰もいない部屋の中に静かに消えていく。パンの袋を開ける音も、食べている時や水を飲むときの僅かな音ですら通るくらい部屋の中は静かである。

 


 「今日から新学期だね!すっごい楽しみ!」


 眠気がバッチリさめた美琴が、明るいニコニコ笑顔で話しかけてくる。


 「そうだね。新しいクラスにもなるし、転入生も来るかもしれないし、ドキドキすることがいっぱいだね。」


 「うん!新しいクラスでも、みんなと仲良くできるといいなー。」


 美琴は目をキラキラと輝かせていた。


 「美琴なら大丈夫だよ。明るくて、優しい子だから。私もたくさん友達できるといいな。」


 「お姉ちゃんはアイドルなんだから、いっぱいお友達できるよ!」


 「え……。う、うん。お姉ちゃん、今年もアイドルとして頑張るね。」


 「ほんと!?嬉しいー!」


 美琴の心の底から喜んでいるその笑顔が、私に後ろめたさを感じさせる。小学生の妹に嘘をついたことによる罪悪感が、ドクドクと鼓動が大きくさせ、それが喉を通せんぼしている。さっきまで食べていたパンの残り1口を食べる気になれなかった。喉を通ってくれる気がしなかった。

 

 「お姉ちゃん、どうしたの?」


 「いや、なんでもないよ。」


 残り1口を口の中に入れて咀嚼する。いつもより長く咀嚼してようやくそれを飲み込む。たったパン1つなのに、お腹がいっぱいになったような気がした。




 

 ※ ※ ※ ※ ※





 美琴が友達と学校へと向かうと、私は登校時間に間に合う範囲の中で家事を済ませてから登校する。今日はすることも少なく、いつもより早く家を出ることができた。

 私の通う中学校と美琴の通う小学校は隣同士なので、一緒に登校したいなとは思っているが、友達と一緒に登校する美琴の幸せそうな様子を見ると、美琴を誘う気にもなれず、私は1人で中学校に登校している。私も友達と登校できたらいいのだが、そもそも友達がほとんどいないうえ、通学路も被っていないので、結局一人で登校する羽目になる。

 私の中学校は、左右にマンションが並ぶ片側1車線ずつの道路をまっすぐ進んでいき、街の中心部へ続く通りをつっきて小道に入ったところにある。

 私の住む地域が市の中心部に近いということもあり、通学路の途中の道路は毎日混んでいる。渋滞で止まっている車を横に私は学校へと向かう。

 まっすぐ道を進んでいくとやがて街の中心部へ続く通りに出た。

 この通りの名前はけやき通り。

 その名前の通り、通りに沿ってたくさんのけやきが植えられている。いまはけやきの葉っぱが緑のトンネルを作っているが、秋が深まっていくと紅葉によって赤みがかった美しい黄色のトンネルへと変化する。このような美しい景色の影響か、けやき通りには、私には合わなさそうなオシャレなお店が多く並んでいる。

 そんなけやき通りをつっきて小道に入ると、すぐ私の通う中学校に着く。

 新学期の初日ということもあって、靴箱前には新クラスの発表の貼り紙がされてあり、多くの生徒らがそれを囲うようにして群がっている。

 楽しそうに盛り上がっている他の生徒たちを見て肩身の狭い思いをした私は、新クラス発表を見ることもなく、誰もいないテニスコートを突き進み、テニスコートの脇にある年季の入った運動部の部室棟の裏に回った。


 「やっぱり、ここは落ち着くな。」


 ここに初めて来たときから1年経つのに、何回来てもここは変わらない。

 何本もの桜の木によって桜の屋根ができている。形が曲がってしまっているフェンス。ボロボロのサッカーボール、放置された車のタイヤ、倒れたままの色が剥げて壊れている机。初めて来たときから何も変わらない。

 多分、学校側がここを整備しようとする気が無くて、そのままになっているのだろう。学校の先生達にとっても、私以外の生徒たちにとっても、こんな場所がどうでもいい場所かもしれない。しかし、私にとっては大切な場所である。


 「そういえば、ここにもたれかかっていた時、松野(まつの)先輩と会ったな。」


 松野先輩――私の人生を大きく変えてくれた1個上の女子の先輩である。

 ぱっちりと開いた目で、笑顔が眩しい。きれいな長い髪を揺らしながらステージ上を舞う姿が、とても輝いていた。

 そんな松野先輩と会ったときのことを、桜の木にもたれかかりながら思い出す。

 入学式初日、新しく始まる中学校生活に不安を覚えた私は、誰もいない部室棟の校舎裏に逃げ込んだ。その時に、何か探し物をしていた松野先輩とバッタリ出会った。中学生になると上下関係が厳しくなると聞いていたので、初めて松野先輩を見た時は不安になった。だけど、松野先輩は親しみやすい人で、いつしか行動を共にすることが多くなっていった。

 しかし、今では松野先輩との関わらなくなってしまった。


 「どうしてるのかな、松野先輩……。」


 先輩が転校したから会えなくなったとか、喧嘩をしたから会わなくなったとかではない。ただ、松野先輩たちが部活からいなくなってからというもの、何となく会ってはいけない気がして、まったく関わらなくなってしまったのだ。廊下ですれ違ったり、靴箱でバッタリ会ったりすることもあるが、気まずくなってお互いに声をかけることすらできずにいる。

 なので、松野先輩が普段どう過ごしているのかは私にはわからないが、顔から笑顔が消えて少し痩せたということだけはわかっている。

 いまでも、松野先輩のことが心配で気になったままなのだが、どうしても話しかける勇気が私にはない。


 「……松野先輩、元気に過ごせているのかな……。」


 桜の木に背中をつけて目を閉じた。柔らかな春の暖かい風に乗って、私の憧れた歌声が聴こえてくる気がした。ちょうど1年前、私が憧れた歌声だった。

 自然と脳内で再生される歌声に合わせて私は歌い始めた。

 ここは誰もいない部室棟裏。誰かに聞いてもらうためではなく、自分の歌いたいという気持ちに従って歌う。

 

 この曲を歌っていると、実際には隣にいないのに、松野先輩が隣に並んでくれている気がする。

 歌えば歌うほど、松野先輩と過ごした日々が走馬灯のようによみがえる。

 体力づくりで大濠公園をほぼ毎日走ったこと、ダンスや発声を先輩たちに囲まれながら教えてもらったこと、部活後も先輩たちに囲まれて一緒に帰宅していたこと、一緒に校内ライブとして体育館のステージに立ったこと。私にとって大切な思い出が、溢れそうになるくらい思い出される。

 思い出されるすべてが私にとって本当にかけがえのないものだった。


 歌い終えて目を開けると、春の風に乗った桜の花びらがひらひらと舞っていた。


 「またいつか松野先輩と話せたら……」

 

 「ねぇ、あなた?ちょっといい?」


 「は、はいっ!」


 突然知らない声で話しかけられた。後ろを振り返ると、2メートルくらいの近さに1人の女子生徒が立っていた。

 背丈は私と同じくらいで、きれいな黒髪のツインテールは肩甲骨の高さくらいまで伸びている。きりっとした目が特徴的な爽やかな顔つきをしている。見たことない女子生徒だった。

 ここの中学校は1学年に4クラスほどしかないため、他人との関わりが少ない私でも顔くらいはなんとなく覚えている。見たことない生徒となると、新1年生の可能性も考えられるが、中学校の入学式は今週の水曜日に行われるため、新1年生の可能性は無さそうである。そうなると、おそらく彼女は転入生ということで間違いなさそうだ。


 「ごめんね。突然話しかけちゃって。あたし、今日この学校に来た転入生、東田 楓(ひがしだ かえで)っていうの。あなた、名前は?」

 

 予想通り、目の前にいるこの人――東田さんは転入生だった。

 東田さんとは初めてあったはずなのに、ハキハキと喋ってくるこの感じに私はデジャブを感じた。

 あぁ……、この感じ……。

 目の前の東田さんが、一瞬だけ松野先輩の姿と重なって見えた。

 

 「私は、上林 香織(うえばやし かおり)です。2年生です。よろしくお願いします。」


 きっと、去年も同じように返したと思う。人とのコミュニケーションが苦手な人見知りの私は、愛想よく返事をできなかった。

 

 「同学年なんだ!それにしても、上林さんすごく歌が上手かった!さっき歌っているところ見させてもらったんだけど、こんなに歌が上手い人そんなにいないよ。もしかして、何かやってたりする?アイドルとか!」

 

 「えっ……。そ、そんなアイドルなんて……!」


 「そう?上林さん、アイドル向いてそうなんだけどなぁ……。」


 目をキラキラと輝かせる東田さんと目を合わせることができない。目を合わせて話すと何かを勘づかれそうで、余計に深堀されそうな気がした。

 知らない人にまで私は過去をさらけ出したくなかった。みっともないアイドルだった私のことは誰にも思い出してほしくなかった。ただの黒歴史だから。

 勘づかれてしまう前に早くどこかに行ってくれないかなと考えていた時、テニスコート方面から朝の会5分前を告げるチャイムが聞こえた。


 「いっけない!あたし、新しい担任の先生に会うために職員室によらなきゃいけないんだった。時間とっちゃってごめんね。バイバイ!」


 「バイバイ……。」


 チャイムの音を聞いた東田さんは焦った様子で校舎のほうへと走り去っていった。チャイムに助けられたとホッとしたのも束の間、私自身も教室へと向かわなければいけないと気付く。私も東田さんの後を追うように走って向かおうかと思ったが、東田さんの言葉が引っかかって走る気になれなかった。


 「『アイドルに向いてそう』かぁ……。」

 

 私の短いアイドル人生は誰からも応援されずに期待もされなかった日々だった。先輩たちがいなくなったことで日を追うごとに減っていく観てくれる人たち。それが、「お前にはアイドルは向いていない。」と思われていた証拠だった。

 そんな私を東田さんはアイドルに向いていると思い込んでいる。

 もし、私がアイドルをしていたことを知ったら、上林香織というアイドルの存在を知ったら、東田さんはどう思うのだろう。


 上林香織というアイドルの存在を求めてくれるのかな……。



 


 ※ ※ ※ ※ ※





 新しいクラスの教室は、校舎の2階となった。大きな窓から暖かい日差しが当たり、テニスコートやグラウンドを見渡すことができる。

 私の名字は『上林』なので、出席番号ではいつも前のほうである。そのため、出席番号順の席では、教室の左端の前側になりがちである。新しいクラスでの出席番号は2番となり、またもや左端の前側の席となった。

 

 「香織ちゃん、今年も同じクラスだね。よろしく。」

 

 「よろしくね、保真麗(ほまれ)。」

 

 前の席に座るこの子は、蒼原 保真麗(あおはら ほまれ)。前髪をぱっつんと切りそろえたボブの髪形をしている。おとなしい性格の女の子だ。少し怖がりであったり、甘え上手であったりして、つい世話を焼きたくなってしまう。そして、私にとって数少ない友達である。

 ここの中学校、1学年4クラスしかない影響で、去年から同じクラスの人も少しはいたが、その中でも保真麗と同じクラスになれたことは嬉しかった。クラス替えの神様に数少ない友達と同じクラスになれたことを感謝している。

 

 「はい、それでは今からホームルーム始めたいと思います。」

 

 いつの間にか教室に入ってきていた新しい担任の先生が、手をパンパンと軽く叩いた。


 「じゃ、またあとで。」


 「うん。」


 さっきまでガヤガヤとしていた教室は徐々に静かになっていく。


 「それでは、ホームルーム始めようと思いますが……。その前に、今日はこのクラスに新しく入ってくる子がいます。」


 それを聞いた教室内は、再びガヤガヤと騒がしくなる。転入生が入ってくることなんて珍しいことだから、気持ちがそわそわするのも無理はない。

 転入生といえば、今日会った東田さんは転入生だった。しかし、1学年4クラスもあるし、別の転入生の可能性だって考えられる。

 そんなことを考えていると、前の席に座る保真麗が目をキラキラ輝かせながら、私の方へと振り返る。


 「どんな子が来るかな?」


 「楽しみだね。」


 先生が教室の前にある木製の扉をガラガラと音を立てて開けると、ツインテールを揺らして1人の女子生徒が教室に入ってきた。


 「……っ!?」


 その女子生徒の姿を見て、驚きのあまり、思わず声が出てしまいそうになった。

 信じられなかった。運命……とでもいうべきだろうか。

 幸か不幸か私にはわからない。それでも、きっとこの出会いは、私の中学校生活を大きく変えることになるだろう。どこにも根拠なんてないけれどそう思えた。

 

 「あっ……」


 教室に入ってきた彼女とバッチリ目があった。どういう反応をすればいいかわからなかった私と対照的に、彼女は私を見るとキュッと結んでいた口元を緩めて微笑んだ。

 教卓の横に立ち、新しいクラスメイトと正対した彼女は、教室を見渡してから大きく深呼吸をした。


 「北九州市から来ました。東田 楓といいます。これから、よろしくお願いします!」



読んでくださってありがとうございました!

次回は未定ですけど、なるべく8月中には出せるようにしたいです

のんびりしたペースでしか書けませんが、最後まで読んでくださると嬉しいです

次回以降は、基本的に月曜〜木曜のどこかで投稿していきます

これから、よろしくお願いします

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