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静かな破壊者

 前書き


 この物語は、実在の人物・国家・出来事をモチーフとしていますが、すべてフィクションであり、筆者の仮説と想像に基づいた推論作品です。


 専門的な軍事知識を有するものではありません。事実との整合性を保証するものではなく、現代における「核」と「EMP」のあり方に、直感的な疑問を抱いた一人の視点から描いた、“想像の試み”にすぎません。


本作に登場する科学者や国家の行動は、すべて創作されたものです。

防衛研究所の地下区画。無機質な蛍光灯の下で、科学者・中村彰は静かにモニターを見つめていた。世界各地から集まった核関連の情報が、無数の数式とグラフとなって表示されている。


「やはり……おかしい」


中村は唸るように呟いた。ロシアの核兵器に関する公的データはどれも「アメリカと同水準の出力」「限定的なEMP効果」を示している。しかし、彼の手元にある数件の“事故報告”──中東やアジア某国で起きた原因不明の通信障害、インフラ麻痺の事例を分析すると、そこには明らかに“高EMP”特有の特徴があった。


「これは……ロシアの核は“別物”だ」


中村の仮説はこうだ。アメリカの戦術核は低EMP設計で、ピンポイント攻撃が可能。対して、ロシアの核兵器は未だ高EMP設計を保持し、発動すれば“電子文明”そのものを殺す。爆風でも放射線でもない、“見えない死”──その圧倒的な範囲と非可逆性により、使う者さえ自国の崩壊を恐れ封印しているのだ。


この事実は、どの国も公表しない。というより、知っているのは“ロシアだけ”かもしれない。アメリカは、ロシアの核も自国と同じ「精密で抑制された兵器」だと信じ込んでいる──だからこそ、ここ数年の強気な軍事的挑発も説明がつく。


「EMPの恐怖を、アメリカは知らない。知らないから、ロシアを追い詰める」


中村はファイルを閉じ、別の資料に目を移した。それは日本国内に建設されている核シェルターの設計図だ。通信系統、制御系統、電子ロック、全てが最先端のデジタル技術に依存していた。


「EMPが来れば、これらは……ただの棺桶になる」


彼は机の上に置かれた旧式のアナログ機材を見つめた。ダイヤル式の無線機、機械式換気弁、鉛遮蔽のアナログ時計。60年前の核戦略時代に設計されたそれらが、皮肉にも“生き残る”装備なのだ。


「今の世界は、電磁的に自殺装置を抱えている」


思わず呟いた中村の頭の中に、仮説が膨らんでいく。


──なぜプーチンは、挑発されても核を使わなかったのか。


答えは明白だ。


ロシアが持つ核は、“撃ったら終わる兵器”だった。都市を吹き飛ばすだけではない。衛星、インフラ、金融、通信、生産システム、全てのデジタル基盤を無力化し、文明そのものを崩壊させる。撃った瞬間に、ロシア自身も被害を受ける。だからこそ、誰も撃てない。


一方、アメリカは“撃てる核”を開発した。EMPを抑え、限定的に破壊できる兵器。だからこそ、核の使用ハードルが下がり、挑発も堂々とできる。


「抑止とは、使えるかどうかではない。**“相手が使うと思っているか”**が本質だ」


アメリカは、ロシアの核が「使われない」と確信している。それが、軍事的優位の根拠だ。しかし──


「もしその前提が、間違っていたとしたら?」


中村は背筋が寒くなるのを感じた。


そのとき、警報が鳴った。演習か、または、何かが起きたのか。研究所の防衛指令センターから、緊急通達が流れる。


《ロシア沿海部にて、未確認の核実験らしき電磁異常を探知。電子偵察機E-767の一部センサーが焼損》


まさか……。中村の頭に稲妻のような仮説が走る。


「EMPを、“警告”として使った……?」


ロシアは核を爆発させてはいない。ただ、衛星の届かぬ高高度で、“EMPだけ”を放出する実験を行ったのだ。地上は無傷。だが、電子装備には確実に痕跡を残した。


──これが、「黙示録の一歩手前」だ。


世界の報道機関は沈黙していた。なぜなら、破壊は目に見えず、証明が困難だからだ。死者も被害もない。だが、それを知る者だけには、“地球の終端”が可視化されていた。


後日、中村は極秘報告書に記した。


「ロシアは、高EMP兵器の使用を一瞬だけ示した。

 我々はそれを受け取ったか?

 それとも、再び“使える側”だけが、世界の未来を描くのか?」


報告書の最後の一文には、こう記されていた。


『核兵器とは、破壊力ではなく、**“恐怖を制御する力”**である』


中村は静かに目を閉じた。誰も気づかないまま、世界は“本当に怖いもの”の前に立たされている。だがそれを直視する勇気がなければ──人類は次のEMPで、歴史そのものを消去されるだろう。

あとがき


この短編は、ある一本のYouTube動画をきっかけに生まれました。


それは、過去に行われた核実験の映像に「ノイズが一切走っていない」という指摘から始まります。核爆発の際、強烈なEMP(電磁パルス)が発生するはずなのに、カメラが何事もなかったかのように撮影を続けている──その違和感に、私は深く引き込まれました。


 もし、核爆弾を“安全にデモンストレーション”する必要があるなら、そのEMPを制御・抑制していると考える方が自然ではないか?

 そこから、「アメリカの核爆弾はEMPを弱めるように設計されているのでは?」という仮説が生まれました。


 同時に、EMP制御がされていない“古いタイプ”の核が存在する可能性も浮かびました。もしロシアがいまだにその“高EMP型”の兵器を保持していたら? それは単なる爆弾ではなく、「文明全体を停止させる装置」としての意味を持つことになります。


この考察は、やがて一つの仮説にたどり着きます。


アメリカとロシアの核兵器は、そもそも「種類」が違うのではないか?


 もしそれが事実なら、核シェルターの設計、普及、国家の戦略姿勢、国民の核観すらすべてが異なってくる──その結果、日本がどう位置づけられているのかもまた、違って見えてきます。


 この思考実験の果てにたどり着いたのが、この物語でした。


「核は怖い」。

けれど、現代社会にとって本当に怖いのは、“EMPの方”かもしれない──


文明がすべて電子化された現代においては、“目に見えないEMP”こそが最も静かで、最も致命的な兵器なのかもしれません。


物語の中のような未来が訪れないことを、心から願います。


──2025年、ある夏の日に

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