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6 王女ディオーネ



 女騎士は俺たちの前で止まると、馬からひらりと降り立った。


 彼女自身の美しさに加え、一つ一つの仕草に華がある。


 思わず見とれてしまった。


「お前か。十体以上の中級魔族兵に加え、高位魔族まで退けたというのは」


 彼女が俺を見た。


「はい。騎士ではありませんが」


 俺は軽く頭を下げた。


 隣でフィオも慌てたように一礼している。


「ふん、騎士や戦士の体つきではないな。身のこなしも、素人のそれだ」


 彼女は俺を値踏みするように、頭のてっぺんからつま先までじろりと眺めた。


 そして、次の瞬間。


 しゅんっ!


 彼女はおもむろに腰の剣を抜き、俺の喉元にその切っ先を突きつけていた。


 その速度は、まさに神速。


「は、速い――」


 隣でフィオが息を呑むのが分かった。


 俺は無言で切っ先を見つめているだけだ。


「どうした? 今の抜き打ちに反応できないのか?」


 微動だにしない俺に、彼女は少し意外そうな顔をする。


「それとも恐怖で動けなかったか?」

「いえ、殺気がありませんでしたので」


 答える俺。


「何?」

「あなたの剣には、殺気がこもっていませんでした。だから、抵抗する必要はないと判断しただけです」


 今の俺の目には、攻撃に宿る殺気や闘気といったものが、色のついたオーラのように視認できる。


 彼女の放った一撃には、その色が一切乗っていなかった。


 本気で俺を斬るつもりがないことは分かり切っていたのだ。


「ほう? 面白いことを言う」


 彼女は剣を鞘に戻した。


「我が名はディオーネ。この国の第二王女にして、王国騎士団長を務めている」


 やはり、王族だったか。


「ザック、だったな。少し話が聞きたい。時間をとってもらえるか?」

「承知いたしました、ディオーネ殿下」

「感謝する」


 ディオーネは満足げにうなずくと、隣のフィオに視線を移した。


「そこのお前も一緒に来い。ザックの戦いぶりを目撃した生存者はお前だけだからな」




 俺とフィオは、ディオーネに連れられて駐屯地の一室に通された。


 豪華な調度品が置かれた応接室だ。


 他の騎士たちの姿はなく、部屋には俺たち三人しかいない。


「人払いはさせた。腹を割って話そうじゃないか」


 ソファに腰掛けたディオーネが言った。


「まず私は――お前に対して非常に大きな興味を持っている。特に高位魔族二体を単独で倒したのは見事という他ない。それが事実なら、だが」


 じろりと、値踏みするような視線を向けられる。


 彼女が俺の力を疑っているのは当然のことだろう。


 俺自身、この力を手に入れてからまだ日が浅い。


 その圧倒的な力に自分でも戸惑っているくらいなのだから。


「事実です! ザックさんはあっさりと高位魔族二人を殺してみせたんです」


 俺が答えるより先に、隣に座っていたフィオが身を乗り出して叫んだ。


「……あ、申し訳ありません。発言も許可されていないのに、つい」


 フィオは慌てたように頭を下げた。


「構わん。腹を割って話す、といったではないか。それはお前に対しても同じだ、フィオ」


 ディオーネは微笑み交じりに言った。


 軍人としての厳しい雰囲気をまとっているが、彼女の笑顔には温かみがあった。


「思ったことや感じたことはなんでも話してくれ。私は、お前たちの素の気持ちが知りたいのだ」

「素の、気持ち……」


 つぶやく俺。


「ザック、お前はいかなる力を使ったのだ? 見たところ戦士には見えない。だが、魔力も感じない」


 ディオーネは俺をじっと見つめた。


「私は魔法剣士だ。相手のたたずまいを見れば、剣にせよ、魔法にせよ、ある程度の実力は察知できる。だがお前は――」


 彼女の目が、すっと細められた。


 まるで俺のすべてを見透かそうとするような鋭い眼光だった。


「そのどちらもが、大したものには感じない。ありていに言えば強そうには見えん。まして高位魔族を単騎で屠るような超戦士には、な」


 そこまで言って、彼女は苦笑した。


「おっと、私の口調は不快だったか? 思ったことを言い過ぎると、側近にたしなめられることがある。もし気分を害したなら言ってくれ。詫びさせてもらう」

「いえ、私は腹芸が苦手です。以前所属していたパーティでは仲間たちの本心を見抜けず、痛い目に遭いました」


 勇者セラたちの顔が脳裏をよぎる。


 彼女たちの嘲笑や侮蔑の言葉が今も耳に残っていた。


「本心を率直に語っていただける方がありがたいと考えています」

「ふふ、お前は実直そうだからな。ならば、その言葉に甘えて率直に聞こう」


 ディオーネがソファか身を乗り出した。


「お前の力は何だ? 剣士でも魔術師でもない、もっと別種の――なんらかの異能を持っているのか?」


 ディオーネの鋭い眼光に、俺は息を呑んだ。


 誤魔化しは許されない――そんな迫力を伴う眼光だった。


 さて、なんと答えるべきか。


 俺自身、この力について何も分かっていない。


 遺跡で【タロス】に踏み潰されて、死んだと思った次の瞬間には、すべてを従える力が宿っていた。


 あの謎の声の正体も、なぜ俺が選ばれたのかも、すべては謎のままだ。


 ただ王族のディオーネなら何らかの知識を持っているかもしれないし、彼女自身が知らなくても、魔術師協会とかに問い合わせることもできるかもしれない。


「……私も、自分の力を正確に理解できているわけではありません」


 俺は正直に話すことに決めた。


「ですが、まずはありのままを説明します」


 そう前置きして、俺自身のことや超古代遺跡での出来事を語り始めた。


 俺が勇者パーティ【花蓮の姫】に所属していたこと。


 そこで荷物持ちとして、彼女たちからサンドバッグのような扱いを受けていたこと。


 そして、ダンジョンボス【タロス】との戦いで、彼女たちに見捨てられ、囮にされたこと。


 話しているうちに、あの時の屈辱と絶望が蘇ってくる。


 隣に座るフィオが、息を呑んで俺の話に聞き入っているのが分かった。


 ディオーネはただ黙って、俺の言葉に耳を傾けていた。


「……信じていただけないかもしれませんが、これが私に起きた出来事のすべてです」


 自分でも、まるで出来の悪い作り話のように聞こえる。


「ふむ……あの勇者セラたちが、そんなことを――」


 ディオーネが低くうなった。


「世間は彼女たちを高潔な勇者だとほめそやしている。私も直接の面識はないが、彼女たちの戦功はよく知っている。立派な勇者だと考えるのが妥当だろう」

「私は……真実を語ったまでです」


 俺はまっすぐにディオーネを見つめ返した。


「ただ、先ほども申し上げた通り、信じられないような内容だとは自分でも思います」

「……いや」


 ディオーネは静かに首を振った。


「腹を割って話そうと持ち掛けたのは私だ。それに応じて、お前は自分が思うところを包み隠さず話してくれたのだろう」


 その言葉には俺を気遣うような響きがあった。


「だから私は、お前の言うことを頭ごなしに否定する気はない。ただ――内容が内容だけに、無条件に信じるわけにはいかない、ということも承知してほしい」

「もちろんです。簡単に信じられるような話ではないでしょうし」


 俺はうなずいた。


「まあ、勇者の所業はここでの主題ではないな」


 ディオーネは話を切り替えた。


「私が一番知りたいのは、お前の能力についてだ。その謎の声とやらに心当たりは?」

「ありません」


 俺は首を左右に振った。


「【タロス】に踏みつぶされた後、意識が遠のく中で、突然聞こえてきたんです」

「――ふむ。もしかしたら超古代の遺跡に関係があるのかもしれんな」


 ディオーネは腕を組み、思案するようにつぶやいた。


「遺跡に……ですか?」

「お前たちが探索していたのは、超古代文明によって建造された遺跡のはずだ。そこには当時の魔道具などが眠っていても不思議ではない」


 彼女は続けた。


「我々の時代の魔法文明では解明できないほど高度なそれが、な」

「その魔道具が、俺に力を与えた――と?」

「あくまでも仮説だ」


 ディオーネは俺の問いにうなずいた。


「だが、お前が発揮した力はすさまじい。魔力の発動すらなく、意志一つで対象を打ち倒し、従える――まさに、声が告げたとおりの【上位存在】だな」

「お前の能力のあらましは分かった」


 一通りの考察を終え、ディオーネはソファに深く座り直した。


「そこで、もう一つの本題を話したい」


 それまでの探るような雰囲気とは違う。


 今度は、彼女の瞳に熱情ともいえる強い光が宿っていた。


 俺はゴクリと唾を飲み込む。


「私の元に来ないか、ザック」

「えっ」


 思わず声が出た。


「……あなたの、部下になれと?」

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