5 冴えないおっさん、真の騎士とは何かを諭す
その後、俺とフィオは都市の駐屯地にやって来た。
フィオは戦況の報告に、俺は協力者というポジションだ。
「それで、こちらの御仁が、たった一人で魔族を?」
駐屯地の一室で俺たちを出迎えたのは、フィオの上官だという上級騎士だった。
信じられないといった顔をしている。
「はい! ザックさんは俺の、そしてこの都市の命の恩人です!」
フィオが力強く断言した。
「ふん、とても強そうには見えんな。荷物持ちだと? ただのくたびれた中年男ではないか」
悪かったな。
俺は少し憮然とした。
「どうせ騎士たちと魔族が相打ちになったのを、自分一人の手柄のように吹聴しているに決まっている!」
周りにいた他の上流騎士たちも同調して俺を蔑んだ。
「そんな! ザックさんは俺を救ってくれたんです。今の発言は撤回してください」
フィオが反発したように叫んだ。
「安全な後方にいただけのあなた方に、ザックさんを侮辱する資格なんてない!」
「なんだと、小僧!}
騎士の一人が激高し、フィオを平手打ちで吹っ飛ばした。
「ぐっ……」
「フィオ!」
俺は思わず叫んだ。
彼の側にしゃがみこみ、助け起こす。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「平民上がりの騎士が、我々に意見するとは……身の程をわきまえろ!」
さっきの騎士がフィオをにらみつけている。
「――撤回しろ」
俺はそいつをにらんだ。
「何?」
「フィオへの侮辱を撤回し、さらに今の言動を彼に詫びろ」
俺はそう言い放った。
「貴様――」
「これは単なる抗議じゃない」
俺は眼光に力を籠める。
「命令だ」
とたんに、
びくんっ!
その騎士の体が大きく震えた。
「ひ、ひいっ……」
たちまち、そいつの顔が真っ青になる。
「もう一度言うぞ」
俺は眼光に、さらに力を乗せる。
「撤回と謝罪だ」
「うううう……い、今の言葉を……取り消し……ます」
そいつは悔しげな顔でうめいた。
「も、も、申し訳ありませんでした……っ」
さらに深々と頭を下げる。
「い、いえ、俺は別に――」
フィオは慌てたように両手を振った。
というか、呆気に取られているのか。
その後、俺たちは一通りの報告を終え、部屋を後にした。
「あの、ありがとうございました……気を使っていただいて」
フィオが俺に礼を言ってきた。
「俺、平民出身だから……ああいう貴族の騎士たちにはいつも見下されてるんです。それが悔しくて――」
「出自なんて関係ない」
俺はフィオに向き直る。
「後方でふんぞり返っているだけの連中より、民を守るために前線で命を懸けて戦ったお前の方が――よほど素晴らしい騎士だ」
「そ、そんなこと……ありません。俺、仲間が次々と殺されていく中で……怖くて……何もできなくて……」
フィオは悔しそうに肩を震わせた。
「役に立てなかった……」
「何を言っているんだ」
俺は彼の言葉を強く否定した。
「お前が――いや、お前たちが戦ってくれたから、魔族は都市に侵入できなかったんだ。大勢の民を救ったのは、お前たち騎士団だ」
「でも、俺は……!」
「仮にお前たちがいなかったら、どうなっていたと思う? 俺がここにたどり着いたとしても、その頃にはもう、多くの民が殺されていたはずだぞ」
俺はフィオの目をまっすぐに見つめた。
「お前たちが命を懸けて盾となり、時間を稼いでくれた。だから、この都市は守られたんだ。誇りを持て、フィオ」
「ザックさん……」
「お前は、そして死んでいった仲間たちは、紛れもない英雄だ」
「ザック、さん……」
フィオの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「――っと、説教臭かったか? 俺みたいなオヤジの悪い癖だな」
俺は苦笑いした。
「……いえ、ありがとうございます」
フィオは涙を拭い、深く一礼した。
それから顔を上げると、その表情はさっきまでの弱々しいものではなくなっていた。
「あなたにそう言っていただけると、今回の戦いを……死んでいったみんなのことを、誇りに思えます」
フィオの言葉には強い意志がこもっていた。
「俺、がんばります。死んでいったみんなの分まで――もっと強くなって、今度こそ、みんなを守れる騎士になります!」
「ああ」
俺は彼の決意に深くうなずいた。
「お前のような騎士がこの国を守ってくれる限り、民たちは安心して生きていけるんだ」
そのときだった。
にわかに周囲が騒がしくなり、統率された馬蹄の音が近づいてきた。
見れば、一団の屈強な騎士たちに護られて、一人の女騎士がこちらへ向かってくる。
白銀の甲冑に白いマント、白ずくめの女騎士だった。
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