4 冴えないおっさん、圧倒的な力を発揮する
勇者パーティを追い出された俺は、これからどうやって生きていくかを考えていた。
ひとまず、冒険者をやって日銭を稼ぐか――。
そう考えて、ダンジョンから一番近い町に向かった。
だが、町まで来てみると、そこは魔族兵の集団と騎士団との戦場になっていた。
中級に進化した魔族兵たちによって、騎士団は既に全滅に近い様子だった。
生き残っているのは、どうやら一人――。
それが、俺がこの町にたどり着いたときの状況だ。
以前の俺なら、何もできずに逃げ出すしかなかっただろう。
けれど、今の俺には【上位存在】の力がある。
生き残った騎士を助けなければ――。
そう思って、中級魔族たちを見据えた。
そいつらは、俺が一にらみしただけで石のように砕け散った。
「いや、思った以上にすさまじいな……」
あっという間に風化し、飛び散ってしまった魔族の残骸を見回し、俺はつぶやいた。
まるで神にでもなったかのような万能感だ。
「生き残ったのは、お前一人か?」
俺が声をかけると、少年騎士はびくっと震えた。
「……はい。後は全員やられました」
彼はうつむいて答えた。
それからショックを振り払うように顔を上げ、
「あ、申し遅れました。俺はフィオといいます。助けていただきありがとうございました」
「俺はザックだ。お前だけでも助かってよかった」
俺は彼の無事を労った。
「あの、あなたは魔術師なんですか? こんなすごい魔法を使う人、王都でも見たことないです」
「魔術師? いや、俺は――」
俺は自嘲気味に口の端を歪めた。
自分でも、自分が何者なのかよく分からなくなっていた。
俺は――今でも人間なんだろうか?
それとも……。
「ただの荷物持ちだ。もう首になったがな」
「は、はあ……?」
フィオは俺の答えが理解できないといった様子で、キョトンとした顔になった。
――と、そのときだった。
「おいおいおい、先遣隊が全滅だとぉ?」
「誰よ、あたしたちの兵士をこんなにしちゃったのは?」
声のした方を見ると、二つの人影が空から舞い降りてくるところだった。
いずれも角と翼を備えた二人組の男女だった。
いずれも整いすぎるほど整った顔立ちが、人間離れした印象を受ける。
「――高位魔族か」
俺は二人を見据えた。
勇者パーティに所属していたころ、何度か戦場でその姿を見たことがある。
たった一体で数百数千の兵士を薙ぎ払い、町のひとつやふたつを簡単に滅ぼす力を持つ最上位の魔族。
勇者セラたちでさえ、一筋縄ではいかない強敵だ。
それが、二体。
「くっ、魔族め……!」
フィオが剣を構えなおした。
その闘志をあざ笑うかのように、
ばきんっ。
乾いた音が響き、フィオの剣が半ばから折れて砕け散った。
「っ……!?」
フィオが目を見開いて絶句した。
「雑魚が」
男の魔族が嘲笑した。
「お前ごとき――俺たちに剣を向けることすら許さん」
「ねえ、ラグーザ。この子、殺しちゃおっか?」
女の魔族がラグーザと呼ばれた男の腕にからみつき、甘えた声を出した。
「あたしたちと戦おうとするなんて生意気じゃない」
「好きにしろ、ファイゼラ。そいつだけじゃない、この町に生きる者は皆殺しだ」
ラグーザは鼻を鳴らし、女魔族ファイゼラに告げた。
「じゃあ、そういうことで――さよなら、人間の坊や」
ファイゼラが右手を突き出した。
その掌に黒いの魔力光が渦巻き、巨大な光弾が放たれた。
「ひ、ひいっ……!」
まっすぐ迫る光弾を前に、フィオはへたりこんだ。
光弾が彼に直撃する――その寸前、
ばしゅんっ!
跡形もなく消し飛んだ。
俺が一にらみして消し飛ばしたのだ。
「えっ……?」
ファイゼラがポカンと口を開ける。
「無効化魔法か? だが、魔力の発動気配はなかったが……」
ラグーザが訝しげに眉を寄せた。
俺は一歩前に出た。
「こいつに手を出すな。お前たちの相手は――」
二人に言い放つ。
「この俺だ」
「……ほう」
ラグーザが面白そうに目を細めた。
「死にたいらしいな」
「こいつも生意気ね。いいわ、あんたから殺してあげる」
ファイゼラが今度は俺に狙いを定めた。
ヴンッ。
彼女が右手を振るうと、そこに光り輝く魔力の剣が生まれた。
「散れ」
俺は、ただ一言――そう告げた。
ばしゅんっ!
先ほどフィオの剣が砕かれたのと同じように、今度はファイゼラの魔力剣があっさりと消滅した。
「えっ? えっ?」
ファイゼラは再び自分の手を見つめ、信じられないといった表情を浮かべている。
「次はお前だ」
俺は冷たく言い放ち、ファイゼラを見つめた。
ざんっ!
一瞬の出来事だった。
ファイゼラの首が胴体から離れ、宙を舞う。
頭部を失った彼女の体が、糸の切れた人形のように倒れ伏す。
「ファイゼラ!?」
ラグーザが叫んだ
「き、貴様、よくもファイゼラをーーっ!」
ごごごごご……っ!
ラグーザの体から、すさまじい魔力が噴き出す。
その体がみるみるうちに膨張し、身長10メートルを超える巨人へと変貌した。
「許さんぞ……八つ裂きにして殺してやる!」
「無理だな」
俺は巨人となったラグーザを見上げた。
次の瞬間、
めりめりめり……っ。
不気味な音が響き渡った。
巨人ラグーザの体が頭のてっぺんから股間まで一直線に裂けていく。
真っ二つになった巨体が、それぞれ地響きを立てて倒れた。
瞬殺――。
圧倒的な力を持つはずの高位魔族二体も、俺の前では赤子同然だ。
背後で息を呑む音が聞こえた。
振り返ると、フィオがぺたんとその場にへたり込むところだった。
「な、なんだよ、これ……」
呆然とした瞳が俺を見つめる。
「なんなんだよ、あんたは――!」
その瞳に恐怖の色が浮かんでいた。
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