23 【上位存在】の力でディオーネを成り上がらせる
謁見の間が、静まり返っていた。
メルディア王国で最大の権勢を誇っていた宰相バルデスが、衛兵たちに両脇を抱えられて引きずられていく。
「お、おのれ、離せ! 離さんか! この俺はメルディア王国宰相バルデスであるぞ! 無礼者が! うおおおお……っ」
彼の顔は絶望と混乱で歪んでいた。
この事態は、俺の意志一つで実現した。
俺の【上位存在】の力が、一人の人間の人生を――いや、この国の権力構造を根底からひっくり返したのだ。
単純に戦闘だけに活かせる力じゃない。
使いようによっては、国一つすら簡単に揺るがすことのできる力だ。
俺はあらためて、そのことを肝に銘じた。
「よいか。宰相が不在となり、国政に混乱が生じることは避けねばならない」
未だざわめきが残る中、ディオーネが凛とした声でその場の全員に告げた。
「まずは宮廷の浄化を始める。バルデスの汚職にかかわった者たちを、彼と同じく厳しく処断する。しかる後、清廉に国務に携わっている者たちによって、この宮廷を立て直す。腐敗した宮廷を、な」
ディオーネが宣言する。
列席する大臣たちの半数は青ざめ、もう半数は顔を紅潮させていた。
前者はおそらく汚職にかかわっている者、後者は宮廷の再建に情熱を燃やす者だろう。
「……頼むぞ、ザック。私に力を貸してくれ」
ディオーネが小声でささやいた。
「承知いたしました、殿下」
俺は彼女に一礼する。
そう、前者を宮廷から放逐し、後者を重用する――ディオーネはそのために、これから辣腕を振るうはずだ。
俺の【上位存在】の力があれば、彼女の改革を後押しできる。
いや、一気に加速できるはずだ――。
その後、メルディア王国の宮廷は激動の日々だった。
宰相バルデスの失脚により大きな権力の空白が生まれた。
バルデスの息がかかっていた貴族や官僚たちは汚職が明るみに出るにつれ、次々と投獄され、あるいは失職し、みるみるうちに宮廷から一掃されていった。
バルデスを側近と頼んでいた第一王子は、病気と称して姿を現さなくなり、宮廷の勢力図はディオーネとその一派によって埋まっていく。
それに伴う混乱は決して小さくなかったが、彼女は高い手腕を発揮し、さらに俺が『協力』することで、それを次々に収集していった。
たとえば――。
軍の予算案がバルデス派の者たちによって承認を遅らされていると見るや、ディオーネ自らが将軍のもとまで赴いた。
「将軍、なぜ予算の承認をためらう」
「ふん、たとえ王族といえど、無条件で軍を動かせると思わないでいただきたい。それに我々は殿下の進める改革案には断固として反対である」
将軍はディオーネが相手でも尊大な態度を取っていた。
彼はバルデスと同様、第一王子の側近なのだ。
ディオーネは彼からすれば、政敵以外の何物でもない。
「知っての通り、我が国とヴァールハイト帝国との間では緊張が高まっている。軍備の増強は必須だ」
「それは帝国側の軍備の増強を誘い、二国間での戦争を誘発しかねない――これが第一王子殿下のお考えだ。ワシもそれに賛同しておる」
「いつまで平時のつもりでいるのか。兄上……いや第一王子殿下は、今の平和が永遠に続くとお思いかもしれない。だが、危機はすぐそこに迫っているのだ」
「貴殿は、よほど戦争をしたいと見える」
「違うな。戦争から我が国を守りたいのだ」
ディオーネも将軍も一歩も引かない。
このままでは平行線だろう。
「私はディオーネ殿下に賛同いたします。将軍、あなたにもお力添えいただきたい」
俺がディオーネの傍らで、将軍に語り掛けた。
「なんだと、貴様――たかが従者風情が……」
「命令だ、将軍」
俺は重ねて告げる。
今度はより強い意志を込めて。
「っ……!」
たちまち将軍の顔色が変わった。
「そ、そうだ……ワシはいつまでも平和が続くと思っていた。いや、そう思いたかったのだ。だが、現実から目を背け、理想論に埋没するわけにはいかぬ……ああ、ディオーネ殿下。あなたの言うとおりだ。ワシは己の不明を恥じますぞ」
将軍はいきなり従順な態度になり、その場に平伏した。
「いや、理解してもらえてうれしい。ぜひ、私たちの国を守るために力添えしてほしい」
ディオーネが彼を引っ張り起こす。
「期待しているぞ、将軍。これからは兄ではなく私のもとで腕を振るってくれ」
「はっ!」
将軍は直立不動して、深々と頭を下げた。
こうして、ディオーネはあっさりと軍を掌握した。
そして、さらに――。
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