22 変容する勇者の力(セラ視点)
ただの村娘だったセラが、聖剣に選ばれて勇者となった日、世界は輝いて見えた。
以来、幼なじみの賢者マリンと共に魔王軍と戦い、次々と功績を挙げる日々が続いた。
人々からの称賛と名声は、彼女が幼い頃から夢見ていた『歴史に名を遺す英雄』そのものの姿だった。
――しかし、その輝かしい栄光の裏側で、彼女の心は知らず知らずのうちに増長し、驕りを生んでいたのかもしれない。
パーティの荷物持ちである中年男ザックへの理不尽な扱いは、その歪みの表れだったのだろう。
そして、古代遺跡の最深部で強力なモンスターを前にした時、彼女は自らの命と名声を守るため、ザックを犠牲にするという取り返しのつかない決断を下してしまう。
その罪悪感は日増しに強くなり、彼女の心を蝕み始めていた。
同時に、心の中が闇に囚われている感覚もまた、日増しに強くなっていった――。
「何だ、その力は……!?」
「聖なる【光】の力でも悪しき【闇】の力でもない――」
「まさか、黙示録にある【混沌】の力……!?」
天使たちの声に初めて動揺の色が混じった。
「聖剣【ヴァイス】――あたしに応えて。もう一度」
セラが聖剣を掲げた。
黄金の刀身に走っていた亀裂が塞がり、同時に表面に黒い紋様が浮かび上がった。
光と闇の混じった刀身――今の自分にふさわしい剣かもしれない。
セラは生まれ変わった聖剣を構えなおした。
「【闇】の力が深まっている――やはり汝はこの場で滅する!」
「勇者たる者が【闇】を身に付けるなど言語道断!」
「さあ、消えろ――!」
三体の天使が同時に攻撃を放つ。
「【聖なる障壁】!」
セラは高らかに叫んだ。
聖剣から輝きがあふれる。
その輝きは金と黒の二色に彩られた光の盾を生み出した。
がぎぎぎぎ……いいいんっ。
重い金属音とともに、天使たちの攻撃はその盾に阻まれ、弾き返された。
「むっ!? 我らの攻撃が効かないだと――」
「【聖なる障壁】も防御力が今までより上がってる……!」
天使たちとセラが同時に驚きの声を上げた。
【聖なる障壁】はもともとセラの聖剣による防御スキルだが、今までのそれなら天使たちの攻撃にはおそらく対抗できなかったはずだ。
聖剣がパワーアップしている――!?
ならば、天使たちが相手でも戦えるかもしれない。
いや――勝てるかもしれない。
「今度は攻撃力を試す番だね」
セラが聖剣を振りかぶる。
「せーのっ!」
気合いとともに振り下ろす。
ざんっ!
一閃。
聖剣の一撃は、三体の天使をまとめて両断した。
「おのれ……神に背きし者たちが……」
「だが、これで終わりではない……」
「神の軍勢は、どこまでも汝らを追い続けるだろう……」
天使たちはそう言い残してこと切れた。
しゅうう……。
全身が光の粒子に変わり、消滅していく。
「勝った……」
大きく息を吐き出すセラ。
だが、勝利の喜びや安堵感はなかった。
これからも自分たちは天使たちに狙われる――。
そう示唆されたことが気持ちを沈ませていた。
「……ごめん、みんな」
セラは仲間たちに頭を下げた。
「あたしのせいで……みんなを巻き込んで」
「そんなことないわよ、セラ」
マリンが微笑む。
「仲間でしょ」
「ですわね」
うなずくエルザ。
「凹んでんじゃねーよ、セラ」
ユウナが笑う。
「私はどんな状況でも勇者の盾になる……それだけ」
と、シーリス。
「みんな――」
セラは大切な仲間たちを見回した。
「ありがとう」
それから数時間後、セラは仲間たちの目を盗み、一人宿の外に出ていた。
「――ごめん、みんな」
やはり仲間たちを巻き込むわけにはいかない。
「あたし、ここからは一人で行くね」
狙われるのは、自分一人でいい。
セラは決意を新たに、一人で踏み出した。
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